第393話14-18イオマの決断

 14-18イオマの決断



 なんだかんだ言って今のあたしたちの総戦力をもってすれば特殊工房の改築もたったの一日で済んでしまった。




 「常識ってものを考えさせられますわな‥‥‥」


 ルブクさんはそう言って新しく出来上がった工房を見る。

 六メートル級が入るとするとその整備やら何やらは必要となれば倍以上の高さが必要となる。

 ここは豪雪地帯なので雪の重さにも耐えられることを考えると自然とこうなる。

 そう、ボヘーミャの開発棟並に頑丈なものになってしまったのだ。


 「しかしこれでアンナの『ガーディアン計画』とやらの受け入れ準備はできました。次期国防の要となるやもしれないとなればここも今後は機密扱いになるでしょう。兄様、この件は早急に陛下にご連絡をしておいた方が良いのでは?」


 「既に連絡済みと言うか、アンナ殿が提案した時点で陛下にも話は行っている。それに許可も出ている。それより相談なんだがな」


 エスティマ様はそう言いながらあたしとティアナを見る。


 「やはりお前とエルハイミ殿がいると違う。今後もこの計画に協力してもらえないか?」


 確かにエスティマ様の言いたい事は分かる。

 しかし今は「女神の杖」回収の問題もある。


 「兄様、勿論可能な限り協力します。しかし今は『女神の杖』回収をしないといけません。当然戻れるときは戻ります。ここは私とエルハイミの家同然の場所なのですから」


 それを聞いたエスティマ様は少し笑って息を吐き出す。


 「それで十分だ。お前たちがいればこういった無茶な話も何とかなりそうだからな。我々だけではとてもでないがこんな無茶っぷりはできんからな」


 「全くですよ、しかしこの工房は良い。エルハイミさんが作ってくれた工作機器ってやつや滑車、新型の炉なんてものが有るおかげで効率がぐっと上がりそうだ」


 ルブクさんは大いに喜んでいた。


 あたしは生前に協力会社に有った工作機器と言うのを思い出しこちらでも再現してみた。

 そしてシェルがいるので炎の精霊力を使って新型炉も作ってみた。

 鉄を鍛えるのにもこれが有ると格段に効率が良くなる。


 「いつもお世話になっているルブクさんたちへのささやかな恩返しですわ。使い方はさっき教えた通りなので大丈夫ですわね?」


 「ああ、すでにうちのやつらに使わせてみている。連中も喜んでいるよ」


 ルブクさんはそう言って愉快そうに笑う。

 

 「後はアンナ殿の計画の知らせを待つばかりか、そうだ、そう言えば主たちにメッセンジャーが来ていたぞ?」


 ゾナーにそう言われあたしたちは執務室に向かった。



 * * *



 『流石は殿下とエルハイミちゃんですね。もう特殊工房が出来上がったとは驚きです。それで、『女神の杖』探索についてですがサフェリナ共和国に師匠からも要請で連絡を入れたらアインシュ商会がお手伝いをしたいと言い出しているそうです』



 アインシュ商会?

 えーと、確か生徒会長の実家?

 

 ロザリナさんそう言えば今はどうしているのだろう?



 『それと、そろそろだと思うのですが、エルハイミちゃん驚かないでくださいね?』



 はい?

 何を驚くなと?




 「お姉さまぁっ!!」



 「うわっきゃぁっ!? えっ? イ、イオマぁっ!?」



 『今しがたそちらにイオマちゃんが向かいました。彼女の才能はかなりのモノですよ? 一度教えただけでゲートも使えましたしね。今後ティナの町にはイオマちゃんにも行ってもらいますのでよろしくお願いしますね』


 そう言ってアンナさんのメッセージは途切れた。



 「んん~っ! お姉さまぁっ!! ああ、お姉さまの香りだあぁ‥‥‥ って、ティアナさんの香りも混じっている?」


 イオマはあたしに抱き着いてほおずりしている。



 「イ、イオマこれはどう言う事ですの?」


 「それより久しぶりなんですからチューしてください、お姉さま。むちゅ~っ!」



 「イオマいい加減にしなさい! お母様は私のです!!」

 

 「イオマずるい! だったらあたしもエルハイミと!」


 「良いですよ皆さん! そのまま正妻を奪って行ってください!!」


 「頑張れコクちゃん、イオマさん、シェルさん!!」


 「エ、エルハイミ、義妹とのスキンシップもほどほどにしてください‥‥‥」


 『でもすごいじゃない、一回教えただけで連続でゲート使るなんてこの子結構才能あったのね?』



 あたしの驚きの質問にイオマはキスをせがんできてコクやシェルは騒ぐし、その後押しでセレやミアムは応援し始めるし、ティアナはふるふるして我慢しているしシコちゃんは冷静にイオマを評価しているしで大騒ぎに!


 「彼女もゲートが使えるの? すごいわね」

 

 「ティアナ将軍の身内ってすごい人ばかりなのね?」


 「それはそうだろ、セレやミアムの可愛さは比類なきものだろう!」


 「いや、そう言う意味じゃないんだけど、アラージュ人の話聞いている?」


 確かに一回教えただけでゲート使えるのそこそこ力が無いといけないもんね。

 同じ魔術師のイパネマさんが驚くはずだ。

 カーミラさんやアラージュさんは相変わらず漫才してるけど。

 


 「ふむ、やはり主たちが帰ってくると途端に賑やかになって来るな。ん? どうしたエスティマ様?」


 「はぁ、エルハイミ殿をティアナに取られてしまったんでなぁ~」


 「寂しいのならばエスティマ様も早く嫁を娶られればいいだろう?」


 「うるさい、俺は単に言い寄ってくる女じゃ嫌なんだよ! それにお前みたいに沢山の妾ばかり作る気はないぞ?」



 ん?

 ソナーに妾だって?



 「あいつらは俺に付いて来てくれた大切な女たちだ、妾ではありませんよ、俺は全て妻だと思ってますよ?」


 「あんな貧乳たちのどこが良いのか、子育てだって大変だったろうに?」

 

 「なに、小さくても子供が出来れば乳は出ますよ。お陰で立派に育ちましたよ」



 ちょっとまて、ゾナー、どう言う事?



 「あ、あの、ゾナー、奥さんいたのですの? そ、それにその口ぶりってもう子供も?」


 「エルハイミは知らなかったのですか? ゾナーには五人の女性がいて十人の子供たちがいますよ? 確か一番大きな子はもうすぐ成人でしたよね?」


 あたしが驚き聞くとティアナが答えてくれた。


 「ああ、我が主よ、おかげでザナーのやつも立派に大人になった。最近は剣の腕も上がって楽しみだ」



 え”え”えええええっっ!!!?


 ゾナー、あんた妻子持ちだったの!?

 しかも一番大きい子がもう成人!?


 

 「あー、やっぱりあの女子たちゾナーの奥さんだったんだ。前からあの部屋の近くにちょろちょろしてた子供たちってゾナーの子供だったんだ。てっきりホリゾンから逃げてきた子供と思ってたけど」



 シェルがあっけらかんと言い放つ事実!

 何それ、みんな知ってたの??



 「ゾナー、何故今まで黙っていたのですの?」


 「い、いや、黙っていたわけではないのだが、エルハイミ殿に近づけるといろいろと影響が出ると思ってな‥‥‥」



 何の影響よっ!?



 「あー、そう言えば娘たちを近づけるとエルハミに胸を育てられるとか言ってたっけ?」


 「そういや、エルハイミねーちゃんに近づけると女癖が悪くなるからザナーたちの事は言うなって言ってたなぁ」


 シェルもジルもそんな前から知っていたわけね?

 と言うかあたしに会わせない理由がそれってどう言う事よ!!!?

 あたしはゆらりと立ち上がりゾナーを睨む。



 「ゾナ~ですわぁ~」


 「お、落ち着けエルハイミ殿!」


 ゾナーは額にびっしり脂汗をかいてエスティマ様の後ろに逃げ込む。


 

 くっ! 

 おのれゾナー、覚えておきなさいよ!!



 「ああ、これだよこれ、エルハイミ殿に威圧されるこの感じ。媚びるのではなく上から目線でなじられるようなこの感じを持った女性なんてそうそういないんだよなぁ。踏まれたい‥‥‥」


 何故かエスティマ様は少し頬を染める。

 そんなあたしたちの様子を見ていたイオマが思い出したかのように寄ってくる。 


 「あ、そうだ。お姉さま、ティアナさん、アンナさんから預かりものです!」


 そう言ってイオマは手紙を渡して来てくれた。

 あたしたちはさっそくその手紙を開いてみる。



 するとそれには「ガーディアン計画」についての構想と新型の魔晶石核の構想について書かれていた。



 「新型魔晶石核?」



 ティアナはそこまで読んでイオマに聞く。


 「はい、アンナさんといろいろ話して実験を始め基礎理論の構築とテストでそれが可能になりそうなんです。もし成功すれば通常の魔晶石核の百倍以上の出力が出せるだろうって。うまくいけば四連型にも出来るって」



 「四連型ですの!?」



 あたしは正直驚いている。

 現存する四連型はアイミの中にしかない。

 それが他にも作成できる可能性が有ると言う事だ。

 しかも新型は通常の百倍‥‥‥



 「一体どんな理論でそこまでの出力が出せるのですの?」


 あたしは思わず興味本位でイオマに聞いてしまった。



 「私が知っていた召喚魔法は異空間とのかかわりがとても強いです。なのでそれを上手く利用して魔晶石核の運転状態を保ちどんどんと異空間に封じ込めるんです。外観上は一個の魔晶石核ですが予想では百個くらいは異空間にいれられるので単純に言えば百個分の仕事をしてくれるわけです。更に相互関係の共鳴効果も必要なく異空間なので精霊の霧散も無く、これから実験する『女神の杖』の影響も多分受けずに済むでしょう」


 いわば見かけ上一個の魔晶石核で百個分の出力が出せると言う事?

 共鳴効果も必要なく単純に出力だけを絞り出すと言う訳か。


 これはすごい発想だ。

 しかも異空間だから最大の寿命問題も解決できる。



 「すごい発想では無いですの!」


 「あたしからのアイデアなんですけどね」


 「しかしこの技術、アンナさんも知らなかったと言うのですの?」


 イオマは頷く。


 「今までは小さくするとか圧縮するとかの考えはありましたけどここまで小さくすることは出来ませんでしたからね。ただ、何故か魔晶石核に異空間を作ろうとするとこんな格好になっちゃうんですけどね」


 そう言ってイオマは懐から丁の字のかっこうをしたものを取り出す。

 

 「これが試作の新型魔晶石核のフレームです。まだ三個しか入れていませんがその出力は通常の三倍であることが確認されました。これをもとに四連型も可能ではないかとアンナさんは言っています」


 その新型魔晶石核は淡く赤い色に光っていた。

 

 双備型魔晶石核は共鳴効果が始まってしまうと運転時の二乗相当の出力を出す。 

 しかしこれは単純にいれた分だけの出力を出す様だ。


 それでもすごいことには変わりない。



 「だからあたしはこの開発に全力で挑もうと思います。お姉さま、きっと役に立つもの作りますからね! それと今後このティナの町にはあたしもちょくちょく来させてもらいます。新型魔晶石核の開発に成功すればいよいよ『ガーディアン計画』の『鋼鉄の鎧騎士』の作成ですもんね!」


 そう、アンナさんの手紙には『ガーディアン計画』で『鋼鉄の鎧騎士』を作成することが書いてあった。

 イオマはその原動力である新型魔晶石核の開発をやると言っている。


 それはあたしたちを手助けしたいイオマの決断。

 一緒にいられる時間は少なくなっちゃうけどイオマはここティナの町とボヘーミャを往来してこの計画を推進してくれる事だろう。


 


 あたしはそんなイオマに微笑むのだった。 

 

   

 

 

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