第396話14-21アインシュ商会
14-21アインシュ商会
貿易都市サフェリナ。
その昔精霊都市ユグリアを作り上げた魔法王ガーベルが西の大陸ウェージムに渡る為に元漁村だったここを現在の様な港町にまで発展させ、ウェージム大陸との交易でその規模を大きくしていき貿易都市とまでなった。
今では近隣の街もその経済圏に取り組みサフェリナ共和国となっている。
また「女神戦争」の折に商売の女神エリル様が倒れた土地ともなっていて商業も盛んだ。
「明日にはサフェリナにつきそうですね?」
「そうですわね、シェルやっと陸地ですわよ?」
「うへぇ~、やっと陸地かぁ。新鮮な果物も食べれるかな?」
食堂でみんなで食事しながらあたしたちは話をしている。
「サフェリナですか?確か女神エリルの没した場所のはずですね?」
「そうですわ。商売の女神エリル様、だから今は貿易都市となっていますわよ」
コクはあたしを見ながら首をかしげる。
ん?
何かあるのかな?
「女神エリルは商売の女神とされているのですか? あの女神はおおよそ商売の『商』の字すらまっとうに出来ないような女神ですよ? 何時も他の女神との交渉で不利な状況に追い込まれていて損をしていたはずですが?」
「はい? しかしエリル様を信仰すると富が有られるともっぱら商人たちには人気がありますわよ?」
「たぶん、あの女神の幸運度が他の者に分け与えられているせいでしょう。女神戦争の時だって一番最初に不利に追い込まれあんなところで身を滅ぼしたのですから」
今明かされる衝撃の事実!
まさか商売の女神エリル様がそんな女神だったとは!?
あたしは頬に一筋の汗を流しながら言う。
「ま、まあ現代ではエリル様のおかげで商人たちが潤うのですから良いのではないのですの?」
「しかしお母様、あの女神にはかかわらない方が良いですよ。貧乏くじを引く羽目に成りますから」
あたしは更に汗を流し思うのだった。
絶対に近づかないでおこうと。
* * * * *
「やっと着きやがりましたか。歩く旅よりはましでいやがりましたね。ここがサフェリナでいやがりますか?」
クロエさんは船から降りると大きく伸びをした。
その横でシェルも同じように伸びをしている。
「うはぁーっ、やっぱいろいろな精霊がいる方が落ち着くわ。あたしはやはり陸地の方が良いわね~」
「うっぷっ、や、やっと着きました‥‥‥」
「ミアム大丈夫?」
「ああっ! 弱っているミアムの介抱も此処までか! もっといろいろしてあげたかったのに!!」
「アラージュ、そう言ってミアムさんの服を脱がそうとするのはどうかと思うのだけど? その都度とばっちりが来るこっちの身にもなって欲しいわ」
船に乗ってしばらくミアムが大人しかったのは船酔いで倒れていたからだ。
心配になって様子を見に行くとセレとアラージュさんとカーミラさんが看病していたのであたしは氷を魔法で出してやって置いてきてやったりもした。
イパネマさんやティアナも同じようにかわるがわる氷の差し入れをしてやってきたけどなぜかあたしだけ感謝されなかった。
こいつらめ‥‥‥
と、一人の商人風の中年の男があたしたちに近づいて来た。
「失礼、連合軍将軍ティアナ様御一行とお見受けいたしますが、間違いないでしょうか?」
「ええ、私がティアナです。貴方は?」
その男はその場で頭を下げティアナに挨拶をする。
「私はソルネカ=アインシュと申します。アインシュ商会の若頭をさせていただいている者です。お待ちしておりましたティアナ将軍、どうぞこちらに」
そう言ってソルネカと名乗った男はあたしたちを待機させていた馬車に誘導する。
アインシュ商会の者と聞きあたしたちはその馬車に大人しく乗り込む。
事前に師匠から連絡が行っていたのだろう、大人数でも十分に乗れる馬車の数が用意されていた。
あたしとティアナはこのソルネカさんと言う人と同じ馬車に乗り他の人は別々の馬車に乗る。
そして一同アインシュ商会へ向かう。
「噂に聞いておりましたが、『赤い悪魔』や『育乳の魔女』と呼ばれるような風貌にはとても見えませんな。お二人とも妻の言う通りお美しい方だ」
ちょっとマテ、ティアナはまだしもなんであたしは「育乳の魔女」なのよ!
