第421話15-10ガルザイルへ


 15-10ガルザイルへ



 「嘘でしょ? これって‥‥‥」


 イパネマさんは唖然としてその光景を見ている。

 彼女が見る先には何と半ば完成しかかっている素体が有ったのだった。




 「イオマ、行きますわよ!! アイミ準備してですわ!!」


 あたしはイオマに教えてもらった異空間理論を駆使して連結型魔晶石核の作成に取り掛かっていた。

 アイミが呼び出す低級精霊たちをどんどんと魔晶石に融合していく。

 アイミだけでは大変なのでウィンドー、ウォーター、フレイム、アースたちも使って下級精霊を呼び出させる。


 大体百個くらい魔晶石核が出来上がったらベースの魔晶石核に異空間を設置して連結させた魔晶石核をポコポコ入れて行く。

 すると魔晶石核があの「丁」の字の形に変形してくる。



 うーん、未だに謎なのだけど連結型魔晶石核作ると必ずこの形になっちゃうのよね?



 「お、お姉さま、流石にこれは凄過ぎです! あれだけ苦労した連結型がもう出来上がるなんて!!」


 あたしは予備を考えて二個目の連結型を作り上げていた。

 あ、アイミたちには連続で低級精霊召喚させているから定期的に魔力注入もしているけどね。



 「お母様、ますます人間離れしていますね? 私はうれしいですけど」


 あたしの様子を見ていたコクはだいぶ長くなった手足を組んであたしの横で作業を見つめている。

 うーん十歳くらいになったから可愛いは可愛いけど奇麗にもなって来たのでちょっとうれしい。

 母親の気持ちってこういうのかな?

 コクは相変わらずゴスロリチックな服を着ているけど黒髪だから白のワンピースも似合うと思うのだけど?

 



 「あー、いたいた。エルハイミご飯よ。あなたもう二日も寝てないけど大丈夫なの?」


 シェルが食事を持ってきてくれた。

 

 「エルハイミ、あまり無理はしないでください。心配ですよ」


 ティアナもここ何時間か置きにあたしの様子を見に来ている。

 そう言えばもう二日も寝ていないで作業を続けているのだっけ?


 あたしはとにかく初号機を早く作りあげたくて【異空間渡り】の魔法を使ってジルの村まで魔鉱石を取りに行ったりもしていた。


 驚いたことにここからジルの村くらいまでの距離は【異空間渡り】が使えるようになっていて、行った事のある場所なら鮮明にイメージさえできればいけるようになっていた。



 『ほんとエルハイミは何でもありになりつつあるわね? もうあたしが手伝う事が無くなっちゃうくらいにね』



 シコちゃんはそう言うけどあたしの知らない魔法なんてまだまだある。

 その点シコちゃんはそう言った魔法全般に詳しい。



 「エルハイミさん、流石にそろそろ休まねえとエルハイミさんだけでなく工房の連中も倒れちまうぞ?」


 ルブクさんに言われあたしはシェルから渡されたサンドウィッチをかじりながら初めて回りの様子を見る。


 

 工房の初号機付近には寝袋で寝ている職人たち。

 ルブクさんですら目の下にクマ作って先ほど目覚めたばかり。

 

 イオマも昨日は徹夜で付き合ってくれていたんだっけ?


 でも不思議とあたしは全然疲れていない。

 なんかいけない扉でも開いちゃったのだろうか?



 うーん流石にこれはやばいか?



 あたしは初号機を見る。

 実はあたしはこの初号機に有る事を考えていた。

 それは連結型魔晶石核を二台乗せる事。

 

 もともと腰部には連結型魔晶石核を搭載する場所が有った。

 それを操作性と感度の向上で搭乗者の背中の辺りに移した。

 しかし腰部スペースは空いたままだったのでもしそこにもう一つ連結型魔晶石核を取り付けたら?



 単純比で二倍の出力が出せる事になる。



 あたしはそんな事を考えていた。

 

 「しかし流石にこの状態はまずいですわね? イオマお疲れ様ですわ。二個目の連結型魔晶石核も出来ましたから今日はゆっくりと休みましょうですわ。あとは私がやっておきますから」


 「でもお姉さまだって‥‥‥」


 「初号機の素体はあと少しで出来上がりますわ。幸い設計図はアンナさんのおかげでわかりやすくなっているし魔獣の生体パーツはストックもありますわ。足らない内部装甲は魔獣の素材ではなく私の持っているミスリルで代用しますわ。だからイオマたちは少し休んでくださいですわ」



 「エルハイミ‥‥‥」

 

 「ティアナも心配無用ですわ。なんとしても素体にまでして連合軍に運び入れますわ」



 ぴこぴこっ!



 アイミもずっと手伝ってくれているし体が大きくなったおかげで組み立てに手伝いに大いに役立っている。


 あと少し、あと少しで初号機の素体が出来上がるのだ。



 「エルハイミ、ではこの後は私も手伝います。一緒に素体を完成しましょう」


 「ティアナ様、私たちもお手伝いします!」

 

 「そうです、正妻と二人きりでいちゃいちゃさせません!」


 ティアナはそう言ってくれるけど邪な思いの二人は邪魔だけはしないでよね?


