第385話14-10王宮


 14-10王宮



 あたしたちは王城にいた。



 「以上が今次『女神の杖』探索の結果となります。そしてこれが『女神の杖』となります。エルハイミ」


 「はい、陛下、これが光の女神ジュノー様の杖になりますわ」



 あたしとティアナはアコード陛下の御前で今までの報告と『女神の杖』を差し出す。



 「二人とも大儀であった。『中央都市』の『空から落ちた王宮』の更に地下に有る迷宮より『女神の杖』を持ち帰るとはな! 良き働きをしてくれた」


 「もったいないお言葉です」



 ティアナはそう言って頭を下げる。

 あたしも勿論ティアナに倣って頭を下げる。



 「『女神の杖』は取り扱いに難を持つ。エルハイミよ引き続きそなたが管理するがよかろう。今宵は宴を開く、存分に疲れをいやすがよかろう」



 アコード陛下はそう言って謁見の間から先に退出する。

 あたしたちは陛下が完全にいなくなってから頭をあげ大臣たちが見守る中「女神の杖」をあたしのポーチにしまう。



 「エルハイミ殿、本当に貴女にお任せして大丈夫なのですか?」


 「我が王城の宝物庫の方が安全なのではありませぬか?」



 若干数名の大臣たちが心配してあたしたちに話しかけてくる。

 しかしあたしが答えるより先にティアナがその問いに答える。



 「我が妻エルハイミから『女神の杖』を奪うならそれすなわち私の屍を乗り越えると言う事。それに我が妻の力とて英雄ユカ・コバヤシに引けを取りませぬ。我が師もエルハイミの実力は認めております」



 ティアナにそう言われた大臣たちはそのまま黙ってしまう。



 「はっはっはっ、ご心配には及びませぬ。殿下の言う通りエルハイミ殿はお強い。『稀代の魔女』ユリシア殿をしのぐ大魔導士ですからな」


 「ロクドナル卿‥‥‥」


 「剣聖殿がそう言うのであれば‥‥‥」



 ロクドナルさんもそう言ってくれればもう誰も文句は言えないだろう。

 あたしたちはその場を離れることにした。



 * * * * *



 「助かりましたロクドナル卿」


 「いえ、事実を述べたまでです。それより殿下」


 ロクドナルさんはそう言ってティアナを部屋に誘導する。

 そこは小さな円卓のある部屋。


 あたしたちはその部屋に入って行く。



 「来たかティアナよ」


 「はい、父上」



 そう言ってティアナは椅子に腰かける。

 向かいにはアコード陛下が既に座っていて苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。


 

 「先に報告は受けている。ジュメルの『巨人戦争』にいたヨハネスとか言う神父がいたのだな?」


 「ええ、確かにいました」



 それを聞いたアコード陛下は大きくため息をついた。



 「まさか首都にこうも易々と入り込まれるとはな。ロクドナルよ、一体何を見ている?」


 「父上、お言葉ですがあの者に通常の守りは効きませぬ。神出鬼没なあの者を捕らえるは容易ではありません」



 ティアナがそう言うとロクドナルさんは頭を下げる。



 「私の力不足にございます」


 「もうよいわ。愚痴の一つも言っていなければやっていられないだけだ」



 さらに苦虫をかみつぶしてアコード陛下は腕組みして横を向く。

 そんな様子を見てティアナはため息を吐く。



 「父上、事態はもっと深刻なのですよ? ヨハネスは既に人ではないのです。エルハイミの話ではあやつは悪魔王と融合を果たしているとの事です」


 「悪魔王だと?」



 アコード陛下はそう言ってティアナを見る。

 


 「『魔人戦争』のあの悪魔の魔人の上位種、悪魔の王です」



 「なんだとっ?」


 アコード陛下は思わず椅子から立ち上がってしまった。

 それもそのはず、その昔各小国を滅ぼしたあの魔人の上位種だ。

 そんなものが現世に出現したとなればただ事では済まない。



 「私たちはボヘーミャに飛ぼうと思います。この事を英雄ユカ・コバヤシに相談しようと思います」



 「英雄ユカ・コバヤシ殿か‥‥‥ 確かにあの戦争を知るものはもうほとんどいない。しかし英雄ユカ・コバヤシ殿ならば、もしや手が有るのか?」


 しかしティアナは首を横にふる。


 「それは分かりません。しかし師匠ならば何か良い方法が有るやもしれません。それに『女神の杖』も」


 すでにアコード陛下には話してあるけど表面上は女神の杖はあたしが持っている事となっている。

 しかし実態は極秘裏に学園都市ボヘーミャでマース教授とアンナさんが中心にこの杖を研究している。

 そしてご先祖様の指摘に沿って一所ではなく各個エルフのあの魔法の袋にいれられて学園の数か所にしまわれている。


 「ふう、既に人の手に余る事態か。ティアナよその後はどうするつもりだ?」


 「残りの『女神の杖』を探しに行こうと思っています。そしてジュメルに決して渡さずとこしえにこの世から消し去ろうと思っています」



 「ティアナ?」



 「エルハイミ、貴女が戻って来てくれたのです。アイミのもう一つの力、逆スパイラルを使って『女神の杖』をこの世から消し去れば‥‥‥」


 「あっ」


 あたしは思わず声をあげた。

 確かにあたしがいればフルバーストで四連型魔結晶石核を作動させられる。

 異界にあの杖を飛ばしてしまえば事実上『狂気の巨人』の封印は解かれることは無くなる。



 「そのためにもやはりボヘーミャに飛ぼうと思います」



 ティアナはティアナなりに『女神の杖』について対処方法を考えてくれていたようだ。

 確かにボヘーミャで師匠に相談するのも、まだいるはずのご先祖様に相談するのも手だろう。


 「ふむ、分かった。では英雄ユカ・コバヤシもよろしく伝えてくれ」


 アコード陛下はそう言って席を立った。




 あたしたちはボヘーミャに飛ぶことを許可されたのだった 

 

 

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