第434話15-23緊急事態


 15-23緊急事態



 「イパネマさん!」



 人質となっていたルイズちゃんを危機一髪救い出したのは今まで何処かに行ってしまっていたイパネマさんその人だった。

 

 「危なかったわね、こんな小さい子が巻き込まれるとはね。はい、早く【回復魔法】をかけてやってね」


 イパネマさんはそう言ってルイズちゃんをアンナさんに渡す。



 「ルイズっ! よかった、すぐに傷の手当てをしてあげますよ。【回復魔法】!」



 アンナさんはすぐにルイズちゃんに【回復魔法】をかけてあげる。

 すると大泣きだったルイズちゃんは次第に泣き止んだ。




 「ふう、これで心残りは無くなったわ。さてそこの貴方、いくら目的の為とは言えこれは良く無いわね。そんなんじゃとても十二使徒になんてなれないわよ? 十二使徒はね一応はジュメルの中ではそれなりに敬意を払われているのだから」




 「イパネマさん?」



 【束縛魔法】でジャストミン教授を捕まえたままイパネマさんは歩み寄る。

 そしてあたしたちの方に顔を向け少し悲しそうな表情になる。


 「久しぶりに楽しかったわ。特にエルハイミさん、あなたと一緒にいると驚かされる事ばかりで自分が何者だったか忘れてしまうくらい。でもねやっぱり貴女たちとは居られる世界が違うのよ」


 そう言ってジャストミン教授が抱えていた「女神の杖」を引き抜く。

 ジャストミン教授は脂汗を流しながらイパネマさんを見ている。


 「そ、そんな。お、俺は、俺はぁ‥‥‥」


 「あなたの様な人材はジュメルには不要よ。さよなら」


 「や、やめてくれぇっ!!」



 ぼっ!!



 イパネマさんがそう言った途端にジャストミン教授はいきなり体中から火を噴き出し燃える!?



 「なっ!? どう言う事です!?」


 「イパネマさん、まさかですわっ!?」

 

 驚くティアナとあたし。

 しかし心が知らせてくる真実を拒む。



 「楽しかったわ。私はジュメルの十二使徒が一人イパネマ。もう会う事は無いでしょうねエルハイミさん、ティアナさん。さようなら」



 イパネマさんがそう言ったとたんティアナは飛び込んで剣を振る。

 しかしその剣はイパネマさんが張っていた【絶対防御】に阻まれ届かない!



 「このっ! 風の精霊よ!!」


 「ベルトバッツ、クロ、クロエやれっ!」



 シェルが風の精霊魔法を、待機していたベルトバッツさんやクロさん、クロエさんも一斉にイパネマさんに飛び掛かる。


 しかしいつの間にやら発動させていた【帰還魔法】の魔晶石を取り出したイパネマさんは攻撃が届く前にその場から姿を消し去ってしまった。


 そしてあたしはイパネマさんが消える瞬間もう一度あたしを見ながら寂しそうな顔をしたのを見た。



 「くぅぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁッっ!! イパネマぁぁああぁぁっっ!!!!」



 もう一度剣を振り直したティアナのそれはむなしく地面をたたくだけだった‥‥‥

   

 

 * * * * *



 「まさか、ファイナス市長が推薦した人物がジュメルの十二使徒だったとは‥‥‥」



 師匠は平原側から攻めてきたジュメルを撃退して戻って来ていた。

 そして一部始終の話を聞き刀の柄を鞘ごと地面にたたきつける。


 がつっ!



 「すみません、私がいたにもかかわらず取り逃がしてしまいました‥‥‥」


 ティアナも唇から血がにじみ出るほど悔やんでいる。

 あたしはミアムに【治癒魔法】をかけながら静かに二人の話を聞いている。



 「あ、ありがとうございます、エルハイミさん‥‥‥」


 ミアムは素直にあたしにお礼を言ってセレの近くに行く。

 大けがとまではいかなかったけどかなり深くまで二の腕を切られていた。

 出血もひどかったようで衣服もだいぶ血に汚れていた。



 

