第446話15-35決断

 15-35決断



 「まさか他のゲートはミハイン王国につながっていたとはですね。道理で当時ジュメルの出所が掴めなかったはずです」



 ティアナはそう言って破壊されたゲートを見ている。


 『ここは被害が少なかったのね? 東や南は壊滅だった見たいだけどね』


 「シコちゃん、他にはゲートは無いのですの?」

 

 『全部で四か所だったわね。東西南北に分かれていたけどここ以外は全て壊れているみたいね』


 あたしはシコちゃんに念押しで聞いてみる。


 シコちゃんもまさかこの北のゲートが生きているとは知らなかったらしい。

 しかし問題はジュメルの連中もゲートを使えるくらいの魔術師がいてその使い方も知っていたと言う事だ。



 「とにかくこれで直接ホリゾンへの移動はできなくなりました。一旦戻って陛下にご報告を致しましょう」


 ヨハンさんが進言してくれる。


 「そうですね、ビスマスの件も報告しなければなりません」


 ティアナはそう言って「戻ります」とだけ言いながら歩き始める。



 「ティアナ?」


 あたしのその呼びかけにも珍しく答えずティアナは怒りの表情で歩いていく。



 「エルハイミさん、今はティアナ様をそっとしておいてやってください。あのビスマス神父を見てしまったのですから‥‥‥」



 ミアムはあたしの横に来てそっとそう言う。

 よほどの目にあって来たのだろう。

 あのティアナがあそこまで怒りをにじみ出させるとは。


 あたしたちはティアナについて行き王城に戻るのであった。



 * * * * *



 「そうか、ジュメルの十二使徒に入られていたか‥‥‥ 全く、ここの警備はどうなっておるのやら‥‥‥」


 アコード陛下は書斎であたしたちの報告を聞き深いため息をついている。


 気持ちはわかる。

 協力者だけでなくジュメルの十二使徒にまでまた入られてしまったのだから。


 「陛下、我々も反逆者の捕縛に向かわせてください。なんとしても『女神の杖』を奪還しなければです」


 ティアナはアコード陛下にそう申し立てる。


 「既に各所には兵たちを回している。隠密も同行させているから時間の問題だろう。ヨハン、首尾は?」


 「既に突入が始まっている頃合いです。一斉に各所に突入しておりますから各々の連携は難しいでしょう」


 それを聞いたアコード陛下は安堵の息を吐いた。


 「ティアナよ、これで『女神の杖』奪還は成るだろう。これでジュメルの野望は阻止できた」


 しかしティアナは素直に喜んでいない。

 アコード陛下を見ながら口を開く。


 「しかし陛下、十二使徒のビスマスがおります。油断は‥‥‥」



 ティアナがそう言いかけた時だった。


 「どうした?」


 ヨハンさんが書斎のカーテンの影に語り掛ける。


 「申し上げます。ジュノー教マリオス司祭のもとにジュメルと思しき者が現れ交戦となっています。既に派遣された隠密、兵たちは壊滅状態。急ぎロクドナル様が向かっております」


 その報告にここに居るみんなに緊張が走る。

 ティアナはアコード陛下を見る。


 「まさか十二使徒か!?」


 「陛下、我々も向かいます!」


 ティアナはそう言ってすぐにでも部屋を出るのだった。



 * * * * *



 「ロクドナルさんですわっ!!」



 あたしはぼろぼろになっていたロクドナルさんに慌てて【治癒魔法】をかける。

 両足は骨が砕け体中にたくさんの傷がある。


 ロクドナルさんは剣聖、世界でも六人しかいない剣の達人である。 

 一体何があったというのだ?  


 「これはエルハイミ殿。助かります。しかし逃がしてしまいました。ジュメルは、十二使徒はマリオス司祭の命を使って『女神の杖』をどこかへ転送してしまいました」


 あたしの【治癒魔法】で何とかしゃべれるところまで回復したロクドナルさんは悔しそうにそう告げる。



 「ロクドナル! 『女神の杖』は転送されてしまったのですね!? ビスマスは!? あの男は!!!?」



 「殿下、申し訳ございません。してやられました。心眼を開きもう少しと言う所でいきなり地面が爆発して巻き込まれました。その後は彼の者の攻撃を受けてしまい‥‥‥」


 「くっ! 相変わらず卑怯な事ばかり! それでも元剣聖かっ!?」



 え?

 そのビスマス神父って剣聖なの?

 


 「ティアナ、そのビスマス神父とはロクドナルさん同様に剣聖ですの?」


 「元です。今は北の大地にいる弟子にその座を譲っているとの話ですが、その実力はそのまま。しかし剣聖の名に恥じる行いばかり。更に私たちもあ奴のせいで‥‥‥」


 過去にひどい目にあったのは先ほどの話から察せる。

 


 「エルハイミ、すぐに陛下に。そしてティナの町に戻りホリゾンへ潜入します! 何処まで転送されたかは分かりませんが、もう時間が有りません!!」


 ティアナはそう言って立ち上がり急ぎ王城へと戻る。



 * * *



 「最悪の事態か。まさかマリオス司祭が自らの命を使うとは‥‥‥」



 アコード陛下も額に手をあてかぶりを振っている。

 ティアナはそれでも陛下に進言する。


 「どこまで『女神の杖』が飛ばされたかは不明です。私たちは急ぎティナの町に戻りホリゾン帝国に潜入しようと思います。最悪ルド王国に先回りしてなんとしても『狂気の巨人』の復活を防ぎます」


 「ティアナよ‥‥‥ 分かった、お前に託そう。こちらも更に国内をくまなく探させる。北に兵も集めよう。こうなってはこちらからホリゾンに攻める準備をしなければならない」


 アコード陛下もホリゾン帝国に打って出るつもりだ。


 「その前になんとしてでも『女神の杖』を奪還します。ジュメルめ!!」


 ティアナはそう言ってこぶしを握り締める。

 あたしはティアナのその手を取る。


 「大丈夫ですわ、私たちは強い。きっと何とかなりますわ」


 「エルハイミ‥‥‥ ありがとう、行きましょう、北へ!」



 そう言ってあたしたちは急ぎティナの町に戻りホリゾン帝国に潜入をする準備を始めるのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る