第6話 エルフの隠れ里
話について行けなくなったグエンは、しきりに首をかしげながらリエスの小屋を去って行った。どうやら彼の中ではスカウトに失敗した剛士の存在は無かった事になっているようで、帰り道も知らない彼を置いてきぼりにして村へと戻っていったのだ。
「あのオッサン……いい加減にも程があるだろ……」
「彼の事は良いから。とりあえずこっちに来てちょうだい。安全なところに連れて行くから」
呆れる剛士を外に連れ出し、リエスは小屋の近くにある大きな二本の木の間に立つ。そして目をつむって静かに両手を前方にかざし、何やら小声でブツブツと呟き始めた。その様子を後ろで見ていた剛士は興味深げに彼女を眺めていたが、何の変化も起きない事に一瞬で飽き、その場に座り込んで行進する蟻の数を数え始めた。やがてそれにも飽き、ため息をついてリエスを見上げた剛士が見たのは、汗だくになったリエスと彼女の前方に光り輝く穴だった。驚いて目をこらすと、穴の先には今居る小屋に似た木造の建物がいくつも建っており、数が少ないながらも何人かの人が行き交っている。
「え、何これ!? ど○でも○ア!? 通り○けフー○!?」
もちろんこの現象はリエスの力であり、肝心なときにいつも違う物ばかり出す役立たずな青団子の便利道具などでは決して無い。やがて穴はどんどん広がり、人が一人通れるぐらいの大きさになるまで拡大した。
「さ、行くわよ。この扉の向こう側がさっき言った安全な場所だから」
「…………」
初めて見る魔法の奇跡に及び腰になる剛士に、疲れの出ていたリエスはイラついたのか、有無を言わさず首根っこを掴んで引きずっていく。そのエルフとは思えない怪力に剛士はビビりまくり、まるで子猫のように無抵抗なまま彼女の言う『扉』の向こう側へと足を踏み入れた。
「エルフだ……いっぱい居る……て言うか、全員エルフ?」
そう、剛士達が移動した先はエルフだけが暮らす隠れ里と言うべき場所で、彼以外全ての住民がエルフで構成されていたのだ。その上見かけるエルフ全てがリエスと同じような外見で、剛士の美的感覚からすれば美人や美男子からほど遠い容姿をしていた。そして改めて見ると、人間の村とは違い村の中にも木々が多い。中には大木をくり抜いて作った家もあるようだ。
「そうよ。ここは私が育った村。さっきの森の中みたいに周りに木さえあれば、いつでも戻ってくる事が出来るわ」
「へ~……」
「ま、そんな事はどうでも良いわ。村長に紹介するから着いてきて」
見慣れない剛士の姿にエルフ達が奇異の目を向けてくる。ここに人間が入ってくる事など滅多にないために物珍しいのだ。しかしよそ者だからといって少なくとも敵意を向けてくるエルフは居なかった。なぜなら全員いかつい外見をしていても、リエスのように面倒見のいい人物ばかりだからだ。
「村長。リエスです。開けてください。ちょっとご相談したい事がありまして」
リエスに先導されて剛士が辿り着いたのは、他より少し大きい家だ。彼女の言葉に反応した中の住人が内側から扉を開くと、そこには一人の美少女が立っていた。
「おお……これぞ正しくエルフ!」
明らかに他のエルフと違う容姿。大きな耳とぱっちりした目。そして小ぶりではあるが形の良い胸やすらりと伸びた足は、剛士他男性諸氏がエルフと言う単語を聞いて想像するエルフそのものだったろう。その美少女は現れたリエスと剛士を一瞥し、中に入れと言わんばかりの態度で顎をしゃくる。
「……あなたも来ていたのねリーフ。また村長に直訴していたの?」
「どうでもいいでしょそんな事。それよりそっちの男は何? さっきから気持ち悪い目で私の事を見ているんだけど」
二人の視線の先には、恍惚とした表情を浮かべる剛士の姿があった。初めて理想どおりのエルフに出会えた興奮は一瞬のうちに彼をトリップさせ、今彼の脳内では脳内麻薬がドッパドパと出ているところだった。
「剛士。……ちょっと剛士!」
「長いお耳をナメナメした――はい!? なんでしょうか?」
「……なんか気持ち悪い事口走ってたみたいだけど、とりあえず紹介しておくわね。この子はリーフと言って、村では一番年若いエルフなの。見ての通り少し残念な容姿だけど、仲良くしてやってね」
「私がブサイクなんじゃなくて、あんた達がブサイクだって何度言ったらわかるの!?」
ため息を吐くリエスに美少女がもう抗議する。その横で剛士は素早く頭を回転させていた。
(確認しておこう。今の台詞はこのゴツイエルフが美少女エルフに向けて言った言葉だ。確かに今、このブサイクは美少女に対して『残念な容姿』って言ったな。てことはだ、コイツらの美的感覚は俺の持っている物と随分違っていると考えて間違いない。信じられん事だけど)
剛士の目から見ても――いや、普通の感覚なら十人中十人がリーフの方を美少女だと断言する。しかしリエス達にはそうではないらしく、彼女の感覚からするとリーフはブサイクになるようだ。剛士からすれば信じられない美的センスだったが、彼にとってこれはチャンスと言える。
(ブサイク扱いされているこの子を美人だとか綺麗だとか褒めあげれば、ひょっとして俺に心を開いてくれるかもしれん。そうすりゃ労せずに美人嫁ゲットだぜ!)
剛士がそんな事を考えているとも知らず、二人のエルフはにらみ合うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます