第442話15-31ユーベルトへ

 15-31ユーベルトへ



 あたしたちはガルザイルに来ていた。

 

 


 「陛下には特に挨拶も必要ないでしょう。エルハイミの実家に行きます」


 ティアナは完全にバカンスにでも行くような私服に身を包みそう言って馬車の準備をさせる。

 一応あたしは実家に戻ると大臣たちに話してからティアナと一緒に馬車に乗り込む。

 当然シェルやコク、セキにセレ、ミアム、ショーゴさんやクロさんクロエさんも一緒だ。


 イオマはあたしたちが出発して二日後にこちらに来る段取りをしている。

 勿論アコード陛下にはガレントの隠密を使って事前に連絡はしている。


 あたしたちは使用人や執事に見送られながらユーベルトに向かうのであった。


 

 * * *


 

 「連合軍の駐屯所には立ち寄らないの?」


 シェルがあたしたちに聞いてくる。

 勿論アラージュさんやカーミラさんにはあたしたちがユーベルトのあたしの実家にしばらく行く事は伝えてある。

 

 「心配がない訳ではありませんが下手に接触すると勘繰られる可能性があります。ここは素直にユーベルトへ向かいます。途中のファーナ神殿へは寄りますけどね」


 ティアナはシェルにそう答えながら美味しそうにドーナッツをかじっている。

 

 「赤お母様、それ二個目です。久しぶりに食べれるのですからもっと味わってください。私の食べる分が減ります」


 「あー、あたしも食べるぅ~!!」


 「コク、マリア安心してくださいですわ。ちゃんとお店に予約して大量に買い込んでいますわ! しばらくはおやつがドーナッツになりますわよ」


 コクとマリアがものすごくうれしそうな笑顔を見せる。

 

 「ふーん、それでファーナ神殿ってあのゲートがあるけどあたしたちがそんな所よって大丈夫なの?」


 「ジュメルは私たちの行動は気にはしているでしょうが他の女神様の所へ立ち寄る事に特に注意はしないでしょうですわ。イパネマもファーナ神殿のゲートは知らないですしね。むしろ私たちがユーベルトにいる事の方がジュメルにとっては好都合になりますもの」


 定期運搬でボヘーミャからガルザイルへの荷の中に「女神の杖」を紛れさせているとするならあたしたちがガルザイルにいる方が都合が悪い。

 国の中枢人物がジュメルの協力者だとしてあたしたちが長期休養を言い渡され実家に戻るとなればティナの町も更に抜けやすくなると考えるだろう。


 「見えて来たようですね、ファーナ神殿です」


 ティアナはそう言って郊外になるこのファーナ神殿を見るのだった。



 * * *


 

 「エルハイミさん、流石です! お二人を応援した甲斐がありました!」



 神殿についてエネマ司祭に挨拶をして今後のゲートの使用についてもお願いを済ませたら丁度ファルさんがやって来た。

 ファルさんはあたしとティアナに胸を見ると興奮してそう言ってきた。



 「ファルさん、お久しぶりですわ。ところでファルさん、私がティアナの胸を大きくするために奮闘した事をだいぶいろいろな所でお話してくれましたわね?」


 「え”っ? あ、いや、ほら、お二人の仲があまりにもよろしくてつい‥‥‥」


 「それで私が『育乳の魔女』ですの?」


 「そ、それは違いますよ! あたしじゃ無いです!! 確かに『育乳』を頑張っている無詠唱の魔法使いのエルハイミさんって言いましたけど、それが独り歩きして『育乳の魔女』なんて語られたのはあたしのせいでは無いですよ!?」


 額に汗をだらだらと流しながらファルさんは釈明する。


 この人はぁ~。

 あたしはため息をつきながら言う。



 「もう良いですわ。でも変な事はこれ以上言わない様にしてくださいですわ」


 「お母様そろそろ行きませんと」


 「ふにゃぁ、おなきゃへったぁ」


 コクがあたしの側に来てセキを抱っこしていたミアムがティアナにセキを渡していた。



 「はぇ? エ、エルハイミさん、そちらのエルハイミさんそっくりな子やそちらの赤子は??  ま、まさか同性どうしなのに!?」


 

 「その辺はご想像にお任せしますわ」


 思わず笑ってしまったあたしはそう言ってファーナ神殿を後にするのだった。 


  

 ◇ ◇ ◇


 

