第356話13-13一回戻って
13-13一回戻って
「それではお父様、お母様、バティックにカルロス、行ってまいりますわ」
あたしたちはガルザイルに戻る為に馬車に乗り込もうとしていた。
「コクちゃんまたきっと遊びに来てねぇ~ お婆様待っていますよぉ~」
「エルハイミ、無理だけはしないでくれよ。もうこれ以上肝を冷やすのはごめんだからな」
「姉さま、お元気で!」
「姉さま‥‥‥ うん、姉さまなら大丈夫ですね。お元気で!」
家族のみんなが見送りに出ていてくれる。
拠点となるガルザイルにはティナの町より近くなるので特にパパンは公務もあるから今後は滞在中ならばよく顔を合わせられるだろう。
ちょっと別れ際に家族の温かさに後ろ髪惹かれるけどあたしは今度は正式にティアナの妻として彼女を支えていかなければならない。
他の使用人たちの「行ってらっしゃいませ、お嬢様」の声にあたしは馬車に乗り込む。
「お姉さまのご家族って優しい人ばかりでしたね」
「何を言っているのですイオマ、貴女だって私たちの家族ですわよ?」
あたしがそう言うとイオマはきょとんとしてからあたしに抱き着いて来た。
「はいっ! お姉さま!! 家族でもいいからずっと一緒にいてください!!」
「あーっ! イオマずるい!!」
「イオマ、お母様は私の家族です!」
シェルやコクが声を上げる。
「ふふっ、にぎやかですね」
「ティアナ様、ティアナ様には私たちがいます!」
「そうですよ、ティアナ様。エルハイミさんが愛想つかしていなくなっても私たちだけはずっとお側にいますからね!」
おいこらセレとミアム、なんであたしが愛想つかせていなくなる前提なんだ?
あたしが二人を睨むとプイっと向こうを見てティアナにもたれかかろうとする。
「あなたぁっ! こちらに来て座ってくださいですわぁ!!」
「うっ、わ、分かりました」
あたしの一喝にティアナはおずおずとこちらに座り直してくる。
全く、最初からあたしの横に座れば良いものを!
あたしはティアナの腕を両手でつかんでぎゅっと引き寄せる。
あたしの目の前では他の女の子といちゃいちゃさせません!!
『ティアナ、貴女も年貢の納め時ね。ま、大事にしてやんなさいよ?』
「それはもちろんです、シコちゃん。私の命ある限り」
「死んでも離れません事よ、あなた!」
そう言ってあたしは更にティアナの腕を強く抱きしめるのだった。
* * * * *
「そう言えばこの辺りでしたわね、前にライム様に会ったのは」
翌日宿の村を少し離れた所であたしはライム様に出会った時の事を思い出していた。
『エルハイミ、貴女が変な事言うから‥‥‥』
シコちゃんがそう言うと同時に馬車が止まった。
なんだろう?
