第11話交通事故と悪魔
「ありえねぇ、ありえねぇよな。このばばあ」
『だよね。本当に腹立たしい。ここに鈍器のようなものがあったら、迷わず振り下ろしているところだよ』
「それすると、10対0でお前が悪くなるぞ。そして殺人の罪に問われる」
『確かに』
私は心中で短く答える。
婆さんには、私の会話相手の姿形も見えていなければ声も届いていていない。
黒色のシックな雰囲気のドレス。
二本の長い触覚のようなアクセサリー。
私とそっくりな顔と、
そっくりな声。
私同様、この状況に怒っているようで、苛立ちを隠そうともしない。
鬼の形相。
こいつの存在ジャンルとしては、鬼というより、悪魔なのだろうけれど。
「さて、ここからどうする?時代が時代なら、切捨御免、というところだが」
『時代が時代だからね。平成どころか、今は令和だからな。武士特権はないよ。』
ちなみには、私の家系は武士である。
実家に行けば鎧武者の置物がお出迎えしてくれるし、合戦で実際に人を斬ったという刃にもお目にかかることができる。
銃刀法違反ではないか、とは思うがアンテイークだから問題ない、ということだと思う。
たぶん。
「欠片でも悪いと思っているなら、土下座で謝罪が令和の世の中でもマナーだろうが、このばばあは違うようだな」
『ばばあだからね。令和を生きていない』
生きるべきでもない、と私は付け加えた。
「それで、どうする?老人を説得するというのは、なかなかに難しいものと聞くが。経験、年齢ってのは厄介だからな。間違った知識、常識でも、重ね束ねれば本人たちにとっては真実になる。それに、お前は事故処女だろ?今後の基本ストーリーもあまり理解できていない」
そうなのである。
今回のが、私の初体験。
この婆さんが、私の処女喪失なのだ。
ーーそんな風に言うと、
とても色っぽく、
とてもいやらしい。
単純に、初めての事故、というだけの話なのだが。
『確かに、説得することは難しいね。職場の現場の爺様とか、メーカーの会長様とか、私の話まともに聞かないし理解できてないし。だけど、やりようある』
「ほう、どうやって?」
『説得する必要はない。悪いのは相手だ。過去の判例や法律的にはどうか知らないが、私が回避不能というのは事実だ。私は悪くない。1割どころか、1厘も。なら、相手に遠慮する必要はない。私の全スキルを持って、圧殺するだけだ』
正義は必ず勝つ、
勝たなければならない。
どんな手段を使っても、
どんな非道を働いても。
まあ、そもそもこの世界は勝った方が正義になるのだから、その論理もちょっとあべこべでぐちゃぐちゃなんだろうが。
だから、私は正義をこう定義付けている。
可愛いは正義、だから私は正義、と。
故に、婆さんよ。
正義の下に、
私の下に、
滅べ。
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