 「あらあらあら~ コクちゃんこんなに大きくなてぇ~! お婆様うれしいわぁ~!」


 「いや、確かに大きくはなっているがいきなり十歳くらいになるとはな‥‥‥ エルハイミ」


 ママンは先に連絡していたのでコクが来る事を待ちわびていた。

 前に来た時からまだそんなに経っていないのにいきなり十歳くらいになっているのに驚くどころか嬉しそうにしている。

 パパンは勿論どう言う事か説明してくれと言う顔をしている。 



 「お久しぶりですお義父様、お義母様。お世話になります」


 コクにとっついていたママンとパパンにティアナが挨拶をする。

 しかしママンはすぐにそのティアナの後ろにいるセレとミアムが抱きかかえている物体に気付く。



 「ティ、ティアナちゃん、もしかしてそのセレちゃんたちが抱っこしているのは‥‥‥」



 「はい、お義母様。今度は私が頑張りました!」


 思わずそちらに飛びつくママン。

 そして覗き込んだそこにはセキがすやすやと眠っている。



 「あらあらあら~!! あなた!! 二人目ですわ!! 今度は真っ赤な髪のティアナちゃんとエルハイミの二人に似ている子ですわぁ!!」



 思わず大興奮のママン。

 パパンはあたしに振り向く。


 「エルハイミ、まさか今度は本当に?」


 「お父様、しっかりしてくださいですわ。私たちが赤竜の討伐に行ったのはご存じでしょう? あの子はセキ、赤竜の再生した子ですわ。そのまま野放しにしておくと近隣に被害がまた出そうなので私たちが再生した卵に魔力を与え、コクが名付けの枷を掛け私たちの庇護下に入ったのですわ」


 パパンはあたしにそう言われセキを覗き込む。

 既にママンがセキを抱っこして嬉しそうに見ている。

 パパンはそんなセキを見て驚く。


 「こ、これは確かに二人の面影があるな。まるで本当の子供のようだ」


 「お義父様、これは私とエルハイミの共同作業で出来た子です。もう実子と同じです!!」


 お目目ぐるぐるのティアナはここぞとばかりにパパンを畳みかける。

 同じくお目目ぐるぐるのママンもあらあら言いながら嬉しそうにくるくるしている。


 「姉さま、まさか本当にティアナさんと子供作って来るとは‥‥‥」


 「やっぱり姉さまはすごいね! もう何でもありだね!」


 バティックやカルロスも出迎えに来てはくれているけど既に圧倒されていてあきれ返っている。

 あたしは軽いため息をつきながらその様子を見ている。


 「むう、このままではお婆様までセキに取られてしまいそうですね。ここは私も早く成長してお母様のお子を産まねば!」


 「コク、もうやめてですわ! これ以上お母様がおかしくなっては手が付けられませんわ!」


 意外な話コクもそう言った方面で嫉妬するのだろうか?

 ちょっと笑ってしまったが、あたしは嬉しそうにパパンとお目目ぐるぐるでセキの可愛さについて語っているティアナを引っ張る。



 「ティアナ、そろそろですわ」


 あたしに言われてティアナもはっとなって真顔に戻る。


 「お義父様、お話が有ります」


 そう言ってからあたしたちは屋敷に入るのだった。



 * * *



 「つまりこのユーベルトを拠点に南方からの運搬を取り押さえると言う事だな? 噂の西ミハイン王国付近のその者は囮と?」


 「そうですわお父様、あのイパネマの事ですきっとそのくらいの事はしてくるでしょうですわ」


 「わかった、早馬を準備させよう。ところでその、セキも一緒に連れて行くのか?」



 ん?

 何だろう??



 「ま、まだ私も抱っこさせてもらってないんでな。せめて抱っこさせてくれ!」



 あうっ!

 パパン、あんたもかっ!?



 「勿論ですお義父様!! セレ、セキをここへ! さあどうぞお義父様! ほら、この辺がエルハイミに似ていてこの辺が私に似ているのですよ!!」


 「おお、確かに!」



 あー、これはしばらく動けないな‥‥‥


 

 あたしはため息ついてシェルにお願いしてママンの所で甘えているコクを連れ戻して来るように言う。

 早馬が準備出来たらすぐにでも出発しなければならない。

 今の状態だとここから二、三日でミスリル合金運搬の定期便に接触できるはず。

 

 なんとしても「女神の杖」を奪還しなければいけないのだ。



 * * *


 

 「それでは行ってまいりますわ、お父様、お母様、バティックにカルロス」


 あたしはショーゴさんの後ろでみんなにそう言って挨拶をする。


 「あらあらあら~、もういってしまうのねコクちゃんにセキちゃん~。終わったら必ずまた来てねぇ~」


 「エルハイミ、気を付けてな」


 「お義父様大丈夫です。今度は私が必ず守って見せます」


 「そうですわ、私たちは強くなっていますわ!」 


 あたしたちはそう言ってから馬を走らせ始める。

 急いでミスリル合金運搬に接触しなければならない。




 あたしたちはユーベルトの実家をこっそりと出発するのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る