それに最後に言った妻って?
「ソルネカさん、その『育乳の魔女』ってのは何なのですの? それに妻とはですわ?」
あたしは一応突っ込みを入れながらついでに奥さんの事も聞く。
どうやらその奥さんはあたしたちの事を知っている様だ。
「おっと、これは失礼。噂話ですご容赦ください。それと私の妻の名はロザリナと申します。ティアナ将軍やエルハイミ様は妻とも面識が有ると聞いておりますが?」
「ロザリナさん!?」
「そうですか、元生徒会長のロザリナ殿がソルネカ殿の奥方ですか。確かに学生時代ロザリナ殿にはお世話になりました」
あたしはちょっと驚いたがティアナは平然と受け止めていた。
確かロザリナさんは卒業の後実家に戻って家業手伝っているとは聞いていたけど。
あれ?
でもソルネカさんって姓がアインシュって事は‥‥‥
「はははっ、ティアナ将軍もお人が悪い。学生時代はロザリナの方が世話になっていたと言っていましたよ? まあ、あの性格の妻ですからね。必要なものは全て自分の手元に置いてしまう。私も娶るつもりが娶られましたよ」
そう言ってソルネカさんはまた笑う。
口ではそう言っているものの当人もまんざらじゃないのだろう。
そんな雑談をしながら馬車はアインシュ商会へと向う。
* * *
如何にも商会の風体の建物だ。
あたしは馬車を降り建物を見た最初の印象がそれであった。
「ようこそおいでくださいました。お久しぶりですねティナ殿下、エルハイミさん?」
声のする方を見ると頭の上に長い髪をまとめ上げたキリリとした女性が立っていた。
だいぶ落ち着いた物腰だがその瞳は相変わらずであたしたちを見ている。
「ロザリナ殿、お久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「お久しぶりですわ、ロザリナさん」
ティアナもあたしも出迎えてくれたロザリナさんに挨拶をする。
ロザリナさんは笑顔になってあたしたちを建物の中に案内する。
ぞろぞろとあたしたちは応接間に案内される。
「皆さん全て連合軍の方なのですか?」
「ええ、一部私とエルハイミの従者もいますがおおむね連合軍の活動の支援をしています」
ロザリナさんはコクを見ながら質問をしてくる。
セレやミアムはティアナの付き人風だしクロさんやクロエさんは執事とメイド服だ。
しかしどう見ての幼女のコクが一緒にいるのでロザリナさんは首をかしげている。
「そうですか、こちらのお嬢ちゃんはエルハイミさんの娘さんかと思いましたが違うのですか?」
「えーと、コクはそうですわね、まあ娘みたいなものですわね」
「私は黒龍です。訳あってお母様のお力で今の姿になっています」
コクはずいっと自己主張をする。
「黒龍? まさか伝説の太古の竜ですか? エルハイミさん、相変わらず常識の通じない人のようですね?」
どう言う評価よそれって?
しかしまあ、言いたい事は分かる。
普通おとぎ話や伝説でしか出てこない黒龍の話をされてもみんな信じられないもんね。
あたしは苦笑する。
そしてロザリナさんに言う。
「相変わらずですのね?」
「ええ、相変わらずです。まあ、あなたたちに隠しても仕方ありません。噂は色々と入手しています。エルハイミさんのイージムやサージム大陸での噂やティアナ殿下の連合軍将軍としての活躍も」
やっぱりそうか。
「育乳の魔女」の呼び名はせいぜい水上都市スィーフくらいまでで精霊都市ユグリアではその呼び名はあまり知られていない。
それなのにソルネカさんはあたしのそっちの呼び名を言った。
だからロザリナさんはほとんどの情報を手にしているはずだ。
相変わらずねぇ。
「では海賊もそう言う事ですのね?」
「察しが早くて助かります。ジュメルです」
ざわっ。
ティアナも大体気付いている様だけど他の人はロザリナさんのその言葉に驚く。
交易のマジックアイテムを中心に襲い来る海賊。
アインシュ商会ほどの力のある商船を襲う実力。
ただの海賊であるはずがない。
「まずはお茶でも入れますから一息つきましょう。あなた、悪いけどお茶を運ばせるように言ってもらえます?」
「ああ、分かったよ。こちらはお前に任せるよ」
そう言ってソルネカさんは部屋を出て行った。
海上でのジュメルか。
かなり厄介になるだろうとあたしは思うのだった。
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