第433話15-22裏切り者

 15-22裏切り者



 「ひっ!?」



 あたしの【雷龍逆鱗】とシコちゃんティアナの放つ【爆裂核魔法】がこの港の全てを飲み込む。


 ビカッ!

 がらがらどがしゃぁぁああぁぁぁぁぁぁんんっ!!


 きゅう~‥‥‥

 カッ!

 カッ!

 どぼぉごぁぁごあぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁんんんんっ!!!!



 最後に聞こえたクシュトリア司祭の悲鳴はあたしの落雷音でかき消されその姿は【爆裂核魔法】で掻き消える。


 轟音と業火、落雷と振動。


 まさしく極大魔法が重なりボヘーミャの港は大災害が起こったのと同様、その原形すらとどめぬ状態であった。




 「うひゃぁーっ! これはすごいわ。港が無くなっちゃったわね」



 シェルはやっと収まり始めた大魔法の後を見ながらそう言っている。

 


 よし、これで学園に戻れる。

 あたしがそう思った時だった。



 「エルハイミ! あれ見てっ!」



 シェルに言われ、見れば先程クシャトリア司祭がいた辺に何かの塵が集まり始めている。

 そしてそれは徐々に人の形になっていきとうとうクシャトリア司祭の姿に戻る。




 「クシャトリア様! ご無事で!!!?」



 ベルトバッツさんたちから大きく離れてダークエルフのアスラが叫んでいる。



 「くううぅぅっ、『身代わりの首飾り』が無ければ危なかった。よくもやってくれましたね!!」


 なんとクシャトリア司祭も「身代わりの首飾り」を身に着けていた!?

 浮遊魔法か何かを使ってゆっくりと上空を漂ったままだ。



 「陽動とは言えここまでやられるとは! アスラ、退きます!!」


 そう言って懐から帰還魔法の魔晶石を取り出す。


 

 くっ! 

 また取り逃がすのか!?




 「甘いです。今の私から逃げれると思いましたか?」



 どすっ!!



 いつの間にかクシャトリア司祭の後ろについていたコクが無慈悲にその腕をクシャトリア司祭の背中に突き刺しそのまま貫く。


 「がはっ!」


 空中でコクに貫かれたままのクシャトリア司祭は吐血して動かなくなる。



 「クシャトリア様っ!!」



 アスラが叫ぶが今度こそクシャトリア司祭は動かなくなった。

 コクはその手を引き抜くとクシャトリア司祭はそのまま海面に落ちていく。

 

 そして大きな水柱を立てて水面に浮きその周辺を真っ赤に染めていった。



 「いやぁっ! クシャトリア様ぁっ!!」



 「ベルトバッツよ!!」


 「はっ!」



 叫びながら戦線を離脱するアスラにコクはベルトバッツさんに命令を下しアスラの背にその刃を刺す。



 ひゅんっ

 どすっ!!

 


 「ぐはっ! お、おのれぇ‥‥‥」


 ベルトバッツさんが投げた刀は見事にアスラを貫きよろよろと数歩歩いてその場で倒れ動かなくなった。

 それを見た他のダークエルフたちは慌てて蜘蛛の子を散らすかのように逃げ去っていく。




 「流石にもう復活はしなわよね?」


 弓を構えたままのシェルは目を離さないであたしに聞いてくる。

 いくら十二使徒でも何個も「身代わりの首飾り」は持っていないだろう。

 ボーンズ神父同様に。



 「エルハイミ、学園へ!」


 ティアナは既に刀を鞘に納め走り出していた。

 倒れたクシャトリア司祭やダークエルフのアスラを完全確認できてはいないけどあたしもティアナに続き走り出すのだった。


 

 * * * 



 学園に戻ると研究棟の方で今だに人々が右往左往している。

 


 何人かの魔術師は戒めの腕輪をしていないので魔法の杖を構えその人物に対して牽制を行っている。



 「【炎の矢】!!」



 あれはソリス教授!?

 彼女は【炎の矢】を作って攻撃をしている。



 「やめてください! ルイズがいます!!」


 しかしその間にアンナさんが入って【炎の矢】を魔力還元して吸収してしまう。

 見ればアンナさんの瞳が金色に輝いている。

 心眼を使っている?



 「ふ、へははははははっ! 良いぞ、アンナ! 私を守れなければこの子も巻き添えだ! マ、マースも動くなよ!!」



 声のしたその人物を見るとなんとジャストミン教授!?




