第445話15-34信仰

 15-34信仰



 あたしたちは十二使徒の一人ユン神父を倒したが「女神の杖」をガルザイルにいるジュメル協力者に転送されてしまった。



 

 「ティアナ、もうじきガルザイルですわ!」


 「ええ、シェル連絡は届いているのでしょうね?」


 「勿論よ! ファイナス長老まで使ったのだから緊急連絡はボヘーミャの学園長から直々にアコード陛下に行っているはずよ!!」



 早馬に揺られながら大声であたしたちは話す。 

 もうじきガルザイルの王都が見えてくる。


 「しかしお母様、あては有るのですか?」


 「もう【転送魔法】は簡単には使えないでしょうですわ! 『女神の杖』クラスの物となれば十二使徒ですら自身の命を魔力にしなければ転送出来ないほどですわ。そうそう同じことは出来ないはずですわ! 問題は転送されたのでガルザイルの協力者が慌ててガルザイルから運び出そうとする事ですわ!!」


 そう、あたしの考えではガルザイルに転送されれば運搬中に何か有った事は明白。

 多分協力者は慌てて「女神の杖」を運び出すだろう。


 となればガルザイルからの運搬はコルニャかティナの町、もしくは無理をして東のユエナから海上運送しか考えられない。


 いち早く王都ガルザイルからの持ち出しを押さえなければならない。



 あたしたちは見えてきたガルザイルの街に急ぐのであった。



 * * * * *



 「陛下にお目通りを! 急務です!」



 城に着くなりティアナはそう言ってアコード陛下に会おうとする。

 どうやら連絡は来ていた様でティアナの姿を見た衛兵たちは直ぐにティアナを城に入れてくれる。

 あたしたちも急ぎそれに続く。



 そして通されたのはアコード陛下が使っていたあの書斎だった。



 「陛下、申し訳ございません。『女神の杖』をこのガルザイルに転送されました!」


 部屋に入るなりティアナはアコード陛下にいきなり真相を話す。


 「落ち着けティアナ、話は聞いた。既にガルザイルからの物資運搬については禁じている。そしてジュメル協力者も目星がついて来た」


 アコード陛下はそう言って一枚の紙を見てため息をついていた。

 どうやら隠密からの知らせのようだ。

 読み終わったその紙をアコード陛下は蝋燭の火で燃やし始めた。



 「全く、何故ジュメルなぞに協力をするのか。ディラン侯、ユダネス卿、ナカール大臣、そしてマリオス司祭。すべてジュメルの協力者だったとはな‥‥‥」



 それを聞いたあたしたちは大いに驚く。

 どれもガレント屈指の名家、もしくは優秀な大臣にジュノー教の司祭であった。



 「まさかジュノー教のマリオス司祭が!? 彼はジュリ教ですらないのに?」



 「むしろ盲点だった。しかしジュメル信者の証のペンダントや指輪を所有していた。間違いないだろう」


 ティアナのその質問にアコード陛下はかぶりを振りもう一度深いため息をついた。


 「これら協力者の何処かに『女神の杖』は転送されたと思われる。既に兵をまわしロクドナルも向かわせているのだがな‥‥‥」


 我が国の隠密ヨハンさんの調べだから間違は無いだろう。

 以前ティアナの誕生日の時にも一人の大臣が協力者でと捕らえたけどまだまだ潜んでいたとは。


 「では陛下、我々もすぐにでもそこへ向かいます」


 「まあ待てティアナ。これだけの者たちがジュメルの協力者だったのだ、お前にはもっと重要な事をしてもらいたい。『中央都市』のゲートが生きていたそうだ」


 「『中央都市』のゲート? それがどうかしましたか?」


 「調べて分かった事だが『ホリゾン帝国』とつながっている」



 「!?」



 アコード陛下のその言葉にあたしたちは固まる。

 まさかゲートが生きていてホリゾンと繋がっていた!?


