第371話13-28エルハイミの魂

 13-28エルハイミの魂



 「と、言う訳だ。今も変わってなきゃそんな所だろう」


 

 あたしたちは安宿から出て近くの酒場で食事をとりながらご先祖様にいろいろと聞いていた。


 「女神の杖」を一所に集めておくとどれかの杖に魔力が集中して女神の体が再生される可能性が有るらしいのでご先祖様はそれも含め安全策でこの「女神の杖」を世界各国にばらまき預けたそうだ。




 「しかし、女神様が復活されて何か不都合が有るのでしょうか?」



 「そりゃぁ、現存の女神からしてみれば面倒この上ないし肉体を取り戻した女神なんかが力ふるったらそれこそこの世界がおかしくなる。それに体を取り戻せなかった他の女神だって黙っちゃいないぞ? 下手したら女神戦争の再来になっちまう」


 ファイナス市長の質問にご先祖様はそう言って美味しそうにローストビーフをかじる。


 「まあ、そうじゃの。儂も女神様にお仕えしてどうこうするのもコリゴリじゃしな。ここは生産性を向上してガーベル様のお子をもう一度じゃな!」



 いやいやいや、メル長老は一番駄目でしょうに、ビジュアル的に!!

 いくら最古の長老の中でも一番年長者でも見た目がどう見ても十二、三歳でロリっ子の上巨乳なんだから!



 「今度は儂らもガーベル様のお子が欲しいぞ、メル様独り占めは良く無いのじゃ!」


 「そうじゃ、そうじゃ!」

 

 「ガーベル様、食べたらまた頑張ってくださいましな♡」



 あたしはこめかみに手を当て軽い頭痛を感じていた。

 何なのよこのエロフ達!?



 エロフの中でも特にこの人たちはエロフだわ!




 「しかし一番の問題は『狂気の巨人』の封印場所ですね。まさかあそこが封印場所だったとは」


 師匠のその一言であたしは先ほどご先祖様から聞かされた「狂気の巨人」の封印された場所を思い出す。




 それは現在は「ルド王国」と呼ばれる場所。



 

 かつて師匠たちが戦った「魔人戦争」の終結の場所。

 愚かな国王が当時の戦国時代を生き延びる為に禁断の悪魔召喚をして悪魔の魔人を呼び出してしまった場所。


 そこから全世界に魔人の率いる悪魔の軍団が次々と人々の国を飲み込んで滅ぼしていったあの戦争。




 そんな悲劇の終末地が封印の場所だったなんて。



 「あの場所での戦闘は『狂気の巨人』の封印に影響はないのでしょうか?」


 師匠はご先祖様にそう聞く。

 ご先祖様はローストビークをかじる手を止めしばらく師匠を見ている。

 

 「あんた、異界の者だったか? だったら感じたんじゃないか? あの場所はこの世界であってこの世界じゃない。たとえあそこで極大魔法が炸裂しても、女神の裁きの剣が降って来ても『狂気の巨人』の封印は破れんさ。しかし不安定な場所であるのも事実。おかげであんたらに聞いたその悪魔の魔人ってのも異世界から呼び寄せられたんだろ?」



 え?

 悪魔の魔人って異世界から来たのっ!?



 「ご、ご先祖様! それは一体どう言う事ですの!?」


 「あん? エルハイミ、お前魔道を学ぶくせにそんな事も知らんのか? 勉強不足だ! いいか、悪魔ってのは基本この世界のもんじゃない。あいつらは異世界人と同じ別世界、特定の世界から呼び寄せられた精神体なんだぞ? だから異世界人のように呼ぶのが難しく無く呼び寄せられる。代価としてこの世界で一番魔素の高い魂を持って行くんだ。アガシタ様だってそれは知っているが人間一人分の魂は誤差範疇だから捨てている。が、肉体まで呼び寄せちまった魔人クラスは別もんだ。あれには実体が有りこの世界の人間たちの魂を食料とする厄介な存在なんだぞ?」


 平然とそんな事を言われてあたしは絶句する。

 それって魔道の常識を覆すほどの情報じゃない!?

 

 「え、ええっ!? で、では悪魔召喚って異界人の召喚に近かったのですの!?」


 「ああ、そうセミリアから聞いた。だから昔っからアガシタ様は悪魔召喚はやめておけって言ってたんだなぁ」


 『結局あんたもセミリア様から教えてもらってるんじゃないの。しかし悪魔召喚がそう言う事だったとはね‥‥‥』


 シコちゃんも知らなかったみたいで驚いている様だ。


 「ああ? 俺だってただセミリアの所でイチャついてただけじゃねーぞ? 女神と一緒にいて色んな事を学び実践してきたからな! ただ、人間の限界、魂の容量ってのだけはどうしようもなかったがな」



 魂の容量?



 『ちょっと、ガーベルあんたセミリア様の所で何やってたのよ? それに魂の容量ってどう言う事よ?』


 あたしも一番聞きたい事をシコちゃんが質問する。


 「あ? そんな事も知らんのか? まあいい、教えてやるぞ。俺たち人間、いや、エルフや他の亜人含め全ての生きもんは『魂』って言う器に魔素が有りそいつがすべての原動力になっている。生命体に魔素が集まり『魂』と言う器を作り上げんだが、死ぬとそれが霧散してしまう。だからもったいないので質の良い『魂』を管理して輪廻の輪に入れて転生させたり生まれ変わりさせたりするのがセミリアお仕事ってわけさ。 そんでもって『魂』が生成されたその生命体は前の『魂』の器か新しく出来上がった器の大きさのままで一生を終える。だから俺もどんなに頑張ってもその領域はこれ以上増やせないんだよ」


 ご先祖様はそこまで言って一気にワインを飲み干す。


 「んで、女神たちはもともとその『魂』がずば抜けてでかいから自分の『魂』を分けたライムの様な分身をいくら作っても問題ねえってわけよ。『魂』の器がでかいんだ、魔力だってそれを形にしたマナだっていくらでも作れる。そして女神の御業を呼ばれる奇跡だって起こせる。すべては『魂』の大きさによって決まるんだよ」



 魂の大きさって‥‥‥



 『じゃ、じゃあ、あたしもライムもアガシタ様の魂の欠片って事? 確かにその気になればアガシタ様はあたしたちを吸収できるけど‥‥‥ って、そうするとエルハイミっ! あんたって本当に何者なのよっ!?』


 「あ? エルハイミがどうしたって?」


 ご先祖様やエルフの長老たちの視線が一斉にあたしに向けられる。


 「え? ええっ? 私は‥‥‥」



 「エルハイミ、どうやら『至高の杖』含め何やら話し込んでいるようですが、貴女の『魂』について話しているのですね?」


 あたしはシコちゃんの答えに悩んでいると師匠が声をかけてきた。

 

 「エルハイミ、貴女の『魂』についてはここにいる人たちには話しても問題無いでしょう」


 師匠はそう言ってくれる。

 確かにみんなには内緒にしている事だけどご先祖様ならあたしの「魂」について何かわかるかもしれない。


 あたしは一息ついて話し始めた。



 「私は転生者ですわ。それも元々は師匠と同じ世界の人間ですわ。」




 ざわっ!


 

 ここに居るみんながざわめく。


 「異界の転生者だと? おい、エルハイミそれは本当か?」



 あたしの言葉にご先祖様は大いに驚いた。

 何をそんなに驚いているのだろう?



 「お前さんは異界の転生者だとすると前例がないぞ。しかも異界の『魂』だけがこちらの世界に来れるなんてあり得ないぞ?」



 魂だけこちらに来ることはあり得ない?

 そう言われあたしは不思議そうにご先祖様を見る。



 「異世界人と違って『魂』なんて不安定なモノだけで異世界渡りをするとなればこちらに来る時に器が壊れ霧散するのが普通なんだぞ? 悪魔のように精神体ならまだしも本来ならありえん。それにお前さんはこちらの世界に召喚されて生まれたのか?」


 「いえ、普通にこちらの世界に生を受け生まれたはずですわ」


 ご先祖様はそれを聞いて首をかしげる。


 「召喚でも何も無しでこちらの世界に『魂』だけ来たってのか? ますますあり得ねえ。一体どうなってんだ?」




 「主は転生者だったのか? しかしそうすると以前はかなりの高名な魔術師か何かだったのだろうな?」


 「いえ、しがないサラリーマンでしたわ‥‥‥」



 「さらりーまん?」



 聞いた事の無いその言葉に変なイントネーションでショーゴさんが言い返して来る。


 確かにこの世界ではサラリーマンなんて無いもんね。

 あたしはどう説明しようかと思っているとショーゴさんは変な誤解をした様だ。



 「なるほど、その『さらりーまん』とか言うのはリッチをも簡単に消し去るほどの凄い存在なのだな? どうりで主は普通の魔導士などと比較にならないわけだ」



 「おいマテ、リッチを簡単に消し去っただと? リッチってあの亡者の王か?」


 ご先祖様はショーゴさんに食って掛かる。

 しかしショーゴさんは当たり前のように「そうだ」とだけ言う。


 「おいおいおい、あんな厄介なモンをそんなに簡単に始末したのか? エルハイミ、お前そこ動くなよ!」


 そう言ってご先祖様は瞳の色をいきなり金色にしてあたしを隅々まで見る。


 

 あっ?

 ご先祖様って心眼使い? 

 それとも同調しているの?


 瞳の色が金色になっているからかなりのモノのはずだけど‥‥‥



 「おい、エルハイミ! お前本当に何モンだ? お前の『魂』につながっているこの細い糸のようなモノなんだ!? こりゃぁこの世界の物じゃねーじゃねーか!! しかもこれって魔素? いや、そんなもんじゃねぇ! 原始の力か? おいおい、これってセミリアが言っていたあのお方ってやつの力か??」



 ご先祖様はいよいよ興奮してきてあたしの「魂」の更に奥まで覗こうとしている様だ。



 しかしいきなりそれをやめ脱力したかのように椅子にすとんと腰を下ろす。

 一体何が有ったのだろう?


 「はぁぁぁぁ~、まさかお前さんがねぇ。 お前さん、女神があのお方と呼ぶいうなれば女神たち、いや、始祖の巨人にとっても『神』と呼ばれるモンとつながっているぞ!? お前さんがその気になればその力使って女神以上の事が出来るんじゃねえのか?」



 

 はいっ?



 あたしが女神様たちに『神』とか呼ばれるモノとつながっているって?

 ど、どう言う事よ??




 「あ、あのご先祖様ぁ?」


 「あー、まさか俺の娘にバケモンが生まれるとはな! 良いかエルハイミ、お前さんはその『魂』とつながっている糸からくる力をむやみやたらと使うんじゃねぇぞ! それは未知なる力。女神でさえ押さえられないかもしれない力かもしれないんだからな! そもそもお前さん、その力に気付いているのか?」



 そんな大そうなモノ‥‥‥

 あたしはそう言おうとして心当たりが幾つか有る事で頬に一筋の汗を流す。



 「その様子、気付いていたな? だったら俺よりお前さんの方が分かるんじゃないか?」


 「ええとぉ、それが良く分からないのですわ。リッチの時は全てが当たり前のような気がして自分であって自分では無いような感じがしてですわ‥‥‥」



 あたしはそこまで言ってふと思い出す。

 そう言えばあの「あたし」って誰!?


 あの時は全部が当たり前で当然のような気がしていたけどあの時最後にあたしは自分にこう言っていたはず。



 ――  そうだね、この子がもっと成長して力を付けたらもう少しちょっかい出してみるのも面白いかも ――



 ええ?

 え”え”え”えええええええぇぇぇっ!?



 お、思い出した!

 あたしじゃないあたしはそう言ってここじゃない世界に帰って行ったのだった。


 

 さぁーっ‥‥‥



 今更ながらにあたしは血の気が引いていく。


 

 もしかしてあたしってばとんでもないもの呼び寄せちゃったりしてる?

 

 「まあいい。エルハイミが分かっているなら後はお前さん次第だ。今後その力使わない様にしろよ? 分かったか?」


 「は、はい、その方が良さそうですわね‥‥‥」


 あたしは呆然としてそう答える。



 やばいやばいやばいっ!



 ただでさえアガシタ様に目を付けられているっぽいのにこれ以上変なのに目を付けられたら!!

 あ、あたしのティアナといちゃいちゃラブラブの平和な生活はどうなっちゃうのよ!?


 

 『なんとなく納得ね。シェルじゃないけどエルハイミだもので済んでしまいそうね』


 「のう、シコちゃんよ、そうするとシェルもたいそうな者の所へ嫁に行ったと言う事になるのぉ」


 『はぁ? シェルがエルハイミの嫁??』


 あっ!

 そう言えばシコちゃんにはシェルの事言ってなかったっけ!?

 

 シコちゃんはメル長老にそんな事言われて無いはずの目であたしをジト目で見てくる気配を発してる。


 『いつの間に‥‥‥ ま、まあガーベルの血筋だから分からなくはないけど、そうか、シェルもエルハイミの嫁かぁ‥‥‥ そう言えば他にもイオマって子もいたわよね? エルハイミ、あんた呪いを自分に移したわよね? まさかガーベルと同じで‥‥‥」


 「わーわーわーっ! シコちゃんっ!! それ以上は言ってはだめですわぁっ!!」




 両手をバタバタと振りわめいているあたしがそこにいたのだった。 

  

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