──第29話──

カルロスから言われた後、不安に思いながらも過ごしていたが、特に何も無く数ヶ月が経っていた。


俺……厄災を止める事に対して了承した覚えは無いんだけどなぁ……。


最近はカインやライアは忙しそうにしていて、ネロも忙しそうだ。

ついにはラルフもジョセフに連れられ仕事に出ているらしい。

俺はカインに仕事はまだ早いと言われ、今は広間で黄昏たそがれている。


近々厄災があるって言われても平和なんだよな。


つまり、暇だ。


森に出ても良かったが、何となくそんな気分になれなかった。


身体で風を感じながら、ぽかぽかと暖かい太陽の光を感じていると瞼が重くなってくる。


『あ!!ルディいたー!おーいっ!』


久しぶりに聞くラルフの声に目を覚まし、声のする方へ顔を向ける。


『…………誰?』


駆け寄ってくる姿はいつもの銀髪ではなく、黒に近い色の髪をした男だった。


『えぇ!?僕だよ!?ラルフ!』


『はぁ!?どうしたんだよ、その髪!!』


『えへへ、ルディを驚かそうと思って仕事してた姿のまま来たんだー!どう?どう?似合う?』


そんな女子みたいに言わなくても……。


『あ、あぁ。一瞬誰か分からなかった。それ、どうなんてんだ?』


『えとねー、この魔法道具を使うとね、人間に紛れやすくなるんだっ!』


ラルフは説明をしながら、自分の首に付いたチョーカーを指差しながら続ける。


『これを付けてると、髪色が変わってー、人間の言葉が聞こえる様になるし、喋る事も出来るんだよ!すごいよね!!でも、これを付けてると狼の姿になれないから、不便なんだよねー。』


『人間の言葉が話せる……?でも、今は違うよな??』


『うん!僕の意識でどっちでも使えるんだって!!便利だよねー!』


『へぇ、俺の分は無いのかな。』


『うーん、どうだろう?神狼族専用だって言ってたと思う!他の魔物とかに使われると厄介なんだって!!』


神狼族専用だったら、人間族の俺には使えないんだろうな……。

人間族に人間に紛れる魔法道具は……本来必要じゃないだろうし。


「じゃあ、この言葉でも、今はラルフに通じるんだ?」


「うん!!って、あれぇ!?ルディ人間の言葉話せるの!?」


『話す機会が無かっただけで、出来るぞ。』


『うわぁ!ルディすごい!すごいねぇ!!』


手放しで誉められても、俺が努力して手に入れた訳でも無いから、何となく居心地が悪い。


『と、ところで。ラルフは何の仕事を手伝ってたんだ?』


『えっとねー、最近、人間の国の方で〈闇落〉みたいな人がいるみたいで、その調査……かなぁ?』


『人間で〈闇落〉?』


『うん、でもね、情報を集めたりするのは僕の仕事じゃなくってー……詳しくは分かんないっ!!』


『そっかー、分からんかー。』


『うん!!』


『んじゃ、何してたの?』


『人間の中にはね、〈闇落〉を悪さに使おうとする人がいるんだって……可哀想だよね、早く解放してあげなきゃ苦しむだけなのに。』


『でも、〈闇落〉って理性の欠片も無くなってるだろ?それをどうやって悪用するんだよ。』


『なんかねー、魔術?魔法?とかで操ってるんだってー。人間は魔物の言葉は分からないから、理性があっても無くても関係が無いってお父さんが言ってたよ!』


『なんか、理解出来ねぇな。』


理解したくないって方が正しいかもしれない。


『僕も分かんない!それで、その〈闇落〉を隔離してたりするから、その場所を聞くのが僕の仕事なんだって!』


『ただ聞いただけじゃ教えてくれないんじゃないの?』


〈闇落〉を悪用しようとする奴らは、真っ当に生きてる訳じゃないと思う。


『それはー、その人を部屋に誘って、ゆーっくりと話をしやすい様にするんだ!』


『…………。』


『殺さない様にするのは大変だよねー。耳も痛くなるし、やりすぎちゃうと寝ちゃうんだもん。』


…………えっと、ラルフさん?

それ拷問じゃないですかね?

笑顔で恐ろしい事を口走ってるよ!?

ラルフはもっと純粋な子だと思ってたのに!!


『でもね!ちゃんと手加減出来る様になったんだよ!ルディと遊んでたお陰だね!』


そういえば、ラルフは昔っから俺をいたぶるのが好きだった様な……。

やりすぎて、腕を何回かもぎ取られたりもしたし……。

もう、その素質はあったんだな……俺が知らなかっただけで……。

ラルフは笑顔鬼畜ドSに認定しよう。


『あぁ…………ラルフがドSだったとは……。』


『どえす?何それ??』


『気にするな、もう、そのままのラルフでいてくれ。』


『??うん!分かんないけど分かった!!』


純粋な笑顔で拷問されるのって恐怖しか無いんじゃないかなー……。

俺、絶対に耐えられる気がしないや……。


『んぁ?ルディにラルフ?揃って何してんだ?』


『あぁ……?お前、ネロか?』


『おかえりー!ネロ!!遅かったね!』


『ラルフが早すぎるんだよ。後、俺の方はまだ少し仕事が残ってたからな。あれ、ルディはこの姿見るの初めてだったか?』


そこに現れたネロの髪色は、やはり銀髪ではなく、明るいオレンジの様な色をしていた。

そして、ラルフと同じ様に首にはチョーカーが付けられている。


久しぶりに三人が揃い、軽口を叩きながら雑談をする。


─────平和だなぁ。












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