 「以前『女神の杖』を回収に行った折に報告のあった十二使徒のヨハネスとか言うのがこのガルザイルに出現したであろう? どうやらゲートを使ったようだ」


 確かにあの時どう言った方法でこのガルザイルに来たかは知らなかった。

 しかしもしあのゲートが生きていたのなら‥‥‥


 「ティアナよ、『中央都市』のゲートを破壊せよ。ガルザイルに『女神の杖』を持ち込んだ理由はきっとそこだ」


 アコード陛下に言われティアナは頭を下げる。


 「御意」


 そう言ってあたしたちを引き連れて書斎を出るのだった。



 * * * * *



 あたしたちは急ぎ「中央都市」に入る門に来ていた。

 案内役に何とヨハンさんが直々に同行してくれる。


 「殿下、ゲートは中央都市の北、崩壊が軽度の遺跡の中に有りました。どうやら他にも生きているゲートがあるようですが陛下の話ではそれらも同時に破壊せよとの事です」


 ヨハンさんは黒装束の目元だけ見える服装であたしたちに話しかけていた。


 「ご苦労様です。では案内をお願いします」


 「御意」


 そう言って「中央都市」に入る門が開かれていく。



 「主様、魔物やゴーレムが出てきたら私に任せやがれです。治してもらった右腕のリハビリがしたいでいやがります」


 クロエさんはヨハンさんの隣に立ち右手をぶんぶん回している。

 あの時焼かれた腕は肘から下が完全に黒炭になっていてまったく使いもにならない状態だった。

 あたしは【治癒魔法】ですぐに腕を再生したけどもし【治癒魔法】が使えなかったら片腕を失っている所であった。


 「わかりましたわ。ではクロエさんお願いしますわ」


 あたしはそう返事してコクを見る。

 コクは頷きヨハンさんとクロエさんを先頭にその遺跡へと向かう。



 途中に何度かゴーレムや魔獣が現れたが宣言通りクロエさんがリハビリがてらに簡単に撃退していた。



 「流石としか言いようが有りませぬな、殿下。殿下たちは本当に一騎当千のお力をお持ちだ」


 「世辞はいいです。それよりヨハン、ディラン侯、ユダネス卿、ナカール大臣、そしてマリオス司祭までも本当にジュメルの信者だったのですか?」


 「残念ながら」


 ヨハンさんのその返事にティアナは下を向く。

 そして悔しそうに唇を噛んでいた。


 「ティアナ‥‥‥」


 あたしはただティアナの名を呼ぶしか出来なかった。

 

 「着きました殿下」


 そんなティアナにヨハンさんは遺跡到着を告げる。

 この中にホリゾン帝国とつながるゲートがあるのか。

 そして他にも生きているゲートが‥‥‥




 「誰かと思えば『赤き悪魔』とデグの嬢ちゃんたちじゃないか? まさか俺に抱かれる為にここへ来たのか?」


 

 いきなりかけられたその言葉にティアナとミアム、そしてセレが激しく反応する。

 ティアナたちは辺りを慌てて見渡すと瓦礫の山の上に一人の神父が立っていた。



 「まさか‥‥‥ ビスマス神父!?」



 セレが震える声でそう言う。

 ミアムはセキを抱いたまますぐにセレの前に立ちふさがる。


 「ビスマスっ!! 貴様何故ここにっ!!!?」


 抜刀しながらティアナは叫ぶ。


 「おいおい、そういきり立つなよ。お前さんのお陰で俺は大切なそこのデグの生贄を失ったんだぞ? せっかくの初物を横取りされた可哀そうな神父なのによ」


 そう言って下卑な笑いをする。

 その様子を見たセレは震えながら座り込んでしまった。


 「一体どう言う事ですの!?」


 「あれは十二使徒の一人ビスマス神父。セレを古の悪魔の生贄し処女を奪う事でセレの中にその悪魔を宿そうとした張本人です。ティアナ様が助けてくれなければ今頃セレはミハイン王国で悪魔の苗床として悪魔の子を産み続けさせられていたのです!」


 ミアムはあたしにそう言い震えるセレを抱きしめる。



 「おいおい、悪魔とはひどいじゃないか? あれは一応色欲の神だぞ? もっとも、その呪いはそこの『赤き悪魔』にかかっちまったがな! 全く珍しく上等なデグだったのに、おい、『赤き悪魔』よデグの具合は良かったんだろう? うらやましいぜ!」


 そう言ってまた下卑な笑いをする。



 「ビスマスっ! 貴様ぁっ!! ガレント流剣技一の型、牙突っ!!」



 ティアナは叫びながらいきなりビスマス神父に攻撃を仕掛ける。


 「おおっとっ! 流石『赤き悪魔』! 女にしておくのがもったいないぜ!!」


 そう言ってビスマス神父も剣でティアナの攻撃をかわす。



 ティアナの技を剣で受け流す?

