第384話14-9嫌な思い出
14-9嫌な思い出
「エ、エルハイミぃっ!!」
ティアナはそう叫びうなされながら目を覚ました。
「ティアナ、よかった気がつきましたわね」
あたしはベッドに寝かせていたティアナが叫びながら目覚めたのを見取って優しく声をかけながら額の汗をぬぐってやる。
「はぁはぁ、エ、エルハイミ?」
「はい、ティアナ。私はあなたの側にいますわよ?」
ティアナはそう言って上体を起こす。
すかさずあたしはそれを助けるがまだティアナは肩で息をしている。
「夢を‥‥‥ 嫌な夢を見てたわ‥‥‥ エルハイミがあの異空間であたしから離れていくあの嫌な思い出‥‥‥」
そう言ってティアナはあたしを見る。
あたしは微笑んでまたティアナの汗をぬぐい取ってあげる。
「ティアナ、もう大丈夫ですわ。私はここに居ますわ。貴女の側に」
「エルハイミっ!」
ティアナはそう言ってあたしに抱き着き熱いキスをする。
そして駄々っ子の様に言う。
「もう嫌だ! 絶対に放さない! エルハイミはあたしのだ!! もう、もう誰にもエルハイミを渡さない!!」
あたしはティアナの背中をポンポンと叩き優しく言う。
「大丈夫、私はティアナのモノ。もうどこにも行きませんわ。全く、そんなに泣いていてはせっかくの美しい顔が台無しじゃないですの。駄目ですよ、ティアナはお姉さんなのだから他の人にそんな顔見せちゃだめですわよ?」
「うん、分かってる。ごめんねエルハイミ。でも、今だけはもう少しこうさせて‥‥‥」
ティアナはそう言ってまたあたしに抱き着いてきてキスをしてくれる。
「全く、私たちがいるというのに見せつけてくれますね‥‥‥」
「ティアナ様ぁ~」
横でセレとミアムがそう言うとティアナは飛び上がるほど驚いて二人を見る。
「あ、えっ? セ、セレ? ミ、ミアム!?」
「はい、ティアナ様」
「やっとお目覚めですねティアナ様、心配しましたよ?」
ティアナは今までの様子をこの二人に見られたことにだいぶ動揺をしている様だ。
やばっ、ちょっとかわいいかも‥‥‥
あたしは思わず微笑んでしまった。
「くっ、エルハイミさん余裕の笑みですね?」
「せ、正妻だからと言って油断していたら足元すくわれますよ!」
ふくれる二人を見ながらあたしは思わずまた笑ってしまった。
そして真顔に戻って二人にもお礼を言う。
「セレ、ミアム。ティアナの看病を手伝ってくれてありがとうございますですわ」
そう言ってあたしはこの二人に頭を下げる。
とたんに二人が動揺をする。
「なっ? どう言う事ですエルハイミさん!? また何か企んでいるのですか!?」
「お、おかしい! 正妻のエルハイミさんがあたしたちに頭を下げるなんて!! ミアム、きっと何かまた企んでいるわ、気を付けて!!」
おいこらセレにミアム、人が素直に感謝の気持ちを述べているというのに何それ?
「なにも企んでなどいませんわ。この二日間私と一緒にティアナの看病をしてくれたのですもの。素直に感謝の気持ちを述べただけですわ」
「私は二日も眠っていたのですか?」
あたしのその言葉にティアナは驚く。
そんなティアナの乱れた髪の毛をあたしは手でやさしく梳い整えながら言う。
「それだけ無理をしている証拠ですわ。ティアナ、お願いですわもうあの力、アイミの力は使わないでくださいですわ。ご先祖様だってそう言っていましたですわよね?」
あたしにそう言われティアナは拳を握る。
「しかしジュメルが、あのヨハネスが再び私たちの前に現れたのです」
今は将軍の顔に戻ったティアナは無表情にしているもののその声は怒りに震えていた。
『全くあのヨハネスって神父は既に人じゃないわね。異界の悪魔王と契約を取ったのでしょう?』
シコちゃんがあたしたちに話しかけてくる。
あの後ヨハネス神父たちは帰還魔法であの場から消えた。
しかしティアナにやられた腕を再生する為に取り巻きの女性を一人吸収したあの様、シコちゃんの言う通り既に人ではない。
「まさか異界の悪魔王と融合していただなんてですわ‥‥‥ あれでは魔人以上ですわ‥‥‥」
あたしはあたしじゃないあたしがあのヨハネス神父と融合している者の正体を見破っていたことを思い出す。
するとシコちゃんがあたしに聞いてくる。
『契約じゃないの?』
「違いますわね、あれは悪魔王との融合。何処までヨハネス神父自身の意思だかもうわかりませんがあれはヨハネス神父の体を依り代に完全にこちらの世界に実体化した悪魔の王ですわ」
あたしはそう確信していた。
ジュメルの中でもヨハネス神父は確実に特別な存在になってしまった。
ともすれば「魔人戦争」の再来になってしまうのではないか?
