第388話14-13イオマとアンナ

 14-13イオマとアンナ



 あたしたちは学園都市ボヘーミャに戻っていた。


 

 結局ご先祖様に会ってもいい方法は見つからず、会えるかどうかわからない天秤の女神アガシタ様に助言をもらえとか投げられた。



 「と言う訳でした。残念ながら魔法王ガーベルでも良い方法が有りませんでした」


 ティアナは師匠にそう報告した。

 みんなも黙ったままだ。


 「しかし完全に望みがなくなったわけではありませんね? 会えるかどうかは分かりませんが天秤の女神アガシタ様であれば何か良い方法が有るかもしれないのですね?」


 師匠はそう言ってお茶をすすった。

 

 確かにそうかもしれないけどその肝心なアガシタ様が何処にいるのやら。

 そう簡単に見つかれば苦労はない。


 「それとは別にアンナがあなたたちに合いたがっていました。『女神の杖』について幾つか聞きたい事が有るそうです」


 師匠はそう言ってまたお茶をすする。

 あたしもお茶をすすってみてその渋みに口の中をさっぱりとさせる。


 そうだよなぁ。

 今アガシタ様の事で悩んでもどうしようもない。


 「わかりましたわ、アンナさんの所へ行ってみますわ」


 あたしのその一言にみんなは特に意見も無く動き出すのだった。



 * * * 



 「殿下、エルハイミちゃんよく来てくれました」


 アンナさんの研究室へ行くとそう言ってあたしたちを出迎えてくれた。

 今はルイズちゃんは大人しく寝ているようで籠の中にいる様だ。


 「それでアンナ、『女神の杖』について聞きたいそうですがどうしたのですか?」


 ティアナはそう言ってアンナさんに用件を聞く。


 「はい、その前に。実は双備型魔晶石核実装タイプマシンドールでいきなり機能が停止する機体が出ました。調べてみると魔晶石核の精霊が既にもぬけの空で完全にただの魔晶石に戻っていました」



 ん?

 双備型なら相乗効果で少なくとも六、七十年は稼働できそうなものなのに?

 

 一体どう言う事だ?



 「それと『女神の杖』に何か関係が?」


 「はい、我々が開発した魔晶石核は精霊の力によって稼働しています。アイミがいた関係で我々のマシンドールは全て炎の精霊が宿っています。しかしその炎の精霊に対して水の精霊力が強いと影響が出る様でなのです」



 水の精霊力?

 それと『女神の杖』がどんな関係が‥‥‥


 って、それってまさか!?



 「エルハイミちゃんは気づいたようですね? そうです、エルハイミちゃんが回収してきた『女神の杖』の使い方次第で我々の開発した魔晶石核が停止してしまうのです」


 「なっ!?」


 そう言えばイージム大陸では風の女神メリル様の杖のせいで風の精霊自体がかなり制御され風のメッセンジャーがつかえないという問題も出ていた。


 もともと精霊たちはその女神様の力が起源になっている。

 上級精霊に限っては女神様たちの分身でもある。


 となれば当然回収してきた水の女神ノーシィ様の杖を使えば。


 「エルハイミちゃんが回収してきた水の女神ノーシィ様の杖を研究していた時にその杖を稼働させ水を制御する実験中に水の精霊を強く制御した結果暴走をし始めた為に急遽魔力遮断、エルフの魔法の袋に閉じ込める事により暴走は収まったのですが近くにいた護衛用のマシンドールたちが四体すべて同じ症状で停止してしまいました」



 あたしは正直ほっとしている。

 もしその時に近くにショーゴさんがいたら‥‥‥


 あ、危なかった。



 「しかし水の女神ノーシィ様の杖はここに有るのでしょう? だとすればこれ以上は影響が出ないのではないでしょうか?」


 ティアナは冷静に状況判断をする。

 しかしアンナさんは首を横に振る。


 「殿下、問題はそれだけではないのです。現代に蘇った『女神の杖』はその各属性に携わる影響を徐々に大きくして来ているようなのです。まるで今いる世界の魔力を吸収して魔結晶石に閉じ込められている女神の欠片を活性化させようとするかのように」



 ちょっとマテ、それってまさか女神が復活したがっているっての?



 ご先祖様の話では同じところに集めてしまっておくとどれか一つに魔力が集中してマナが増え肉体が復活する恐れがあるとは言っていたけど、今はバラバラに管理しているはずなのに?


 「そこで今まで封印されていた場所に問合せをしたら場所によっては環境に変化が出始めているそうです。例えばリザードマンの国ベンゲル近郊の水の神殿では湧き水が出なくなってきて湖の水位が下がってきているそうです。リザードマンと水の竜が協力して近々川の水を引き込むようですが」


 そうすると場所によっては「女神の杖」が稼働していた場所もあったと言う事か?


 あたしは思う、もしそう言う杖がその機能を止めず単に運び込まれれば‥‥‥

 そして他の杖も何かのきっかけで活性化を始めていれば‥‥‥



 「女神の復活につながるのですの?」


 「断定はできません。しかし否定も出来ません」


 あたしたちは衝撃を受けた。

 腐っても女神。

 たとえ欠片となってもその存在と力は絶大だ。

 そこに女神の魂が宿っていなくても。


 「そこでエルハイミちゃんに了解を取ってイオマちゃんに相談が有るのです」


 「イオマですの?」


 「あ、あたしですか?」


 アンナさんは静かに頷く。

 きょとんとしたイオマをアンナさんは真剣に見て話し始める。


 「イオマちゃんは魔獣召喚士としての知識も豊富、そしてこの学園ではほとんど研究されていない異空間についても知識を持っている」


 そこまで言って手もとに有る魔晶石をなでる。



 「あたしなんかが役に立つとは思えませんが?」



 「この前イオマちゃんが私の研究室で話していたエルハイミちゃんの作ったプロテクターについての考察や魔晶石核の原理についての考え方、そしてこれから私の考えているガーディアン計画についての構想にイオマちゃんの考えが必要になりそうなのです」


 アンナさんはぐっとこぶしを握って力説する。


 「勿論エルハイミちゃんにも手伝ってもらいたいのはやまやまですが、今のエルハイミちゃんは‥‥‥」


 あたしは思わずティアナに寄り添ってしまった。

 

 「エルハイミちゃん、殿下をお願いします。それでどうでしょうかイオマちゃん、無理強いはしませんが貴女のその知識と感性は素晴らしいものがあります。ぜひ協力をお願いしたいのです」



 「あ、あたしは‥‥‥」



 イオマはあたしを見ながら口ごもる。

 そして懇願するかのようなまなざしであたしを見る。



 「イオマ、これはあなたが決めなさいですわ。私もあなたに無理強いするつもりはありませんわ」


 「お姉さま‥‥‥」



 そう言ってイオマは下を向いて黙ってしまう。

 そしてか細い声で言い始める。


 「アンナさんを手伝うって事はお姉さまから離れると言う事ですよね? お姉さまと‥‥‥」


 「イオマちゃん?」


 イオマはしばらく黙っていたがやがてぽつりと言いだした。



 「あの、その研究てお姉さまたちの役に立つ事なんですよね? ‥‥‥少し時間をください」



 それだけ言ってまた黙ってしまった。

 アンナさんはそんなイオマにやさしく微笑んで「勿論です。イオマちゃんがよく考えて答えてくださいね」とだけ言った。


 あたしは何も言えなかった。

 これはイオマが決めなければならない事。


 だからあたしは何も言えなかった。



 「お姉さま、少しだけ私と一緒に来てください。ティアナさん、ごめんなさいお姉さまを少しだけお借りします」



 そう言ってあたしの袖をつかんで部屋の外へと連れだす。



 *


 

 誰もいない廊下。



 窓からやわらかい光が差し込んでいた。

 そんな中イオマはあたしを窓際にまで連れて行く。



 「お姉さまはこれからティアナさんとどうするつもりですか?」


 「私はあの力を使いこなす為の方法を探りますわ。そしてティアナと共にまだ回収されていない『女神の杖』を探しに行きますわ」



 あたしがそうはっきりと言うとイオマはため息をついてあたしの顔を見る。


 「わかってはいましたがそこまでティアナさんを最優先するのですよね、お姉さまは。わかってはいます。でも私の事も忘れないでください」



 そう言っていきなり口づけをしてきた。

 それは軽いものではなく全身全霊であたしを求める激しいもの。



 「んんぅっ!」



 「ちゅぱっ、はぁはぁ、ごめんなさいお姉さま、でも私もお姉さまの為ならこの身がたとえ滅びても構わないんですよ? だから、必ず帰ってきてくださいよ。私はここで待っていますから‥‥‥」


 そう言ってもう一度今度は軽いキスをしてくる。

 あたしは何故かそれらのキスを拒む事が出来なかった。



 「イオマ‥‥‥」


 「うん、もう大丈夫です! 次にお姉さまが帰ってくる時にはきっとアンナさんといろいろな事を成し遂げていますよ! だからお姉さま、ちゃんと帰ってきてくださいね?」



 目の端に涙を浮かべて無理して笑顔を作るイオマ。

 あたしは思わずイオマに口づけをする。


 それは優しい軽い口づけ。



 「お、お姉さま?」


 「ちゃんといい子にして待っているのですよ。私の可愛い妹、イオマ」



 あたしがそう言うとイオマは心底嬉しそうな顔をして「はいっ!」と返事をしてきた。





 そしてあたしたちはイオマの涙を指で拭ってやってからまた部屋に戻るのであった。


 

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