Ring Me!

床町宇梨穂

Ring Me!

僕は彼女とデートをして別れるときがダイスキだった。

別に彼女の事が嫌いだったわけでも、緊張感から開放されるのが嬉しかった訳でもない。

普通別れ際というのは寂しい。

相手の事が好きなら好きなほど寂しい。

僕だってもちろん寂しかった。

でもそれ以上に別れ際が好きだった。

「Ring Me!」

親指と小指を頭の横で立ててそう言うのだ。

僕は彼女の寝顔も好きだったし、下から覗き込むように僕を見るときの顔も好きだった。

でも”Ring Me”に比べたら他の顔が霞んで見えた。

なぜ”Call Me”ではなく”Ring Me”だったのかは今でも分からない。

きっと彼女は僕に電話をかけてほしかったのではなく、僕に彼女の電話を鳴らしてほしかったのだと思う。

しかし、いつの頃からか僕は彼女の電話を鳴らさなくなってしまった。

今でも彼女のミドルネームですら思い出せるのに、どうして別れたのかが思い出せない。

別れ際がダイスキだったのに、本当の別れは思い出せない。

彼女がいつもの様に指を立てて”Ring Me”を言わなかったからかもしれない・・・。

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Ring Me! 床町宇梨穂 @tokomachiuriho

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