第449話16-3潜伏開始
16-3潜伏開始
あたしたちは最悪に備えホリゾン帝国に潜入して「女神の杖」が持ち込まれたらそれを奪取する為に行動していた。
「皆さん、もう少しで港町に着きます。ここからホリゾンの警備がずっと厳しくなりますから気を付けてください」
案内役のバルドさんにそう言われあたしたちはこの山岳部の強行行進に一旦休憩を入れる事とした。
既にティナの町を出て一ヵ月近い。
幸いなことにホリゾンの警備には見つかっていない。
そして残念な事にガルザイルもティナもコルニャからも「女神の杖」に対する朗報は入ってこない。
「あー、疲れた。森と違って岩ばかりなんだもん。土の精霊は元気でも他がほとんど活性化していないわね?」
「この辺は伝説では『狂気の巨人』と戦闘が行われたところと聞いています。ですのでホリゾン領のはずなのにほとんど放置状態のままになっているのです。近隣の村や町も数が少なく住民もごくわずかな地域なのです。おかげで港町まではホリゾンの警備が手薄で助かりますが」
シェルのつぶやきにバルドさんはそう言ってあたしたちが休んでいる間も警戒をして周りを見ている。
「ところでバルド、ノージムに渡るにはどうするつもりですか?」
ティアナは水を飲んでからバルドさんに渡航方法を聞く。
「サボの港町から向こうのエダーの港町までは見える程度の距離の海峡ですから夜半船で渡ります。ただ、そろそろ冬季に入り始めますので急がないと船自体が海に出られなくなってしまいます。冬季になると海は荒れ小型の船ではまず動けなくなりますので」
ティアナの質問にバルドさんは応え空を見る。
確かに晩秋とでも呼べる秋空が広がっている。
「そのサボの港町にはどのように入るつもりですの? それに住民が少ない地域で私たちの様なよそ者が入って怪しまれないのですの?」
あたしはバルドさんに心配になっている事を聞く。
せっかくここまで見つからずに苦労して街道では無く山岳部を超えて来たのだ。
今更こんな所で見つかりたくはない。
「サボの港町とエダーの港町まではそれほど問題は無いでしょう。この二つの港町は往来が多く冒険者なども多くいます。多少変わった部族や亜人も多いですからね」
「亜人?」
シェルが思わず聞き返す。
そう言えばノージム大陸には数少ない獣人がいると聞いた事があるな。
確か見た目は動物の耳や尻尾以外普通の人間と変わり無いらしい。
そう言えば一度だけ悪趣味な貴族が獣人の使用人を従えていたのを遠目で見た事あったっけ。
あの時は残念ながら筋肉ムキムキの男の使用人でなぜか頭の上に可愛らしいたぬきの耳がついていたのが印象的だったけど、その時は獣人とは思っていなかったもんなぁ。
「だとすると私たちの一行が潜入しても問題無いと?」
「流石に我々は目立ちます。小さな子供を連れた冒険者などはおりませんからね。それにメイドや執事を従えていれば尚更です」
あたしの確認にバルドさんはそう言ってクロさんやクロエさんを見てからコクやセキを見る。
うん、確かにこんな山奥にゴスロリのお嬢ちゃんが二人もいてそれにメイドや執事はあり得ない。
ティアナだって宝塚のままだし今は大人しいけどマリアが周りを飛び回ったらすぐにでも人目を集めてしまう。
『とりあえず姿隠しの魔法でも使おうかしら? 精霊魔法でもいいわね?』
シコちゃんが打開策を言うけどずっと姿隠しの魔法を使う訳にはいかない。
やはり用意した変装道具が必要だ。
「いやでいやがりますからね、主様」
「ふむ、黒龍様に仕える身ともなればこの姿格好が適切かと思いますぞ、主様」
先手を打たれた‥‥‥
まだ何も言っていないのに。
「お母様、私とセキ、クロにクロエは夜半に竜の姿になり向こうの港へと渡ります。私たちの事はご心配無く」
そう言ってコクはクロさんやクロエさんを見る。
二人は安堵したような表情だった。
「え~、竜の姿になるの? めんどくさいなぁ‥‥‥ って、分かったって! 分かったからその強制力やめてっ!!」
文句を言っているセキにコクはにっこりと右手を差し向け握りしめる。
どうやらあれが強制力のようだ。
「コク、セキはまだ幼いのです。そこまでにしてやってあげて下さい」
はらはらと過保護なティアナはセキの周りをうろうろする。
「赤お母様、こう言う事はしっかりと教え込まなければ教育になりません。セキに誰が上かしっかりと覚えてもらわなければです」
「はぁはぁ、もうコクったら。わかったわよ。やります、やればいいんでしょう?」
ティアナに返事したコクはセキを見ると渋々言う事を聞くようだ。
あたしもため息をついてティアナに向き直る。
「確かにコクたちは目立ちますわ。私たちも女性が多いですしね。ここは分散してノージムに渡航する方が良いですわね」
コクたち竜族以外はあたしとティアナ、シェルとセレ、ミアムにショーゴさんとバルドさんの七人になる。
あ、マリアは人数に入れないわよ、シコちゃんもね。
これだけの人数で全員が冒険者となれば流石に目立ちすぎる。
「港町には一旦川岸に行ってそこから町に入ります。正式な検問を受ける訳には行きませんからね。あとはノージムまでは仲間の準備した船で渡航できます。そちらの竜族の方が別に渡航するのであればなおさら安全でしょう」
バルドさんがそう言う。
あたしたちは頷きあって先ずはサボの港町に行く事とした。
* * * * *
変装をして河川敷を歩いていると港町が見えてきた。
コクたちは明後日の夜に向こうのノージム大陸に竜の姿になって飛んで行く事となっている。
「あれがサボの港町ね? 意外と大きいわね」
シェルがそう言って精霊魔法を発動させる。
町の近くには鉄格子や塀が有って簡単に河川敷からは入れない。
しかしシェルの精霊魔法で姿を消したあたしたちはあたしの【念動魔法】で全員を簡単に塀の向こうへと運ぶ。
「噂には聞いていましたが流石ですエルハイミ様。こうも易々と入り込めるとは」
「あたしの精霊魔法だって役立ってるのよ?」
「勿論シェル様の精霊魔法もすごいですよ。我々隠密がどんなに頑張ってもたどり着けない境地ですよ」
そう言われたシェルはまんざらでもない様に笑っている。
しかし次の瞬間鋭い目つきで河川敷の先を見る。
「誰?」
今だ精霊魔法を解除していないというのにあたしたちを捕らえた者がいる?
しかしバルドさんは慌てずあたしたちの前に手を出す。
「ゾッダか?」
そう言ってあたしたちに精霊魔法を解除するよう言ってくる。
シェルは言われた通り精霊魔法を解除すると河川敷向こうの草むらから小柄な人影が出てくる。
シルエット的には女性?
バルドさんはその人影を手招きしながらあたしたちに向かって説明をする。
「この者はゾッダ。サボの港町に潜伏している私の部下です。ゾッダ首尾は?」
「はい、バルド様。船の準備も整っていますが港が今日、明日と騒がしくなっています。できれば少し落ち着いてからの方が良いですね」
そう言ってかぶりを外しマスクを下ろすと年の頃十四、五ぐらいの少女だった。
ゾッダさんはあたしたちに会釈して彼女について来るよう言う。
このサボの港町の拠点に案内するそうだ。
あたしたちは彼女について行きアジトへと向かうのだった。
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