 「なら私も手伝おうかしら? 私にも何かできそうかしらエルハイミさん?」


 イパネマさんまでそう言ってくれる。

 あたしはにっこりとほほ笑んでぺこりと頭を下げてから言う。


 「ではあと少し、一緒にお願いしますわ!」


 そして残りの部分を魔術師が中心になって組み立てて行くのであった。



 * * * * * 



 「本当にすごいですね、エルハイミちゃんは!」


 翌日初号機の素体が完成していた。

 アンナさんはルイズちゃんを抱っこしたまま工房に来ていて完成していた初号機の素体を見て驚いている。


 「まさかあれだけ物資が不足していたのに素体を組み上げるとは、エルハイミ殿一体どんな魔法を使ったのですか?」


 エスティマ様も工房にやってきて初号機の素体を見上げている。


 「しかし見た感じ少し違うようだが?」


 「ええ、不足部材は私が持っていた個人的な部材を代用しましたわ。そちらの部材評価は連合軍でして良ければ伝達してこちらの零号機も改修してもらいますわ。逆にダメであれば本国に言って従来のパーツを取り寄せてもらい初号機の方を改修いたしますわ!」


 とは言え多分初号機の方が性能が上になっているだろう。

 内部装甲の一部はミスリルになっているし魔獣の生体組織が足りなかった所にはミスリル水銀を魔力コーティングしたもので代用しているし、魔晶石が不足した所もあたしたちが持っているゴーレムのコア材で補填しているし‥‥‥



 うん、お金にしたらもの凄い事になりそう‥‥‥



 あたしは深く考えない様にして初号機を見上げる。

 するとシェルがポツリと聞いてくる。



 「こんなに短期間で作り上げたのはすごいけど、これってどうやって連合軍にまで持って行くのよ?」



 「「「あっ!?」」」



 思わずあたしたち数人はここで声を漏らす。

 そう言えばここで稼働実験するんじゃなかった‥‥‥

 あたしはティアナを見る。


 ティアナも頬に一筋の汗を流している。



 うん、零号機の性能の凄さにばかり目が行っていて運搬の事とかまったく考えていなかった!!



 しかしそんなあたしたちにアンナさんは不思議そうに指さしながら聞いてくる。


 「運搬はエルハイミちゃんたちの持つそのエルフの魔法のポーチで出来ないのですか? 私はてっきり最初から殿下がそれで持って行くのだとばかり思っていましたが?」


 確かにアイミは入ったよ?

 でもアイミのゆうに倍以上ある「鋼鉄の鎧騎士」の素体をこのポーチに入れるって出来るの?


 思わずあたしはシェルを見る。

 しかしシェルは肩をすくめかぶりを振りながらこう言う。


 「そんな大きなもの入れた事無いから分からないわよ? ただエルハイミたちのはメル長老たちが作ったって聞いたから普通のよりたくさん入るって言ってたけどね。 試してみれば?」


 なんか無責任だなぁ。


 流石にこれは無理だろうと思いながらも万が一があるからと試してみると‥‥‥



 すぽんっ!



 入っちゃったぁっ!?

 嘘、何この猫型ロボットの数次元ポケット!?


 まさかと思ったけど本当にはいちゃった!!

 しかもキャリアーまで一緒に!!




 「いや、これは流石に驚いていいわよね?」



 イパネマさんはそう言いながらあたしを見る。

 勿論他の人も目を丸くしている。



 『あんた、本当に何でも有りになって来たわね? エルハイミ、貴女もう女神に近くなっているのじゃない?』



 シコちゃんがあきれてそう言う。



 いやいやいいやっ!


 これはエルフのポーチよ!?

 あたし関係無いもんっ!



 そう言いたくてもその場の雰囲気は既にあたしの所業だと言う事になっているらしい。


 「まあ、お姉さまですから」


 イオマがトドメの一言を言う。




 あうっ!




 * * * * * 

  

  

 「それでは行ってきます」


 「ああ、主よ無理はするなよ?」


 ゾナーはそう言って手を振る。


 「お姉さまも気を付けて。零号機の運用データーは後で連合軍の本部にメッセンジャーで知らせますね」


 「殿下もくれぐれも無理をなさらない様に」


 「あぶぅううう~」


 イオマやアンナさんも見送りに来てくれていた。

 あたしたちはゲートに入り手を振りながら起動をした。


 十分に休息は取れたし予定外の戦力も手に入れた。

 あたしたちはガルザイルに戻りこれから迎える赤竜との戦いに準備をしなければならない。



 太古の竜、赤竜。


 成人したコクと同じ力を持つ者。

 女神殺しの竜。


 しかしあたしたちはそれを倒さなければならない。




 あたしはぐっと手を握るのだった。


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