 「ジャストミン教授! 私が代わりになりますからルイズを返してください!!」


 アンナさんの悲痛の声が響く。


 「う、うるさい!! せ、せっかく目をかけてやったのにマースなんかと良い仲になりやがって!! こ、こんなガキまで作りやがって! マースより俺の方が五歳も若いんだぞ!? なのにあんなおっさんのどこが良いんだ!?」


 いつも物静かなジャストミン教授とは思えないようなものの言い方。

 

 「ジャストミン教授落ち着いてください! 今はそんなことしている場合では無いです!」


 ソルミナ教授もジャストミン教授を取り囲んでいる中にいた。


 「う、うるさい! 金床! 俺はお前みたいなのには興味ないんだ!!」


 「なっ! 人が気にしている事を!! 風の精霊よ!」


 トサカに来たソルミナ教授が風の精霊を使ってジャストミン教授を攻撃しようとする。

 しかしやはりアンナさんが間に入ってそれを阻止する。



 「ソルミナ教授も落ち着いてください!」


 「ジャストミン、いい加減にしないか!」


 「うるさいマース! 貴様ばかり予算を増やされアンナまで手に入れ! お前なんか石っころの研究をずっとしていればいいものを!!」



 そう言ってルイズちゃんを高く掲げる。


 「へははははははっ! お、俺を攻撃すればこの赤ん坊もただでは済まないぞ! さあ、マース『女神の杖』をよこせ! そうすえばこのガキは返してやる!!」



 「ジャストミン教授!!」



 あたしは思わずジャストミン教授を呼ぶ。

 

 「はははっはっ、エ、エルハイミじゃないか? く、来るな! 化け物!! ティアナ、お前もだ!! お、お前ら魔女のせいで俺は、俺はぁぁぁっ!! くははははははっ! やっぱりこの世は腐ってんだよ! 滅べばいい! すべてぶっ壊れればいいんだ!!」


 既に正気を失っているのか!?

 あのジャストミン教授とはとても思えない。


 

 「どう言う事ですかジャストミン教授? 今はジュメルが攻めて来てこんな事をしている場合では無いでしょうに!?」



 ティアナもジャストミン教授を取り囲む輪に入りながらそう言う。


 「うるさい! うるさい!! うるさいぃ!!!! マース、早く女神の杖を寄こせ! でないと!!」


 ジャストミン教授はルイズちゃんに懐から出した短剣を突き立てる。



 「止めてぇっ!!」



 「来るなアンナっ! それ以上来れば一思いにこのガキを刺すぞ! さあ、マース早くそれを寄こせ!!」


 「くっ!」


 マース教授は七本の女神の杖が包まれた布をジャストミン教授の足元に置く。


 「よし、さ、下がれ! 変な動きするとこうだぞ!!」



 ぷすっ!



 ジャストミン教授はルイズちゃんの足の辺りにその短剣を浅く突き立てる!



 「ふぇっ、ふぎゃあぁぁぁぁぁああああぁぁっ!!」



 ルイズちゃんは初めて味わうで有ろうその痛みに号泣する。



 「ルイズ!!」


 「くっ! 『女神の杖』は渡した! ルイズにこれ以上手を出すな!!」



 アンナさんやマース教授は今にも飛び掛かりそうな勢いだが未だにルイズちゃんに短剣を突き立てたままだ。

 これではだれも手が出せない。


 ジャストミン教授はその「女神の杖」を足で引き寄せ小脇に抱える。

 しかしルイズちゃんに突き立てた短剣はそのまま。



 「ははっ、やったぞ、『女神の杖』を手に入れた! これで俺も十二使徒に成れる! もうこんなうだつの上がらない教員なんかしなくていいんだ!」



 そう言いながら周りの輪を牽制してもっと広い場所へ出る。



 「逃げられはしないぞ、ジャストミン教授!」


 ティアナは剣を引き抜き間合いを取る。

 


 『エルハイミ、シェルに言って睡眠の魔法を! それとコクにもお願いしてあの隠密たちを!』


 シコちゃんはあたしに念話を飛ばす。

 これはティアナやセレにも聞こえている。



 『シェル、睡眠の魔法を! コク、ベルトバッツさんたちを使ってルイズちゃんを!!』



 あたしも急ぎシェルとコクに念話を飛ばす。

 シェルはジャストミン教授に見えない様に場所を動き精神の精霊に働きかける。


 『お母様、ベルトバッツたちの配置終わりました。クロやクロエも準備いいです!』


 あたしたちが準備を終えて動き出す寸前だった。




 「こんな小さな子を巻き込むのは良く無いわ。【束縛魔法】バインド!!」



 力ある呪文が完成してジャストミン教授の体に魔法のロープが絡み付く。

 その拍子に手にしたルイズちゃんが離れた。



 「ルイズ!」


 「ルイズちゃん!!」



 しかし落とされたルイズちゃんは地面にぶつかる前にふわっとある女性に抱きかかえられる。



 「危なかったわね? もう大丈夫よ」


 「イパネマさん!!」




 ルイズちゃんの危機を救ったのは姿を見せなかったイパネマさんだったのだった。  

 

  


 

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