 今までの神父とはどうも勝手が違うようだ。



 ティアナは剣を切り結ばずすぐに離れる。

 と、ティアナが先程まで立っていた場所がいきなり爆発する。



 「ちっ、気付いたか? 前より出来るようになったな『赤き悪魔』よ!?」


 「相変わらず卑怯な事を! しかしもうその手は通用しません! アイミ!!」

 

 ティアナはポーチから網を引き出す。


 「なんじゃそりゃ!? どっからそんなでかいマシンドール引きずり出した!? ちっ! そいつが出てきて騎士になられたら歯が立たねぇ! ここは引くか! またなっ!!」


 そう言って目の前で煙幕弾を弾けさせる!?



 「くっ! 逃がすか!! 【炎の矢】!!」



 ティアナはその煙幕に向かって数百発の【炎の矢】を発生させ一斉に発射する。



 すぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!



 数百発の【炎の矢】は雨あられの様にその煙幕に消えていく。

 そしてほどなくその煙幕を吹き飛ばす。


 「逃げられたか‥‥‥」


 しかし煙幕が晴れたそこに既に人影は無くなっていた。

 ティアナは剣を鞘に納めながら悔しそうにしていた。



 「ううっ、ビ、ビスマス‥‥‥」


 震えるセレ。

 それを抱きしめるミアム。


 どうやら過去にだいぶひどい目にあっていたようだ。

 あたしはティアナの側に行く。


 「ティアナ、あれは十二使徒の?」


 「ええ、そうです。約半年前に私たち連合軍が戦っていた相手です。当時ミハイン王国は国王が死去して混乱していました。そこへ新興宗教を名乗る偽装のジュメルが入り込み国を乱しました。セレもその国の貴族の娘でしたが騙された当主は全てを奪われそしてセレまでも生贄として差し出す始末。狂った信仰は自分の娘ですら生贄に捧げるとは‥‥‥」


 過去に何があったかはあまり聞きたくもない。

 どうせジュメルのやって来た事だ。

 後味の悪い事ばかりしてくれるのだろう。


 「エルハイミ、許してくれとは言いません。しかし私はセレを助けてしまった。だから過去の責任を、セレたちの身は守ってやると誓いました。 ごめんなさい‥‥‥」


 あたしはあたしに謝るティアナを見てため息をつく。


 「ティアナ、その事についてはもう許していますわ。ティアナが妾を取るのも仕方ないと思っていますわ。ただ、守ると誓うのなら必ずあの十二使徒を倒さなければですわ。私も手伝いますわ、正妻として!」


 「エルハイミさん、せっかく好い流れだったのにそこだけはやはり譲らないのですね‥‥‥」


 寛大なあたしの言い分にミアムが突っ込んでくる。

 

 「当然ですわ! 見えない所の浮気は仕方なくても私の目の前でイチャつくのは許しませんわ、正妻として!!」


 『はっきり言うようになったわねぇ、エルハイミも』


 「くっ、おのれ正妻!」


 シコちゃんの突っ込みも悔しがるセレも何のその、あたしがティアナの一番なんだからね!!

 あたしはふっと笑ってセレとミアムに向き直る。


 「それだけ元気ならもう大丈夫ですわね? さあ、ゲートを破壊してジュメルの、十二使徒の野望を打ち砕き殲滅するのですわ!!」


 あたしのその物言いいにセレとミアムはハッとした顔をする。



 「エルハイミさん‥‥‥」


 「正妻、いえ、エルハイミさん?」



 ティアナはそんなあたしにもう一度頭を下げる。


 「エルハイミ、ありがとう」


 あたしはそんなティアナを引き起こし腕を取りながら遺跡に向かう。

 

 「さあ、早い所ここを破壊し、『女神の杖』奪還ですわ!!」




 あたしのその言葉にみんなは動き出すのであった。 

 

 

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