「主よ、お客さんだ」
ショーゴさんが馭者の席から中にいるあたしたちに話しかけてくる。
とたんにあたしとティアナは同調して感知魔法を使う。
しかしその感知魔法に引っかかったこの感じは‥‥‥
「「ライム様!?」」
あたしとティアナは同時にその名を呼んでいた。
* * *
「いやいや、久しぶりねティアナにエルハイミ! 聞いたわよ、貴女たちとうとう結婚したんですってね!? いや、めでたいわ。 アガシタ様にエルハイミが戻ってくる頃だろうから様子見て来いって言われたのよ」
何か以前にも増して軽くなったライム様があたしたちの馬車に乗り込んで来ていた。
相変わらず秋葉原にでもいそうなメイド服着てるけど、れっきとしたガレント王国の始祖母であり、伝説の少女でもある。
「あ、あのぉ、ライム様はどう言ったご用件でですわ?」
あたしはそう聞いてみるが初顔のイオマやセレとミアムは不思議そうな顔をしている。
そしてコクはもの凄く警戒している。
「女神の分身よ、我がお母様に何用だ? まさかお母様に害を及ぼすつもりではあるまいな!?」
「あら? 貴女もしかして黒龍? なに貴女、そんな幼女の姿に成って!? と言うか、今気づいたけどなんであなた私の娘の小さい頃に似ているのよ?」
「娘だと? 貴様わがお母様を愚弄するか!?」
コクが殺気立つのをあたしは慌てて制して説明をする。
「コクッ! ライム様は私たちガレントの血筋の始祖母になるのですわ! ライム様は子孫の私たちを『娘』と称して呼んでくださるのですわよ、決して悪意のあるものではありませんわよ」
「女神の分身がお母様の祖先と言うのですか? 道理で赤お母様の呪いが安定しているはずですね‥‥‥」
「ティアナの呪いが安定しているのですの?」
あたしはコクがティアナの呪いに気付いているのも勿論、それを理解している事に驚く。
「ああ、その事なんだけどアガシタ様がその呪い必要なら解いてきて来いって言ってたわ。まあ、貴女たちにはむしろうれしい呪いだろうけど、どうする?」
どうもライム様も何の呪いかは分かっている様だ。
しかし、あたしとしてはあの呪いが無くなってしまうのはものすごくもったいない。
女として、妻としてその先の可能性も研究したいから!
「いえ、是非そのままで!」
あたしはびっと人差し指を立てて真剣にお願いする。
「まあ、本来は呪いと言うより女神の秘密の御業だから、むらむらするのもエルハイミがちゃんと処理すれば問題無いわよね、夫婦なんだから」
そう言ってライム様はにんまりと笑う。
よくよくご存じのようで思わずあたしとティアナは赤面してしまう。
『そばにいるこっちの身にもなって欲しいわよ、ライム。シェルでもセレでもミアムでも今後は夜あたしを連れ出してくれない? この二人うるさくて仕方ないから!』
「やはりあの呪いはそうでしたか、ディメルモ様に私もよく使っていただきましたから」
コクは腕を組んでふんと鼻を鳴らす。
なんか一部の人に何が有ってどうなっているかバレバレである。
あたしとティアナはますます赤面する。
「一体何の話よ? ティアナって何か呪いがかかっているの?」
「そう言えばそれが原因でお姉さまが怒っていましたね、ティアナさんがセレさんとミアムさんにもその呪い使ってたって」
シェルとイオマもあたしたちに視線を向ける。
「全く、主様は主様でいやがりますね。それより分身、本当に他意はないでいやがりますか?」
「あら? この子は黒龍の分身? 何この子、力だけは強いみたいだけど魔力がすごく不安定じゃないの?」
ライム様は一瞬でクロエさんを理解する。
そう、クロエさんは肉弾戦を得意とする反面魔法を使うのが苦手である。
当人はコクの身を守るのだからそれで構わないとか言っていたけど十二詰め所ではそれがあだとなって結構苦戦した。
「そう身構えなくても大丈夫よ。私だって自分の娘たちに不利になるような事はしないわ。それでもう一つ確認なんだけどティアナ、貴女本当に体は大丈夫?」
は?
何かライム様はいきなりティアナの体について振って来た。
「ライム様、ご心配なく、私は大丈夫です」
しかしティアナはそう言う。
そして隣にいるあたしを見て更にこう言う。
「やっとエルハイミを取り戻したのです。もう無理はしませんよ。私の命は彼女を守るために使います」
「ティアナ‥‥‥」
あたしはティアナのその言葉に感動をしてティアナを見つめる。
ティアナも見つめ返してくれてその顔が徐々にあたしに近づく。
『はいはいはい! だからそう言う事は夜やりなさいって! 全くどこでもかしこでも盛るんだから!!』
シコちゃんに怒られるあたしたち。
ハッとしてあたしは真っ赤になって大人しくティアナの横に座り直す。
「まあ、元気そうだからいいけど。しばらくあなたたちの様子を見させてもらうわよ?」
ライム様はそう言ってとびきりのウィンクをする。
あー、なんか嫌な予感‥‥‥
ライム様を追加で乗せたあたしたちの馬車は首都ガルザイルに向かうのであった。
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