第464話16-18あの女

 16-18あの女



 あの後二日してあたしたちはモルンの町についていた。



 「ここも入るのは厳しいのですか?」


 「いえ、この通行手形だけで大丈夫です」


 ティアナの質問にバルドさんは簡潔に答える。

 


 「一応こいつもいるから音消しの精霊魔法使うわよ。あと姿隠しもね。あんた、静かになさいよね?」

 

 シェルはゴエムにそう言う。


 「ふん、俺は何もせんよどうぞご自由に」


 ゴエムはそう言って目をつぶる。

 結局こいつも連れて来た訳だがどうしたものか。


 そんな事を思いながらあたしたちはモルンの町に入って行く。



 * * *



 「ティアナ様、この者はどういたしましょう? 我らの拠点に連れて行っていいものかどうか‥‥‥」


 モルンの町に入ってしばらくしてからバルドさんはそう言ってゴエムを見る。

 つられてあたしも見るけどどうしたものかねぇ~。


 「ここで死体を増やす事は得策ではありません。このまま拠点に連れて行きます。どのみち戦争ともなればそれどころではなくなりますしね」


 そう言ってゴエムを見ると器用に肩をすくめている。

 シェルは何処からか持ち出した袋をゴエムの頭にかぶせる。


 こうすれば拠点に入る時に何処だかは分からなくなる。

 あたしたちはモルンの町の拠点へと急いだのだった。



 * * * * * 

 


 「主よ、あの者は言われた部屋に監禁してきた。もう一度調べたが特に変わったモノは無かった」


 ショーゴさんにゴエムを拠点の監禁出来る部屋に入れてもらい一応その身も調べてもらった。

 あたしも感知魔法で調べて杖と指輪以外特にマジックアイテムも無いようなのでそれだけ取り上げてある。


 

 「ここからルド王国まで馬車で三日ほどで着きます。ルド王国にも我々の協力者がおりますので先ずはそこへ行くのが良いかと思いますが?」


 「そうですね、しかし問題はルド王国に有るという『狂気の巨人』を封じた結界の場所とその魔法陣、そして『女神の杖』をどう使うかです」


 ここまで来ると「女神の杖」の行方を探すより「狂気の巨人」を開放する為の魔法陣やそれを使う場所を突き詰め儀式が行われるときに強襲をした方が良いだろうと言う結論に達している。


 帝都であれだけベルトバッツさんやバルドさんたちが探し回っても全く見つからなかった。

 ビスマス神父は最後にイパネマが偽物を運ばせたと言っていた。

 イパネマはあたしたちと行動を共にする事によりこちらの手の内を知った。


 だからビスマス神父すら囮に使い「女神の杖」をホリゾン帝国に持ち込んだ。


 今もきっとあたしたちに気付かれないようにルド王国に「女神の杖」を運んでいるのだろう。



 「やはりイパネマが『女神の杖』を運んでいる様ですわね。あの女がどういう方法で運んでいるかは分かりませんが足取りが全く掴めないと言うのが気がかりですわ‥‥‥」


 あたしはそこまで言ってふとある事に気付く。



 ―― これより一ヵ月後、女神ジュリ様のお力が世界を、愚かな者たちを焼き尽くす ――



 皇帝ゾルビオンはそう宣言した。

 そしてすぐにでも各国に対して宣戦布告をした。


 「女神の杖」を帝都でバルドさんやベルトバッツさんたちまでもが隈なく探しそれでも見つけられなかった。

 

 そして運んでいるのがあの女、イパネマ‥‥‥



 「まさかですわ!」



 「どうしたのですかエルハイミ?」


 あたしはその可能性に内心汗を流す。

 皇帝ゾルビオンは傀儡の皇帝。

 それを裏で操っているのはジュメル、そして十二使徒。


 「バルドさん、ここの潜伏員たちはモルンの町からルド王国に向かっている人たちの監視はしていましたわよね? ここ最近ルド王国に向かった人はいまして?」


 「メルモ、最近町を出たものはいるのか?」


 「はい、バルド様。ルド王国方面でしたら昨日数名の行商人が向かっていましたが」


 あたしは直感で感じる。

 そしてここの潜伏員のメルモさんに聞く。


 「メルモさん、その行商人たちは眼鏡をかけていませんでしたの?」


 「そう言えば珍しく全員眼鏡をかけていたような‥‥‥」


 人差し指を顎に当てメルモさんは上目遣いで記憶を呼び起こす。

 

 「どうしたってのよ? 行商人がそんなに気になるのエルハイミ?」


 シェルがあたしの隣まで来て聞いてくる。

 ティアナも先ほどから首をかしげてあたしを見ている。


 「ティアナ、急ぎ出発ですわ! その行商人が間違いなくイパネマたちですわ!」


 「なんですって!?」


 あたしはびっと指を立てて言う。


 「メガネですわ! この世界で全員が眼鏡をかけている行商人なんて怪しすぎますわ! ボーンズ神父の件もありますし、変装している可能性が高いですわ! それに皇帝ゾルビオンのあの演説、一か月後にジュリ様のお力が振るわれると言っていましたがそれは皇帝自身の意思では無くジュメルに操られての事。実際にはそれより先に『狂気の巨人』を開放するかもしれませんわ、イパネマという女はそう言う人物ですわ!!」



 がたっ!



