第443話15-32想定外

 15-32想定外



 ユーベルトの街を出てあたしたちはミスリル合金運搬をしている定期便にもうじき接触する所であった。


 


 「エルハイミ、予定ではそろそろですね?」


 「はい、そろそろ定期便の運搬に接触できるはずですわ! ショーゴさん、そろそろ街道に戻りましょうですわ!」


 ショーゴさんの早馬に乗せてもらっているあたしは指示を出しながら念話でシェルにも言う。


 『シェル、そろそろ接触しますわ。姿隠しの精霊魔法をお願いしますわ! それと音消しの魔法も!』


 万が一定期便自体がジュメルの連中に乗っ取られていたことを考えてあたしはギリギリまで近づきたかった。



 林を抜け街道に出る。

 人の往来の有る道はほど良く踏みならされ荷馬車などの轍がある。

 草もほとんど生えておらずここを通る人の多さを物語っている。



 シェルの魔法が発動してあたしたちの姿は他の人には見えない。

 音も消し去っているのでもし対向者がいるのならば気を付けて避けねばならない。



 「みんな、シェルの魔法が発動しましたわ! 私たちの姿や音は他の人には分からないのでぶつからない様に気を付けてくださいですわ!」



 「まったく、面倒でいやがります。でも黒龍様と一緒だからわかりやがりました! 黒龍様、しっかりつかまってください!」


 「現金なものだなクロエは。黒龍様と一緒に早馬に乗ると聞いた途端嫌がっていた獣の上に座るとはな」


 後ろでコクたちがそんな事を言っているがこういった会話は他の人には聞こえない。




 「エルハイミ! あれでしょうか!? 見えてきました!!」



 先頭のティアナがそう言ってみんなに馬の速度を落とすように言ってきた。

 見れば運搬を任されている定期便の馬車が兵士に囲まれてこちらに向かってきている。


 どうやら間違いなさそうだ。



 「馬を歩かせゆっくりと近付けさせます。シェル魔法はそのままで! しばらく様子を伺います!!」



 ティアナはそう言って自分の馬を歩かせ始める。

 他のみんなもそれに倣って馬を歩かせる。



 定期便は荷馬車が一台、それに護衛の兵士がざっと十人くらいで動いている。

 みんなガレント王国の鎧をまとって先頭はガレント王国の旗を持っている。


 

 「エルハイミ、私と一緒に。他は左右に展開してください」


 ティアナの馬とショーゴさん操る馬が正面に。

 シェルにセレやミアム、コクたちが左右に分かれる。



 「シェル、魔法の解除を!」



 ティアナに言われて目先五十メートルくらいで魔法を解除する。



 

 いきなり現れたあたしたちに衛兵たちは驚く。



 「何者だ!? 我々をガレント王国の者と知っての狼藉か!?」



 「静まれ! 私はティアナ=ルド・シーナ・ガレント! 訳合って貴殿たちその荷を検問する! 協力をされよ!!」


 ティアナにそう言われ衛兵たちはたじろぐ。


 「ひ、姫なのですか? しかしティアナ姫は連合軍の将軍を務め今は謹慎の身では?」



 「大儀の為である! ここガレント王国内では私は姫としての役目を全うする! 連合とは無関係だ! さあ、検問を受けられよ!」



 ティアナがそう言うと兵士たちは顔を見合わせる。

 そしてリーダー格の者が前に出る。


 「ティアナ姫におかれましてはご機嫌麗しく。しかしながらご説明をいただけませんかな? 我々も国家の重要な仕事を任されている身。自分の仕事に誇りを持っていますゆえたとえ姫でも理由をお聞きできなければ納得がいきませぬ故」


 一応そう言って馬から降り膝をつきその兵士はそう言う。

 

 確かにいきなり王族の者が出たからと言っても彼らにも彼らの役目がある。

 ティアナが出てきたとしても理由くらい聞きたがるだろう。


 「そなたたちの運ぶ荷、確かにミスリル合金であろうな?」


 しかしティアナは動じず無表情のままそう聞く。


 「勿論でございます。国家の要となるこれをボヘーミャより運ぶ事。我らの命と引き換えにでも成し遂げる所存であります」


 「ならばなおさらそれを確認させていただく。問題無かろうな?」


 「‥‥‥御意」


 ティアナはそう言いながら馬から降りる。

 それを片膝ついたままのその兵士は頭を下げたまま答えた。



 『エルハイミ! 囲まれた!! この気配、ダークエルフよ!!』


 

 いきなりシェルの念話が届く。



 「ティアナ!」




 「ええいっ! 小娘二人に男一人! やってしまえ!!」


 「おうっ!!」



 あたしが叫んだ瞬間兵士たちは抜刀して襲いかかって来た。

 しゃがんでいたその兵士も立ち上がりながらティアナに短剣を突き立てるがティアナは「ぬるい」と一言、その兵士の首をはねる。

 

 チン。


 一瞬にして抜刀した居合術のティアナは静かに鯉口に剣を戻した。


 「ガレント流剣技五の型、雷光。 貴様らどう言うつもりだ!!」



 「ええい、相手は少ない一気にやってしまえ!!」



 ティアナに首をはねられた兵士を見てひるまずに他の兵士もこちらに襲ってくる。



 ヒュンっ!


 ヒュンっ、ガっ!!



