第465話16-19立ちはだかる者

 16-19立ちはだかる者



 あたしたちは既にモルンの町を出発していた。



 「ゴエム、ルド王国について話してもらいましょう」



 ティアナはそう言ってゴエムを見据える。

 ゴエムは軽くうなずき話し始めた。



 「お前らだって知っているようにルド王国はホリゾン帝国の実験場だ。新規に開発したゴーレムや魔道具をあの国で試験している。そして街自体は存在しているが無いも同然だ。あそこの住民は管理者以外全て人では無いのだからな」



 馬車に揺られあたしたちはゴエムの次の言葉を待つ。


 「『魔人戦争』であの国は事実全ての住民が魔人たちの餌食になった。復興を手助けする名目で残留魔素の高い試験場としてホリゾン帝国が庇護下に入れた訳だがあそこはもともと何かが封印されていた場所だと言う事は早くから知られていた。だがまさかそれが『狂気の巨人』とはな」



 「それで、ホリゾンは封印の場所や魔法陣などを見つけたのですか?」



 少しクールダウンしたティアナは一番肝心な事を直接聞いている。


 「残念ながらそれは分からん。ジュメルが躍起になって何かの研究をしていたと言う事は我々宮廷魔術師にも知れているが詳細は知らされていない。ただ、分かっている事は町を囲うように十の祠が有ると言う事だけだ」



 十の祠!!



 伝説には都市が入るほど大きな魔法陣を作りそこに「狂気の巨人」を封じ込めたと伝えられている。

 

 そうするとその祠に「女神の杖」を設置して使用するものなのか?


 

 「ゴエム、その祠と言うのは今もあるのですか?」


 「ああ、よくは知らんが重要施設として扱われているらしい。もっともこの事を知るのは限られた人間だけだがな」


 ゴエムはそう言って大きくため息をついている。


 「後は分かっている事は罪人が実験に使われているという噂位だ。何せルド王国は外壁の中には簡単には入れないからな。行商の連中も外壁の外にある施設に品物を持って行くくらいだ」


 「では壁の中は誰もいないのですの?」


 「さっきも言ったが人で無い者はいる。あとは罪人らしき人間の悲鳴が時たま聞こえるそうだがな」


 「罪人って、ルド王国は処刑場なの?」


 シェルが思わずゴエムに聞いてしまう。

 一応は王国を名乗るのに住民はいないわ人間が存在しても罪人だけだとか。



 「処刑場の方がまだましなのかもしれん。死んじまえば終わりだからな」



 「ゴエム、まさかあなたビエムの事を‥‥‥」


 「調べたさ。兄貴がどうなったか。お前らに負けてその責を問われ魔道の試験参加させられたという所まではな。兄貴もまだあの壁の向こうかもしれんが‥‥‥」



 「ゴエム、貴方‥‥‥ ビエムはもう‥‥‥」



 「なんだ? エルハイミ、お前何か知っているのか!?」


 あたしはあの時の事を思い出す。

 そしてその事を話そうとするとショーゴさんが先に話し始めた。



 「ゴエムとやら。お前の兄、ビエム=カースは立派に戦い俺に敗れた。最後まで見事にその役目を果たしたのだ」



 ショーゴさんは引かれる馬の方を見たままそう言った。


 「何!? 兄貴が貴様と戦い破れたというのか!」


 「ゴエム、ビエムは最後にこの事は内緒にしてくれって言ってましたわ‥‥‥」


 乗り出すゴエムにあたしはそう告げる。


 「‥‥‥そうか。兄貴の最後はどうなったか聞かせてくれ」


 あたしは淡々と事実だけを話した。



 「まさか、キメラに融合されていたとは‥‥‥ 兄貴。エルハイミ、その女幹部ってのはジュメルなんだな?」


 「ええ、ジェリーンと名乗っていましたわ」


 「ジェリーン!? まさかジェリーン=ベスボンか!? 名門ベスボン家の令嬢でわけあってジュリ教の教会に預けられたと聞いたがその後姿を消した。まさかジュメルの幹部をしていたとはな‥‥‥」


 ジェリーンはもと何処かの令嬢でジュリ教の教会にいた人物だったのか?

 そう言えばゾナーもなんか言っていたような‥‥‥


 「全くジュメルってのは何処までも‥‥‥ まあいい。それよりルド王国だが『魔人戦争』の後その街ごと城壁で囲み魔人召喚の跡地に勝手に人が入れなくしてある。東西南北に四つの門がありその外側に管理施設と呼ばれるホリゾンの建物がある。先ほども言ったが住民はもういない。そのイパネマとか言う女が行くとすればどこかの施設だろう」


 まるでガレントの「中央都市」のようだけどこっちはもっと酷そうだ。

 人体実験まで行われているとなればかなり厳重に管理されているだろう。


 そんな事を話している矢先だった。



 「主よ!」



 ショーゴさんが馬車を止めあたしたちを呼ぶ。


 「イパネマだ」


 「なんですってですわ!!」

 

 「イパネマっ!!」


 あたしもティアナも驚き馬車の幌から外を見る。

 すると道の先にあの女が立っていた。



 「イパネマぁっ! よくもぬけぬけと我々の前に立てたなっ! 今すぐ切り捨ててくれるっ!!」



 ティアナは飛び出し剣を抜く。

 そしてまさに飛び掛かろうとしたその矢先だった。


 イパネマは無表情で片手をあげた。



 「お母さん! 駄目っ!!」


 

 セキが飛び出し竜の姿になってそれに体当たりする。


 

 「何っ!?」


 セキが体当たりしたのは魔怪人だった。

 そして見れば馬車はいつの間にか魔怪人たちに囲まれていた。

 その数は驚くほど多い。



 「ティアナ将軍、それにエルハイミさん。ここから先には通さないわ。既に儀式は始まった。もう止められないわ」



 「儀式が始まっただと!?」


 「まさか、『狂気の巨人』の封印をですの!?」



 ティアナは魔怪人を切り伏せポーチからアイミを引っ張り出す。

 


 「お母さん、数多すぎ! 下がってブレスを吐くから!!」

 

 セキはそう言ってティアナとアイミが下がったそこへブレスを吐く。

 一気に十数体の魔怪人が炎に包まれるもその後ろからまた魔怪人たちが迫ってくる。

 


 既にショーゴさん、シェルにクロエさん、クロさんも馬車から出て身構えている。


 「お母様数が多い。お母様は守りを。クロ、クロエ、そしてベルトバッツたちよこの魔怪人どもを殲滅せよ!」



 「はっ!」


 「わかりましたでいやがります黒龍様!」


 「御意!」



 コクの命令に一斉にクロさん、クロエさんやベルトバッツさんが飛び出し魔怪人たちを蹴散らし始める。


 しかしその数が尋常じゃない。

 これってもしかしてあの種も使っている!?



 「もうすぐよ。もうすぐで『狂気の巨人』は復活する。そしてこの腐った世界を破壊しつくすのよ!! ティアナ将軍、エルハイミさん、あなたたちの負けよ。ジュメルの保有する全ての魔怪人と魔道でお相手するわ! いでよ巨人ども!!」



 イパネマはそう言って魔晶石を懐から取り出し呪文を唱える。

 すると彼女の目の前に魔法陣が浮かび上がりそこからあの巨人が地面からせり出してきた!?



 あんな大きなものを召喚できるなんて!?



 「出やがりましたですね!? クロ様、こいつは私が!!」


 そう言ってクロエさんはあの巨人にとびかかる。


 

 「エルハイミ! だめ数多すぎ!! このぉっ! 風の精霊王よこいつらをなぎ飛ばしてぇ!!」


 シェルは馬車の幌の上に立ち精霊魔法を使っている。

 ティアナやアイミ、ショーゴさんもいくら倒しても次から次へと出てくる。



 「ティアナ! 初号機を出しますわ! こちらに!!」


 「ティアナ! 早く!!」



 あたしは馬車から飛び降りポーチからキャリアーハンガーごと初号機を引っ張り出す。

 マリアも叫んで先に初号機に乗り込む。



 「うわっ! なんじゃそりゃぁ!?」

 

 驚くゴエムにあたしは言う。



 「ジュメルに恨みがあるなら今は手伝いなさいですわ! セレとミアムを守ってですわ!!」



 あたしに言われてゴエムは馬車の中の二人を見る。

 そして舌打ちをして叫ぶ。


 「そこの女どもとにかく俺の杖を寄こせ! このままじゃ魔法もうまく使えん!! エルハイミ、仕方ねえこいつらは俺が守ってやる!」



 その言葉を聞きあたしもティアナが戻ってくる方向を見て片手を向けてショーゴさんとセキに言う。


 「大きいの行きますわよ! ショーゴさん、セキ離れてくださいですわ!!」


 そして二人がその場を退いた瞬間に【爆裂核魔法】をぶち込む。



 「【爆裂核魔法】ぉっ!!」



 あたしの手の先に赤い光が収束していく。

 そしてその光が収束し終わった瞬間にあたしの反対方向に一気に光と熱と爆風が発せられる。

 それはドラゴンでさえ一瞬で焼き尽くす業火の炎。



 きゅううううぅぅぅぅ‥‥‥


 

 カッ!



 どがごがごがぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁん!!


 

 

 「【絶対防壁】!!」



 しかしイパネマはそれを見越していたのか【絶対防壁】を展開する。

 【爆裂核魔法】はそれでもかなりの魔怪人たちを吹き飛ばしたが【絶対防壁】に守られたイパネマは健在。

 更にまたまたどこから出てきたのか魔怪人たちや追加で魔法陣から巨人が出てきている。



 『エルハイミ、初号機出ます!!』


 『いっけぇー、ティアナぁっ!!』



 起動した初号機は一気に天空に駆け上り新たに出現した巨人に向かう。



 

 イパネマ率いるジュメルの魔怪人たちとの戦いの幕が切って落とされるのだった。    

     

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る