第435話15-24ユグリアへ


 15-24ユグリアへ



 あたしたちはボヘーミャで各国に緊急事態宣言を発し協力を求めながら更に情報と協力を要請する為にユグリアに飛んでいた。




 「英雄ユカ・コバヤシ!! 話は聞きました。ファイナス市長がお待ちです」



 ゲートを出るとソルガさんが待っていた。

 ソルガさんは師匠の姿を見ると直ぐにあたしたちを「緑樹の塔」へと案内する。


 あたしたちはほとんどしゃべらずファイナス市長がいる「緑樹の塔」へと連れられて行く。

 そしてそのまま中に入る。

 

 「すまんがこのまま市長の部屋へ来てくれ。ファイナス市長はそこでお待ちだ」


 いつもと違っていきなり階段を上り始めたソルガさんにあたしたちはついて行った。



 * * *



 「ユカ、よく来てくれました」


 「ファイナス市長、挨拶は割愛させていただきます。取り急ぎ全世界の渡りに協力をしてもらいたいのです」



 師匠は挨拶もそこそこ取り急ぎ緊急の要件を言う。

 しかしファイナス市長は心得たかのように頷く。


 「それでどのような事を?」


 「近くにいる英雄、力あるもの、そして私の教え子たち、志のある者たち全てをガレントに集めて欲しいのです。ガレント王国の王都ガルザイル近郊にある連合軍駐屯場へ」



 師匠のその言葉にあたしたちは驚く。

 そして師匠を見る。


 「各国にはすでに非常事態宣言を発し対応の協力要請を出しています。しかしホリゾン帝国相手に軍事行動となるかもしれないとなれば協力を拒む国も出てくるでしょう。しかし事態はそれほど大事になるのです。あの『魔人戦争』等比ではない惨事が始まるかもしれないのです」



 師匠のその予測にあたしたちは唾を飲む。



 「ユカ、それほどなのですか?」


 「おそらく、最悪の準備は必要です。そしてそうならない為に今出来る事をしなければいけません。『女神の杖』が強奪された。これはその杖がルド王国に着く前に我々で奪い返さなければ大惨事が始まります。『狂気の巨人』が復活するのです」



 「狂気の巨人‥‥‥」



 ファイナス市長はそれだけ言ってから頷く。

 そしてすぐにでも風の上級精霊を呼び出し風の精霊たちも呼び出す。



 「すぐに全世界の渡りに伝えましょう。全てのエルフの渡りはこれに協力をさせます。英雄、力あるもの、ユカの教え子たち、志ある者を全てガレント王国ガルザイルへと集めましょう!」


 そしてファイナス市長は呪文を唱える。

 風の乙女たちが乱舞して窓から飛び立っていく。

 最後に上級精霊もファイナス市長に向かって頷いてから窓の外へと飛び立って行った。


 「これで全世界の渡りには連絡が行きました。それでユカ、この後どうするつもりです?」


 「この後に魔法王ガーベルに会いに行き協力要請をします。あの『狂気の巨人』が復活するやもしれないのです。そしてこの後が問題となります。各国への緊急事態宣言は伝達しましたがどこまで協力をしてもらえるか。これから緊急会議も行います。しかしティアナ、分かっているとは思いますが‥‥‥」


 そう言って師匠はティアナを見る。

 ティアナは唇を噛んで黙ったままだ。



 「理由はどうあれ『女神の杖』を強奪された責任はティアナに行ってしまいます」



 「なっ! それはあまりにも酷いですわ!!」


 思わずあたしは反論してしまう。

 しかしティアナは静かに諭すかのようにあたしに話す。


 「エルハイミ、これは仕方の無い事なのです。我妻エルハイミに持たせた『女神の杖』を守り切れなかったのは私の責務。次の会議で多分たわしは‥‥‥」



 そんな馬鹿な!

 今までティアナがどれだけジュメル撲滅の為尽力してきたのか!!


 それに「女神の杖」を奪われたのはあたしにだって責任がある。

 マース教授の願いを聞かず安全の為にすぐにでも異界に杖を飛ばさなかったあたしにだって!



 「エルハイミ、今回の件は皆の油断から起こったことは分かっています。しかし連合に参加した各国はそうは思っていません。世界各国で起こっているジュメルの被害の元凶である『女神の杖』とその目的。これを阻止して秘密結社ジュメルを滅ぼすのが連合軍の役目です。それに失敗したとなれば必ずその責任について追及がされます。自然とその将軍職であるティアナにその責が問い詰められる事となります」



 「!!」



 あたしは思わず絶句する。


 師匠のその言葉は頭では理解している。

 しかし感情が追い付かない。


 いくらそうであったとしてもティアナだけの問題ではないはずだ。



 「師匠、ティアナだって今まで頑張ってきましたわ! それなのに!!」


 「エルハイミ、やめなさい。すべては会議の席で決まる事です」


 ティアナは興奮するあたしをたしなめる。


 「でも‥‥‥」



 「エルハイミ、その事だけに捕らわれてはいけません。大事な事はそれでも私たちはジュメルの野望を止めなければならないのです。『狂気の巨人』復活だけは何としてでも阻止しなければならないのです」


 師匠にそう言われあたしは黙るしかなかった。



 「ティアナ、ガレントの街道、海上航路については?」


 「はい、既に私から王都への連絡を入れ要請をしています。ガレントからホリゾンへのルートは全ての街道、海上航路での封鎖を行います。通常ルートではガレント王国を通ることは出来なくなるでしょう」


 「となれば大回りでは西のミハイン王国を通るルートしかないでしょう。それ以外となると東に渡り北上するルート、しかしこれは現実的ではない。時間がかかり過ぎるでしょう」


 既に師匠とティアナはその逃走ルートを模索し始めている。

 ガレント王国内であればアコード陛下の協力が全面的に受けられる。


 もしそれ以外のルートであった場合は西か東か‥‥‥



 師匠の言う通り最悪はホリゾンに乗り込む事を考え戦力をかき集める。

 何としても『女神の杖』を奪い返さ無ければならない。



 「後は魔法王ガーベルへの協力要請です。ファイナス市長、魔法王はまだあの宿に?」


 「ええ、そのはずです。私も行きましょう」


 そう言ってファイナス市長も同行する。



 今は出来る事をする。

 師匠の言う通りかもしれない。

 不満に思ったり感情的にならず行動しなければ取り返しのつかない事になってしまう。



 あたしたちは経験者であるご先祖様にまた会いに行くのだった。 

 

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