第450話16-4サボの港町
16-4サボの港町
「こちらです」
そう言ってゾッダさんはあたしたちを河川敷に立っている一軒家に呼び込む。
外装をレンガで作った典型的な一軒家だ。
中に入って見渡せば何とも質素な家具しかない。
「他の者はどうした? ロベルトやロゼッタは?」
「あの二人は表向きの仕事に出てます。今は商店の荷運びと酒場で手伝い中でしょう。私も今日の分は既に済ませています」
そう言ってあたしたちに椅子をすすめ温かいお茶を入れてくれる。
「ふむ、船の方はどうだ?」
「河川敷の船小屋に準備出来ています。整備も終わっていますので何時でも出れます。しかし珍しく今は港にホリゾン海軍の船が停泊していて明日まで港は使えません。バルド様、決行なさるなら明後日までお待ちいただいた方が良いかと思います」
そう言いながらバルドさんにもお茶を渡す。
「軍艦ですか? こんな港町に?」
ティアナはその話に反応する。
そしてバルドさんとゾッダさんに詳しく聞く。
「はい、ここ二、三日前にいきなりホリゾンの海軍の船が一隻立ち寄り物資の搬入をしているそうです。搬入物資は特に珍しいものは無く、近隣で冒険者に依頼のあった物品ばかりです。ああ、やや多めに搬入しているのはこの界隈で取れる薬草ですね。おかげで低級の冒険者はここしばらく森や林に入ってその薬草集めに忙しかったようですが」
「他に特に変わったことは?」
「軍艦の割にジュリ教信者が多いくらいですか? 聖騎士団では無く信者たちだそうです」
バルドさんは顎に指を当て考えている。
「ジュリ教の信者確保の為に宣教をするのが目的か? 船を準備するとはもしやイージム大陸を目指すのか?」
そう言えばイザンカ王国では聖騎士団まで入り込んでいたけど、今更あちらに布教に?
あの国はアビィシュ陛下が国を治めているからジュリ教を広めるのは難しいんじゃないだろうか?
ジマの国もドドスも同じだろうし、後は船で行くなんて‥‥‥
「すみませんわゾッダさん、その信者たちは普通の信者でしたの? 神官長や司祭級は見られなかったのですわ?」
ゾッダさんは首をかしげ考えるがどうやらそう言った上級神官は居なかったようだ。
「どうしたのですか、エルハイミ?」
「いえ、ちょっと気になったのですわティアナ。それより他には情報は無いのですの?」
「残念ながらこれと言ったものは」
「女神の杖」に関する情報は特にない様だ。
勿論こちらもシェルによっていろいろと情報を集めているけどガレント王国内で今だに囮の連中が動き回っていると言う事くらいだ。
気になるのはイパネマやビスマスと言った十二使徒の目撃が激減したと言う事くらいかな?
あの後二週間くらいはそれらしい情報はあったけどその後は全くと言っていいほど聞かない。
もしかしたらガレントの包囲網をすでに突破しているのかもしれない。
「ティアナ様、そうしますと狭苦しい所ですが明後日の夜までこちらでお待ちください。ホリゾンの軍艦が立ち去りましたらエダーの港町に渡りましょう」
バルドさんはそう言ってティアナに頭を下げる。
「わかりました。何かあれば連絡を」
ティアナはそう言ってかぶっていたフードを下げる。
あたしたちもそれにならってフードを下げる。
「うわっ!」
ゾッダさんが驚きの声をあげる。
「き、奇麗な人たち‥‥‥」
「ゾッダ、失礼だぞ。」
「ああ、すみません。でもあまりにも皆さん奇麗なのでつい」
まあ、あたしのティアナはそん所そこらの女性と比べ物には成らないわよ。
シェルはエルフなので標準以上だし、セレやミアムもまあ可愛い方だしね。
あたしもそこそこ行けているとは密かに思っているけどここまで素直に驚かれると気分がいいわね。
「ゾナー様こんな奇麗な人ばかりの国に行ったんだなぁ。道理で帰ってこないはずだ。でもガレントの皆さんって胸大きい人ばかりじゃ無いですか? あ、すみません、人間の基準です。エルフの方、そんなに睨まないでください!!」
なんかシェルがゾッダさんを睨んでいる。
ティアナはもちろんあたしだって同じ年頃の外観の女の子にしては大きい方だし、セレもミアムもそこそこ大きい。
ん?
