彼らの旅路に祝福を~あるいは元勇者の巡礼の旅~
鬼灯 一夏
プロローグ
気づけば雨が降り始めていた。
木に背中を預け、いつからか降り出していた雨音に耳を傾けた。 もうどれほど走ったのかも、ここがどこなのかも、どれだけの日数が経ったのかもわからなかった。 ただひたすらに人が通らない道だけを通ってきたことだけは確かな記憶だ。
「……っ」
甲冑の隙間から入った雨水が傷口にしみこんだ。 先ほど不意打ちをしかけてきた野盗の一撃をかわしそこねた時につけられた傷だ。 想像していた以上に時間は経っていなかったらしく、まだ傷口は赤く濡れていた。
天命なのだろうか、そんな言葉が頭をよぎった。 あたりに薬草はおろか、川や湖のような気配はない。 逃げるときに残った魔力をすべて使ってしまったために回復の魔法も使えない。 こんな森の中、加えて自分ですら場所の詳細もわかっていないのだからアテなんてあるはずもない。 ここで力尽き、野盗に好き放題弄られてそのまま雨風に打たれて朽ちていくのだろう。
雨足が強くなった。
俺のまぶたも重くなった。
(少し……休む、か……)
心の奥底ではこの眠気がどういうものかは理解していたが、抵抗する気にはならなかった。
かつて世界を救いし勇者、または王族虐殺事件首謀者、オサ=グロウリーは名も無き森の中で静かに幕を下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます