第387話14-12ガーベルの助言

 14-12ガーベルの助言



 師匠に相談してヨハネス神父に対抗する為にご先祖様の助言を受ける事となった。


 あたしたちは再び精霊都ユグリアに飛ぶ。




 「おや? あなたはエルハイミさん? ずいぶんと大人数ですね」


 ゲートを抜けるといつも高台の上に出たが何時も警備しているエルフの男性が声をかけてきた。

 

 「こんにちわですわ。あら? ソルガさんは?」


 「ああ、隊長ですか? 隊長はその、まだエルフの村から帰ってないんですよ‥‥‥」


 「え? ま、まさかまだ折檻喰らっているのですの!?」

 

 「ええ、多分‥‥‥」


 そう言って彼は目をつぶり上を向く。

 その眼の端にはきらりと光るモノが。


 「そ、それはご愁傷さまですわ‥‥‥」


 あたしはそう言って今回の目的を簡単に言って通してもらった。


 「エルハイミ、ソルガさんはどうしたのですか?」


 ティアナが聞いてくる。

 あたしは苦笑を受けべて簡単に説明する。

 すると後ろでシェルが自分の腕を抱いてぶるぶるとしていた。

 

 『シェル、あんたその折檻てのがどう言うのか知っているの?』


 シコちゃんに聞かれたシェルはふるふると涙目で首を横にふる。


 「あんな恐ろしいもの口にするのもはばかれるわ!」


 そう言ってあたしに抱き着いてくる。

 

 「シェルさん! どさくさに紛れて!!」


 「お母様は私のです! 離れなさいシェル!!」


 とたんにイオマとコクが文句を言っているが更に焚き付けるやつもいた。

 そう、セレとミアムだ。


 「シェルさん頑張ってそのまま正妻を引き離してください!」

 

 「そうですそうすればティアナ様の横で私たちが歩けます!」


 「ああ、その嫉妬する様子も可愛らしい!」


 アラージュさんは頬を染めこの二人を見つめている。

 

 「またアラージュの病気が‥‥‥」


 カーミラさんにあきれられつつ、キャイキャイ言いながらあたしたちはユグリアの街に入って行くのだった。


 

 * * *



 「とりあえずは落ち着いているようね?」


 イパネマさんが街で被害にあっていた場所を見ながら歩いている。

 あの後復旧作業に全力をかけていたおかげで最低限の機能は復活していた。


 街全体はまだまだ建築物や破壊された道路の修復をしているが露天や行きかう人々は今までの活気を取り戻していた。


 「そう言えばイパネマさんはずっとユグリアにいたのですの?」


 「ううん、何時もは他の村とかを拠点に冒険に出ているのだけど物入りの時とかにはここまで来るのよ」


 ふーん、じゃあファルさんやルルさんたちとは顔見知りじゃないかもしれないのか。

 それに前に話したときは結構ソロで活動しているって言ってたけど。

 こんなに美人が一人で動き回っているのって危険じゃないのかな?

 魔法の腕はそこそこだから盗賊くらいには後れを取らないだろうけど。


 あたしがそんなこと思っていたらご先祖様がいる宿に着いた。 

   


 ご先祖様かぁ、正直凄い人だとは思うんだけどあの人かぁ。



 あたしはご先祖様が泊まり込んでいる安宿を前にしてため息をつく。

 正直気が重い。


 

 それにまさかまたあんなことやっている最中じゃないでしょうね?



 あたしは一階の酒場に入ってカウンターのおっちゃんに確認をする。


 「こんにちわですわ。また用事が有ってあの人の所に行きますけど部屋にいますかですわ?」


 「ああ、市長と一緒だったお嬢さんか。あの御仁は部屋にいると思うよ」


 宿の主人のおっちゃんはそう言ってにやにやしている。


 「市長のお連れだけどまさかお嬢ちゃんも?」


 「あれは私の父の様な者ですわ! 今は訳あってお母様から逃げ回っていますがいろいろと役には立ちますのですわ」


 そう言うとおっちゃんは上の階を見てからあたしたちを見る。


 「あんなのがねぇ~、ま、うちはお代さえいただければ文句はないんだがね」


 そう言って肩をすくめる。

 あたしは一応お礼を言ってから三階の大部屋へと向かう。


 「お姉さま、ここって結構な安宿ですよね? 魔法王がこんな所に?」


 「なんかぼろぼろね?」


 イオマやシェルは眉をひそめて言う。


 『ガーベルは王にまでなったくせにこう言う所は全然気にしないのよね』


 シコちゃんがそう言うとセレが悲鳴を上げる。


 「きゃあぁっ! ティアナ様ねずみぃっ!!」


 チューチューと言いながらゆったりとあたしたちの前を通る。

 既に人を恐れていない。

 

 ティアナは無言ですいっと剣の鞘でネズミを弾き飛ばして窓の外に放り出す。


 「ネズミくらいで驚いていてはいけません。戦場や迷宮ではこんなものではすみませんよ」


 そう言うティアナにセレはうっとりとして「はい♡」とか言ってるし。



 なんとなくムカッと来るのよね、このくらいで!!

 ティアナもティアナよ、そんなの放って置けばいいものを!



 「ああ、セレのそう言う一面もいいっ!」


 「アラージュ、もう何でもよくなってない?」


 後ろでは後ろであの二人がボケと突っ込みやってるし。

 あたしはため息をついて扉の前に立つ。



 ‥‥‥

 ‥‥‥‥‥‥ええ~!?



 まだやってる。

 あの人底なしかいな!?



 あたしが扉の前でノックしようとして止まっていたのをティアナが不思議そうに聞いてくる。


 「どうしたのですエルハイミ? 何か問題でも‥‥‥」


 と、ここまで言ってティアナも気づいたようだ。

 そして真っ赤になる。


 ふう、前回は師匠とファイナス市長に横取りされてしまったけどあたしはあのひびに近づいて中の様子をうかがう。



 桃源郷。



 メル様たちは良いけどご先祖様は見たくなかった。

 


 「エ、エルハイミまさか?」



 そう言ってティアナもあたしと一緒にそのひびから中の様子を見る。



 ぼっ!



 「あ、あんな事をっ! エルハイミより大きい!?」


 思わずうめいてしまうティアナ。

 それに気づいた他の人も寄って来る。



 「どうしたってのよエルハイミ?」

 

 「お姉さま?」


 「お母様どうしたのですか? 魔法王に会いに行かないのですか?」



 とシェルやイオマそれにコクまで寄って来る。



 「コクにはまだ早いですわ! だめですわ!!」



 あたしは慌ててコクを引き離す。

 するとあたしが見ていた所にシェルが気付き覗き込む。



 「ええっ! メ、メル長老!?」



 「なんですかシェルさん? ちょっといいですか? って!? すごっ!!」


 「ティアナ様、何が有ったのです? ティアナ様?」


 「セ、セレ! こっちからも見える!! 何てことティアナ様よりすごい!!」


 「どうしたというのです? ティアナ将軍? っと、大丈夫ですか?」

 

 シェルがのぞき驚き真っ赤になって目を背けた所にすかさずイオマがのぞき見、別の場所を見つけたミアムが覗き込む。

 興奮していたティアナが頭から湯気出してよろけてアラージュさんに抑えられる。


 「何が見えるんですティアナ将軍? あら、すっごぉ~ぃいっ!!」


 カーミラさんは顔の割に驚いた様子は無くそれでもじっと見入っている。

 

 「なんだか楽しそうね? 私も見て良い?」


 イパネマさんもそう言った時だった。



 『そろそろガーベルたち呼ぶわよ? あなたたちもう充分楽しんだでしょ?』



 そう言ってシコちゃんはご先祖様に声をかける。



 『ガーベル! みんなに見られてるわよ!? いい加減気づきなさいよこのぼんくらっ!!』




 ぴたっ!



 ガタガタ

 ドタバタ


 どたどたどたっ


 がちゃっ

 ばんっ!!



 「はーはー、シコちゃん見られておるとはどう言う事じゃ!?」



 髪の毛を乱してシーツで申し訳程度に隠しているナミ長老が出てきた。

 後ろではまだドタバタやっている様だけど。


 『やっと気づいたよね? あんたらいい加減にしなさいよ? で、そろそろ中入ってもいいわね?』


 シコちゃんに言われナミ長老は後ろを振り返る。

 そしてしばし。


 「だ、大丈夫のようじゃな、ま、まあ入ってくれ、こんな格好ですまんのじゃがな」


 そう言ってやっと中に入れてもらえるあたしたち。

 



 「と、エルハイミじゃねえか!? お前また良い所で邪魔しやがって! 俺に何か恨みでもあるのか!?」


 「いいから早く服着てくださいですわご先祖様! 今日は色々と相談しに来たのですわよ!」


 「はぁ? お前が相談に来ただって? 一体何があったんだ? って、何だその大人数は! この部屋に入りきれねえじゃねーか! 駄目だ駄目だ! エルハイミ、こないだの酒場に移動だ。じゃなきゃ話も出来んぞ?」



 あたしは赤くなって後ろからぞろぞろと入ってこようとするみんなを見てため息をついた。

 まあ確かにこの部屋に入れるよりは他の落ち着ける所へ行った方がよさそうだ。

 この部屋、さっきまでの事ですごい匂いだし、散らかっているものもやばいものが見受けられる。


 あたしはもう一度溜息を吐いてその酒場に移動するのであった。


 

 * * * * *


 

 「んで、一体全体何が有ったってんだよ、こんなに大人数で押しかけてきて?」



 今は前回来た事のある酒場で個室を取ってみんなを入れ食事しながら話をしている。

 二階の大部屋貸し切り状態。


 そしてご先祖様はここぞとばかりにいろいろなモノやお酒を注文している。

 この人は前回渡したあれだけのお金まさか使い切っていないだろうな?



 「ご先祖様、折り入ってお話が有るのです。単刀直入に申し上げます。ジュメルが、あのヨハネスが異界の悪魔王と融合して我々の前に現れたのです!」



 ティアナは蝦のフライをおいしそうに食べているご先祖様に真顔でそう言う。



 もしゃもしゃ

 ごっくん。  



 「んぁ? 異界の悪魔王だって? そりゃあ召喚した悪魔が王と言う事か?」


 「はい、そうです」


 そう言ってご先祖様はメル長老の顔を見る。


 「そうじゃのぉ、今の人間たちでは酷であろう。わしらが女神様に仕えていた時であればいくらでも手が有ったじゃろう、ガーベル様の時代であれば膨大な魔力を背景に何とかなったじゃろう」


 メル長老はそう言って果実酒をくぴくぴと飲む。


 「ぷはぁ~っ! しかしおぬしらなら儂の見立てではガーベル様より魔力を持っておりシコちゃんのサポートもある。それでもなんとかならんかったのか?」



 あっけらかんとそう言うメル長老だが何とかならなかったのでここにいる訳だ。



 ティアナは辛辣な表情で言う。


 「私のあのアイミの力でも奴の片腕をもぎ取るのが精一杯でした。エルハイミもあの力を使いましたが時間が足らず」


 ティアナがそこまで言うと流石にご先祖様もメル長老も食事をする手を止めた。

 そしてあたしたちの顔をじっと見る。



 「おい、ティアナ、エルハイミ。お前ら俺が言った事守らず無理したな? それでも倒せなかったってんだな?」


 「‥‥‥はい」



 重々しく言うティアナにご先祖様は面白くもなさそうにエールを飲み干す。



 だんっ!



 ジョッキをテーブルに叩きつけるように置く。

 そして大きく息を吐いてから話し始める。



 「俺の知っている所だと召喚する悪魔は大きく分けて三つの異世界から呼び寄せられている。一つは俺らの世界のすぐ隣に有るらしい世界。こいつらは主に精神体で召喚されるか依り代を与えられて召喚されるレッサーデーモンがほとんどだ」


 そう言いながら指を一つ立てる。

 そして続けざまに二つ目の指を立てる。

 

 「二つ目は肉体ごと召喚される悪魔どもだ。こいつらは主に魔人やアークデーモンと呼ばれている強力な個体だ。女神たちもこの辺からは要注意している。ライムクラスならまだ余裕でぶっ潰せるが人間クラスじゃもうお手上げだな。俺の時代でもこいつらはてこずる」


 そして最後に三つ目の指を立てながら話す。


 「最後のやつだが俺もまだ見た事が無い。この悪魔どもはどうやら背中に四枚以上の黒い羽根、それは黒い鳥の羽根だったり蝙蝠の様な羽根だったりもするがとにかくこいつらは厄介らしい。奴らは魂を食料としてアークデーモンやレッサーデーモンを食っちまうがこの世界の人間は特にうまいらしくいろいろな手段でこっちの世界に来たがっているとかセミリアは言っていた。あいつらが来るとせっかく育てた魂も輪廻の輪に入れなくてどんどん刈り取られていくらしいからな」


 そう言って次のエールのジョッキに手を出す。

 そしてぐびぐびと喉を鳴らしてそれを飲む。


 「はっきり言って俺も対応方法が見つからん。一つあるとしたら天秤の女神アガシタ様に教えを乞う事だ」



 どんっ!



 またまたジョッキをテーブルに叩きつける。

 それは本気でそれしかないと言う事に対しての怒りがにじみ出ている様だ。



 「そんな‥‥‥」



 ティアナは絶句する。

 しかしそうするとやはりあたしの方を何とかするしかない。



 「ご先祖様、私のあの魂の奥底につながるあのお方のお力をもっとこちらに引き寄せる方法はないのですの?」



 「んあ? あのお方のお力だと? お前、そんな危なっかしいことするつもりか!?」


 ご先祖様は飲んでいたエールを途中で止めてあたしを見る。

 しかしあたしは本気だ。



 「あの時私ではない私はハッキリと言っていましたわ。この私がもっと成長すれば力を引っ張って来れてあの悪魔王如きはたやすく消し去れると」



 ご先祖様はあたしのその言葉を聞いて大きくため息をつく。


 「はぁぁあああぁぁぁっ、まさかエルハイミ、お前がそこまでどっぷりと取り込まれているとはな‥‥‥」


 そう言ってザクっとエビフライにフォークを突き刺す。


 「いいかよく聞け、そのお前さんじゃないお前さんてのはきっとあのお方のわずかな意思とお前さんの意識が混ざり合った状態だろう? 向こうにしてみればお遊びレベルだ。そしてお前の魂ってのはその大きさ以上に大きくは出来ねえ。前にも俺は言ったろう? 人の魂はその大きさを変えることは出来ねえ。もしその魂を大きく出来るなら女神にだってなれるんだぞ?」


 そう言ってご先祖様はエビフライをかじる。

 もしゃもしゃして飲み込んでこう続ける。



 「もしお前の魂以上にその力を受け入れるならお前の魂はふくれた風船のごとくはじけて消える。一旦魔素の器たる魂がはじけたら最後どんなに頑張ってももう元には戻らない。つまり、完全な死だ」



 「!?」



 ご先祖様のその言葉にあたしは息を飲む。

 魂が容量オーバーではじけて消えてしまう?



 「だから人はどんなに頑張っても神には成れねえ。それが真実だ」



 ご先祖様はそう言ってまた次のエビフライにフォークを刺す。

 そしてしばらくご先祖様の食事をする音だけが聞こえる。


 

 「ま、今は何処ほっつき歩いているかは分かんねえが、アガシタ様に会えれば或いは何か方法が有るかもしれねえ。あの女神さんだって今のこの世界のバランスが崩れるのはいやがるだろう? この世界を安定させる為に俺に女神の御業を人間に教えそしてこの世界を統治して安定させたんだから。そこへ異界のモンが手を出して来るなら黙ってはいないだろう。きっと何かいい方法を教えてくれるさ」



 そう言ってご先祖様はまた黙々と食事に戻った。

 あたしは黙ったままティアナと顔を見合わせる。


 天秤の女神アガシタ様。

 一体どこにいるのだろう?




 あたしは何となく窓の外を見るのだった。

 

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