 いきなりティアナを狙った矢はシェルの放った矢に落とされる。

 それと同時に周りから十数人のダークエルフが現れる。


 ティアナは瞳だけでそれを見ていたがまたすぐに兵士たちを見る。

  

 「大人しくしなさい。そうすれば命までは取りません」


 そう言って静かに剣を抜く。

 シェルやコク、クロさんにクロエさんは既にダークエルフと交戦し始めているしコクが呼び出したベルトバッツさんたちも参戦している。



 その様子を見ていた兵士たちは胸元からペンダントを出して握りしめる。




 「まさかこちらに気付くとはですね。流石『赤き悪魔』と『雷龍の魔女』ですね。しかし私もこれだけは命を懸けてでもやらなければなりません! お前たち、命を捧げよ! 我が神ジュリ様の為に!!」



 そう言って荷馬車から現れたの神父服姿の一人の男だった。



 「我が名はユン。十二使徒が一人。さあお前たちジュリ様の為にその命捧げよ! 【魔怪人化】!!」



 兵士たちはそのペンダントを皆額にかざす。

 するとあの種と同じく体を蔓の様な物が兵士たちをおおい魔怪人と化す。



 「行きなさい、お前たち!」



 「今更魔怪人如き敵ではありません! ガレント流剣技四の型、疾風!」

 

 そう言ってティアナは襲ってきた魔怪人を切り伏せる。


 「むんっ!」


 ショーゴさんも魔怪人をなぎなたソードで切り裂く。

 どんなに一度に襲ってきても既に魔怪人如きあたしたちの敵ではない。



 『エルハイミ、気を付けてあの荷馬車から大きな魔力を感じるわ!』



 しかし優勢だったはずのあたしたちにシコちゃんが警告を発す。

 見ればあのユン神父が何やら呪文を唱えている?


 「さあ来たれ! 女神の力を今ここに体現せよ!! 【模造分身!】」


 聞いた事の無いその呪文が完成すると同時に馬車の周りに光る七人の女性が現れた?

 彼女たちは裸で輝いている。


 みんなすごい美人だけど何処と無くうつろな瞳をしている。



 「はぁはぁ、ほとんどの魔力を使いました。魔晶石まですべて使ってこれですか。しかしこの女神の分身、その力は魔怪人の比ではない! やれお前たち!! 『赤き悪魔』と『雷龍の魔女』の首を取れ!!」



 ユン神父のその命令に彼女たちは一斉に動き出す。

 

 「くっ! アイミ!!」


 ティアナはポーチからアイミを引きずり出し戦力差を補う。

 ショーゴさんが壁になってその隙を補うがなんと一人の女性にショーゴさんは殴り飛ばされる!?



 『【絶対防壁】! エルハイミ、ぼーっとしないっ! こいつら女神の分身の劣化版よ!! でもその力は相当なモノよ!!』


 がんっ! 

 ビキビキ‥‥‥


 ばきんっ!



 うそっ!

 【絶対防壁】が破られた!?



 素手で殴りかかって来るその女性たちはものすごい破壊力を持っていた。


 

 「ガレント流剣技三の型、雪崩!!」


 ティアナが地面に剣を突き刺し一気に剥がし石と土の礫を放つ。

 しかしこんなの女神の分身には目くらまししかならない!



 「エルハイミ! 今です下がって!」


 「お母様! 助太刀します!!」



 ティアナはそう言ってあたしを下がらせようとする。

 コクもこちらに来て砂埃が晴れる中から飛びだした女神の分身の拳を受け止める。


 「くっ! 分身とは言え流石! しかし私も負けていられません!! 喰らえ! ドラゴン百裂掌!!」


 コクの攻撃が女神の分身たちに当たリ弾き飛ばすがすぐに立ちあがってまたこちらに襲ってくる。



 『このぉ! 【竜切断破】!!』



 迫りくる女神の分身にシコちゃんが竜をも一発で切断する光の刃を作って放つ。

 これは単体に対してはメテオストライクより強力な魔法、いくら女神の分身だってただでは済まないでしょう!?



 ガンっ!!



 しかしあたしたちの予想を上回りなんとその光の刃を弾いて直撃をかわした!?




 「ユン様これを!」


 声のした方を見るとダークエルフの女性がユン神父に回復薬の様なものを飲ませている?

 

 「確かります、ヨルン。これで少しは魔力が回復します」

 

 そう言ってユン神父は立ち上がり女神の分身たちに命令を下す。



 「もう時間が有りません! お前たちこの荷馬車にこいつらを近づけるな!」



 そう言ってまた何やら詠唱を始めると同時に懐から魔晶石を取り出す。

 まさか【帰還魔法】か!?


 一瞬焦ったあたしだが唱えている呪文は聞いた事の無い呪文だった。

 

 「時間を稼げ! 我が命代償にこの『女神の杖』をガルザイルの我が同胞のもとに送り届ける!!」


 「ユン様! それではユン様の命が!!」


 「ヨルン、今までよく尽くしてくれました。しかしたとえ私の命を使ってでもこれを仲間のもとへ送らねばなりません。私はここまでです。しかし必ずや我らの願いを成就させるのです!」



 ちょっとマテ!

 まさか「女神の杖」を転送させる気!?



 距離的にガルザイルの同胞とか言っていたからそれ以上遠くへは飛ばせないっての!?

 しかしここで転送されたら追い付けない!?




 「させるかぁ!! ガレント流剣技九の型、九頭閃光!!」



 ティアナが最終型を使って切り込む!


 ががががががががっ!

 ざんっ!!


 しかし女神の分身三人が壁になってその攻撃を耐えきる。



 「くっ! クロ、クロエ、ベルトバッツよ! ダークエルフ共を殲滅しこちらへ来い!!」


 「うぉぉおおおぉぉぉぅっ! 【爆炎拳】!!」


 コクが叫びショーゴさんが必殺技を繰り出し女神の分身に突っ込んでいく。





 そしてあたしはユン神父を睨むのだった。

 


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