 「問題はイパネマが何処まで【帰還魔法】で戻ったかです。流石にいきなりはノージムまではいけないでしょう。ボヘーミャ近郊の拠点に逃げ込んだと言った所ですね」


 師匠は冷静に状況を判断している。


 【帰還魔法】はその込められた魔力によって戻れる先が決まって来るが流石に大陸移動出来る程の距離は飛べない。

 せいぜいダンジョンの外とか隣の町くらいにまでしか飛べない様になっている。

 だからイパネマさん‥‥‥ いや、十二使徒イパネマもきっとボヘーミャの近郊に飛んでいるのだろう。



 「師匠、すぐにでも追います」


 「待ちなさい、今動いても捕らえる事は難しいでしょうね。もし連続で【帰還魔法】の魔晶石を使われたら既にかなりの距離を移動していると言う事になります。もし通常ルートで移動したとしても街道か海上のどちらで動くか見当がつきません。ここは各国に緊急事態宣言をして急ぎ協力を得るしかありません」


 そう言って師匠は職員や教授たちに現状の確認とジャストミン教授の研究室や自室を調べるように指示を出す。



 「ティアナ、エルハイミ。これから急ぎユグリアに飛びます。私を連れてゲートで移動をしてください。ファイナス市長に緊急に協力をしてもらいます。それと魔法王ガーベルとも面会をします。『狂気の巨人』の封印についてもっと情報をもらうと同時に協力要請をします」



 そう言って師匠は取り急ぎ各国に風のメッセンジャーで緊急事態宣言を発し、次いでファイナス市長にも連絡を入れる。




 「お姉さま!」


 

 慌ただしくみんなが動き回る中避難誘導していたイオマも戻って来た。


 「聞きました、『女神の杖』が奪われたと‥‥‥」


 「イオマ、イパネマさぁ‥‥‥ いえ、イパネマがジュメルの十二使徒でした‥‥‥」


 あたしは力なくそう言う。

 すると当然イオマは驚く。


 「なんっ!? それは本当ですか!? ジャストミン教授が狂ってしまったと聞きましたがまさかイパネマさんが操っていたのですか!?」


 あたしはかぶりを振りそれを無言で否定する。



 ジャストミン教授も多分ジュメルの信者だったのだろう。


 表面は普通の教員を装い特に変な所は無かった。

 むしろあたしたちに協力して双備型や四連型魔晶石核や魔結晶石核を作ることに協力してくれていた。

 自分の持つレア金属やミスリルまで提供してくれて。


 それがあの変貌ぶりだ。


 いやそれを言えばファイナス市長推薦の冒険者で今までジュメルと一緒に戦ってくれたイパネマだってそうだ。




 心に大きな穴が開いた気分だ。



 「お姉さま、これからユグリアに行くと聞きました。あたしは急ぎ『鋼鉄の鎧騎士』の修理をします。お姉さまたちが戻るまでには直して見せます!」


 「イオマ?」


 「あたしはお姉さまを信じています。この世界がジュメルに壊されるのは嫌ですもの。そして早く終わらせて今度こそお姉さまやティアナさんと一緒に静かに暮らしたいんです。私はお姉さまの義妹です。誰よりもお姉さまを信じています!」


 イオマにそう強く言われる。


 

 何だろう?

 あたしの心の奥からだんだんとこの湧き上がる気持ちは。



 気付くとあたしは涙を流していた。

 そんなあたしをイオマは優しく抱きしめてくれた。



 「お姉さまがショックを受けているのは分かっています。お姉さまは優しいから。でもお姉さまにはやらなきゃならない事が有るのでしょう?」


 「はい、ありがとうイオマ。そうですわね、こんな所で止まってはいられませんわね。イオマ、初号機の事お願いしますわ!」


 「はいっ!」


 あたしはイオマのおでこに軽くキスしてティアナのもとへ行く。


 後ろでイオマが「え~っ! この流れなら唇にキスじゃないんですか!? お姉さまのいけずぅっ!!」とか叫んでいるけどあたしは少し微笑んでから真顔に戻る。



 「ティアナ! まだ終わった訳では在りませんわ!! 師匠と共にユグリアへ飛びましょう!!」




 あたしはそう言って歩き出すのだった。 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る