あたしは内心焦りを感じている。
あたしの魂の奥底、あの力を使えればそれでもヨハネス神父を倒せるだろう。
しかしあのあたしははっきりと言っていた。
今のあたしではあの力をもっとこちらに引き寄せることは出来ない。
あたし自身が器としてまだまだ成長出来ていないのだ。
「悪魔王‥‥‥ しかしそうなると余計にアイミのあの力を使わなければ倒すことは出来ない‥‥‥」
ティアナはそう言ってあたしたちを見る。
「ティアナ、落ち着いてくださいですわ。確かにあのアイミの力は絶大ですわ。多分クロさん、クロエさん以上に。しかしそれは今のティアナに負担が大きすぎますわ。ティアナ、私もいますわ。もっと他に良い方法を考えましょうですわ」
あたしはティアナの手を取りそう懇願する。
いくら最悪ティアナが転生出来るとは言えライム様の話じゃ今のティアナのまま転生できるかどうかも怪しい。
それにあたしは今のティアナの全てが好きなのだ。
今のティアナが寿命で天命を全うするまでずっとそばに寄り添いたい。
そして転生したらきっとまた一緒にいるんだ。
あたしは心からそう思う。
『まあ、とにかくいろいろと方法を探すしかないわね? それにエルハイミ、貴女何か手が有るのでしょう?』
シコちゃんにそう言われる。
流石シコちゃんだ。
あたしは静かに頷く。
「はっきりとは今は言えませんが、私の魂の奥底につながるあの力。あのお方の力はほんのわずか、髪の毛一本にも満たない程度の物しか繋がっていませんわ。あの私ははっきり言っていましたわ、私がもっと成長しなければあの力をもっと送り込めないと‥‥‥」
「エルハイミ‥‥‥」
『ならばエルハイミが成長できれば好い訳ね?』
ティアナはあたしの手を強く握り返してきた。
そしてシコちゃんの言う通りあたしがさらに成長できれば‥‥‥
ガチャっ
「あ、ティアナ気が付いたんだ? どう? 大丈夫なの?」
「お姉さま、食べ物乗ってきましたよ」
「赤お母様、お目覚めでしたか。良かった。お母様もすごく心配していましたよ?」
「ティアナ~大丈夫? ねえねえ、みんなでドーナッツ買ってきたんだよ! ティアナもこれ食べて早く元気になってね!!」
「主様、給仕をするにはその恰好ではだめでいやがりますよ? メイド道を舐めていやがりますか?」
「これ、クロエ。主様に対して失礼だぞ。それに主様は看護なさっておられるのだぞ?」
「主よ、ティアナ将軍まずは飯だ。食って体力を回復するのがまず第一だぞ」
「あら? 様子を見に来たけどもう大丈夫なの?」
「ティアナ将軍、大丈夫なのですか?」
「こらこら、アラージュ。将軍は病み上がりなんだから無理させちゃだめよ?」
とたんに賑やかに成る。
みんなティアナを心配して様子を見に来てくれたようだ。
あたしはティアナの肩に上着をかけてやってティアナに聞く。
「ティアナ、少しは食べれまして? ショーゴさんの言う通りまずは体力回復ですわ」
するとなんとティアナのお腹がきゅ~っと鳴ってしまった。
とたんに赤面するティアナ。
みんな思わず笑ってしまう。
しかし、お腹が減っているのは良い事だ。
食欲が有るのだから。
あたしたちはみんなが持ってきた食べ物で食事をする事にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます