第357話13-14ティナの町へ


 13-14ティナの町へ



 あたしたちは王都ガルザイルに着いていた。



 「ここに来るのも久しぶりねぇ~。そう言えばアコードたちは変わりない?」


 「マザーライム、父上は今は国王の職にて国を治めています」



 ティアナに言われてライム様は目をぱちくりさせる。



 「あらまぁ、それじゃあ飲むのに付き合わせられないじゃない?」


 「あの、ライム様まさかですわ‥‥‥」


 「やっとこっちに来れたのよ? 飲まないでどうするの?」



 あたしが額に脂汗をかきながらライム様に聞いてみると予想通りの答えをしてくる。

 この人また連日連夜宴会するつもりだったんだ!



 あたしはこっそりティアナの袖を引いて耳打ちをする。


 「ティアナ、ここは陛下にお願いして私たちは今すぐにでもティナの町に飛びましょうですわ!」


 「しかし、マザーライム様はどうします? そのままと言う訳には行きませんよ?」


 あたしはアレに付き合うつもりは無い。

 そっと人差し指を立ててティアナに力説する。


 「国賓級以上の方が来られたのですわ、私共などがお相手するには逆に非礼と言うものですわ。ここはやはり陛下にお願いするべきですわ!」


 そうに言い切るあたし。

 しかし流石にティアナはすぐに賛同するわけにもいかず「陛下に相談してきます」とだけ言った。 




 その後あたしたちは陛下に謁見させてもらい同行のライム様を引き合わせ翌日にはティナの町に行く事を申し立てた。


 「あら? あなたたちは忙しかったの? せっかく来たってのにじゃあ私もついて行くわね。アコード、また今度一緒に飲みましょう」


 にっこりとそう言う。



 えー?

 ついて来るのぉー?

 わざわざここに残そうとしたのに!



 しかしこうもあからさまに言われては断り切れない。

 あたしは引くつく笑いを崩さず「わかりましたわぁ~」とだけ言って見えないところで大きなため息をつくのだった。



 * * * * *



 「それではティアナ、行きますわよ。みんなも準備はよろしいですかしら?」


 あたしたちはティナの町への直通のゲートに入る。

 そしてあたしの確認に誰も異を唱えないのでゲートの起動をする。


 足元から白い光がカーテンのようにせり上がりあたしたちを包む。

 そしてもう一度その光るカーテンは下がってきて足元に消えるころには先ほどとは全く違う景色が見える。



 「エルハイミ殿ぉ! よくぞご無事で! このエスティマずっとエルハイミ殿の帰還をお待ちしておりましたぞ!」



 いきなりイケメンの青年がそう言ってあたしの前に膝をつく。

 ティアナの実の兄イケメン王子エスティマ様だ。 



 「これはこれはエスティマ様、お久しぶりですわ。その節は大変ご迷惑をおかけいたしましたわ。こうして何とか無事帰還できましたわ。ね、あなた!」


 あたしはそう言ってわざとティアナの腕を取る。




 びきっ!




 一斉にエスティマ様含め周りから異音がする。

 しかしあたしは構わず夫であるティアナにいちゃついて見せる。



 「あー、エルハイミ殿ぉ? 何か私の聞き間違いがあったようですが、この冷血女が何ですと?」


 「お久しぶりです、兄様。ところで誰が冷血女か教えていただけませんか? 我妻エルハイミも久方ぶりのティナの町。以前と勝手が違いますが故、分からぬ事も有りましょう?」



 無表情でいながら頭の後ろにおこマークが張り付いているのはティアナらしい。

 しかしティアナのその言葉にエスティマ様は大いに驚く。



 「なっ? つ、妻だと!? ティアナ、お前まさか本当にエルハイミ殿を娶ったのか!?」


 「当然です、兄様。私とエルハイミはユーベルトにて婚姻の儀を行いエルハイミのご両親にも祝福していただいた、そしてみよこの子を!」


 

 ティアナはそう言ってコクの両肩に手をのせながらエスティマ様の前に引き出す!



 エスティマ様は背面を真っ暗にして雷を沢山落とし、更に自身の色を真っ白にして白目になってしまいガーンと言う効果音までくっつけてきた!



 「なっ、そ、そんな馬鹿な!? ど、同性で子供を!?」



 わなわなと震える指でコクを指さす。



 「赤お母様、この方は一体何をしているのでしょうか?」


 「この方は私の兄上です。コクの叔父になる方です」



 しれっとそう言うティアナ。

 しかしそれに追い打ちをかけられるエスティマ様。

 再び背景に雷を落とし自身もその雷に打たれる。

 そしてその場に黒焦げになり倒れてしまった。





 「主よ、相変わらず冗談がきついな? エルハイミ殿もよくぞ戻って来てくれた」



 倒れるエスティマ様をしり目に黒い甲冑姿の大柄な男、ゾナーがやって来た。

 この貧乳好きの元変態王子はあの頃と何ら変わっていなかった。


 「ふむ、しかしよく似ている。この子は一体何者だエルハイミ殿? いくらそっちの秘術が見つかったとしてもこんなに早く成長はするまい? ホムンクルスか何かか?」


 「むっ、無礼な者ですね? 消し炭にしましょうかお母様?」


 「コク、おやめなさいですわ。お久しぶりですゾナー。この子は黒龍。訳有って私の魔力でこの姿になってしまったのですわ」


 あたしの説明にさして驚かずゾナーは他の面々を見渡す。


 「雰囲気だけでも只者じゃない者やライム様までいらっしゃるじゃないか? エルハイミ殿がいる所は相変わらず普通ではなくなるのだな」


 そう言って大きく笑う。


 「主よ、久しぶりの主の城だ。ゆっくりして行ってくれ。勿論エルハイミ殿やショーゴ殿、シェル殿もな! 部屋はそのままにしてある。エスティマ様、我々はライム様と来客の歓迎ですぞ!」


 そう言ってゾナーはエスティマ様を引き起こす。



 「分かっているじゃない。ほら、エスティマ! 久しぶりにお母さんが来たんだからちゃんと歓迎なさい!」



 ショックで呆然としていたエスティマ様だったが流石にライム様の姿を見たら脂汗を垂らして客間に案内を始めた。


 かつて知りたる自分の家。


 あたしたちはとりあえず自分たちの部屋に行ってみるのだった。 


 



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