 あたしのその言葉にみんな席を立つ。



 目的の為なら何でもやってしまうのが秘密結社ジュメル。

 あたしたちがホリゾン帝国に入っている事くらいお見通しだろう。


 ガレントにあたしたちの姿が見られなければ何かの方法でジュメルにも連絡位入るだろう。



 「ふん、お前らがホリゾン帝国に入って来た事くらい既にすでに周知だよ。『赤い悪魔』と『育乳の魔女』、共にホリゾン帝国最大の脅威となっているのは子供だって知っているさ」



 あたしの考えを読み取るかのようにいきなり扉の所でそう声をかけられる。



 「ゴエム!?」



 あたしたちは剣を抜き身構える。


 「ゴエム、貴様どうやって!?」


 ティアナは剣をゴエムに向け油断なく見据える。


 「ふん、あんなやり方では俺を監禁などできるか! お前らガレントは甘すぎるんじゃないか?」


 「ゴエム‥‥‥流石軍事国家ホリゾン帝国と言いたい所ですわ。しかしその前にどうしてもあなたに聞きたい事がありますわ! なんで私が『育乳の魔女』なのですの!!!?」


 「なっ!? 聞くところそこかぁッ!?」



 何言ってるのよ!

 なんで「育乳の魔女」の方が先に出てくるのよ!!

 せめて「無慈悲の魔女」か「雷龍の魔女」が先に来てよっ!!



 「だ、だっておまえ、その、で、でかくなってあのちんちくりんなガキの頃の面影無くなって、か、可愛く成りやがって‥‥‥」


 赤くなってあたしから視線を外しながらそう言う。

 あたしは思わず自分の胸を両手で隠しゴエムに言う。


 「どこ見て言っているのですわ! ゴエムのえっちぃっ!! 変態っ! だから童貞なのですわ!!」


 「なっ! ど、童貞は関係ないだろうにっ!」



 あ、こいつ認めやがった。



 「ゴエム~、斬る!」


 「ティアナ様落ち着いて下さい!!」


 剣を振りゴエムに襲いかかりそうになるティアナをバルドさんが必死になって押さえる。

 そんな中、ショーゴさんがいつの間にかゴエムの後ろに立っていてセブンソードの短剣を引き抜き首に当てていた。


 「流石とは言いたいがよく逃げ出さずにいたもんだな。大人しくしてもらおうか」


 「あんた、俺らは奥歯にでもなんにでも道具を仕込む。今後は注意する事だな」


 そう言って両手をあげ真顔であたしたちに聞いてくる。


 「聞くがそのイパネマって女はジュメルの十二使徒って事だな? そいつが『女神の杖』をもって『狂気の巨人』を復活させるって事だな? そして『狂気の巨人』は制御なんて出来ずに人類すべてを滅ぼすってんだな?」


 「そう言いましたわ」


 あたしは胸を両手で隠したままゴエムにそう言う。

 ゴエムは真顔のままあたしに言う。


 「なら急いだ方が良いぞ。王宮内では実際には半月で巨人たちやキメラ、魔怪人どもの集団を南下させることになっている。俺たち宮廷魔術師も同行させることになっていた」


 やはりひと月待たずに動き出すか。

 それと同時に「狂気の巨人」も早急に復活させるつもりだ。



 「何故そんな事を言う?」


 ショーゴさんは更に短剣をゴエムの喉に押し付ける。

 すぅ~っと赤い血が流れ出した。


 「ふん、ジュメルがやはり我々ホリゾンの民をないがしろにしているのが気に喰わん。それに御せない化け物を復活させれば一番最初に犠牲になるのは俺たちだ。悔しいが貴様らの話信じるしかないだろう。エルハイミ、急げ。この戦争既にホリゾンの負けだ。しかしゾナー様が率いてくれるなら民は生き残れる。俺たちを、ホリゾンを救ってくれ!」


 「ゴエム‥‥‥」


 ゴエムの言葉にあたしはその予想が正しい事を思い知らされる。

 そして急がないと本当に「狂気の巨人」が復活してしまう。



 あたしたちは直ぐにでもその行商人たちを追うのだった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る