セレとミアムもそこそこ大きい?
‥‥‥ちょっと後でティアナに話が有るわね。
場合によっては朝まで寝かさないでその体に尋問よ!
そんな事を思っていたらどうやら同じく潜伏している人たちが表の仕事から戻って来たようだ。
「ただいま戻りました。バルド様たちはおいでになりましたか?」
「ゾッダ、お前の好きな魚をもらってきたぞ。今日はバルド様たちが来られているだろう。少しはましな食事をせんとな」
そう言って二人戻って来たがあたしたちはその頭に思わず目が行く。
そう、この二人、獣人だったのだ!
「おお、これはこれは、皆様お越しでしたか。私はロベルト、こっちは妹のロゼッタです」
にかっと笑うその口からは人とは違う鋭い牙がのぞいたいた。
彼らはその耳と牙からオオカミの獣人らしい。
「お初にお目にかかります。ゾナー様がお仕えしている主様、ティアナ様とエルハイミ様ですね? ロゼッタです。どうぞお見お知り置きを」
ロゼッタさんは優雅に頭を下げている。
獣人と言っても本当に見た目は人間と変わらない。
ロベルトさんは十七、八歳くらいに見えるし。ロゼッタさんも成人したばかりくらいに見える。
二人とも質素な町住人のような服装だけど見える範疇のその体つきは細身でいながら筋肉質でまるで一流の冒険者か何かのようだ。
物腰も何処と無く鋭く流石にオオカミの獣人だ。
「世話になります。私はティアナ=ルド・シーナ・ガレント、こちらが私の妻、エルハイミ=ルド・シーナ・ガレントです。エルフのシェルにエルハイミの従者ショーゴ・ゴンザレス。私の従者セレとミアムです」
ティアナがあたしたちを紹介する。
その間あたしたちは珍しいこの二人の耳と尻尾に目が釘付けになっている。
「エ、エルハイミ、あの尻尾ちょっとでいいから触らせてもらえないかしら?」
「シェル! 失礼な事言ってはいけませんわ!」
「でもあのつややかな尻尾は触ってみたいわね、ミアム!」
「わ、私はあの耳が気になりますティアナ様!」
おいこらオマエラ、あたしでさえ我慢しているというのに何勝手な事言ってるのよ!
それにオオカミの獣人なのだからきっと気高いはずだからそんな要求は断られるに決まっているわ!
「なんだ、客人はこんな尻尾が触ってみたいのか? 別に構わんよ? それに美女に触られるのなら大歓迎だ!」
「兄さん! 全く美人にはすぐに尻尾振るのだから‥‥‥ あ、でも触る時は優しくお願いしますね。特に私は尻尾が敏感なので‥‥‥」
と、あたしの予想に反してすんなりと触らせてくれるらしい。
良いのかな?
あたしは思わず気になって聞いてしまった。
「あ、あの触らせてもらって良いのですの? オオカミの獣人の方ってこう言った事は嫌がると思いましたわ」
「オオカミ?」
あたしが発した言葉にバルドさんは反応した。
そして首をかしげてあたしに話す。
「エルハイミ様、こいつらはオオカミでは無く犬族でシベリアンハスキーの獣人です。非常に人懐っこく仲間内と思えばすぐにでも尻尾を振りますよ?」
「シベリアハスキーっ!?」
慌てて二人を見ると既にシェルとセレ、ミアムにその尻尾とか耳を触られて和んでいる!?
「はぁ、こうなっちゃうとこの二人しばらく動かないんですよね。仕方ない、夕食は私が準備します」
そう言ってゾッダさんはロベルトさんが持ってきた魚を持って奥へと行ってしまった。
「こ、これは癖になるわね!」
「ティアナ様もこちらへ、いい触り心地ですよ~」
「セレ、耳もいいわよ! ぴくぴく動いて可愛い!!」
「で、では少しだけ‥‥‥」
ティアナまで触りに行くのっ!?
「主よ、我慢する必要は無いぞ? 既にマリアも飛んで行っているぞ?」
「エルハイミ、これすごく温かい!!」
『犬だしねぇ~。あ、エルハイミ絶対にあたしを投げないでね、かじられて遊ばれるから!』
みんなずるい!
あたしも触るっ!!
みんながナデナデする所へあたしも慌てて行くのであった。
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