第351話13-8ガルザイルへ

 13-8ガルザイルへ



 「お姉さま、また朝帰りですか!?」




 あたしは朝方宿泊先のゲストハウスの玄関でイオマに捕まった。



 イオマ、何故ほうきを逆さまに持って目の下にクマを作って怒っているの!?



 「すんすん。やっぱりティアナさんの香水の匂いと分からない臭い! ええ、ええ、分かってますとも! ティアナさんはお姉さまの旦那様で今は通い妻しているのも分かってます! でも終わったら帰ってきてくださいって何度言えばわかるんです!?」


 「イ、イオマ?」


 あたしはイオマの勢いにたじたじになる。



 「あらエルハイミ、おはよう。また朝帰り? ずいぶんとお肌のつやと張りが良いようだけど、ほどほどにしなさいよね?」


 あたしがイオマに怒られているとシェルがやって来た。

 そして余計な事を言うものだからイオマがあたしの腕をつかんで顔を近づける。


 「確かに最近お肌のつやと言い張りと言いやたらと良いですね、お姉さま? あ、首筋に赤いマークが? ああっ! 胸元の服から赤い髪の毛が!! お姉さまっ!!」


 「イ、イオマ、落ち着いてですわぁっ!!」


 確かにティアナの飲んだり搾りつくしたりしたからお肌には良いのかもしれないけど‥‥‥

 なんとなく理不尽さを感じながらあたしは朝からイオマに責められるのだった。



 * * *



 「それで主よ、今後の予定はどうするのだ? 連合軍に合流するにも本陣は首都ガルザイルに向かっているのだろう?」


 みんなで朝食を取りながらショーゴさんが今後について聞いてくる。


 「それについては明後日にはここを出発してガルザイルにゲートで飛びますわ。そしてアコード陛下に謁見して帰還報告をしてティアナの推薦の下に国連軍に参加するお許しを取りますわ」


 あたしはサラダにフォークを刺しながらそう答える。


 「主様、そうすると国連軍に参加後我々はすぐにでもジュメル討伐に?」


 コクに聞かれあたしは首を横にふる。


 「ティアナの話では国連軍は先の戦いでかなり消耗をしてしまったので拠点であるガルザイルに戻り体制を整えるまで待機だそうですわ。私たちはその間以前関係のあった所へ挨拶周りなどしなければなりませんわ」


 少なくとも実家とティナの町にはいかなければならない。

 「巨人戦争」の後あのママンがあたしが失踪したのを聞いて気絶したらしい。

 もちろん大事には成らなかったようだがしばらくあのマイペースなママンがふさぎ込んでいたとも聞く。

 そしてティナの町も今は第一王子エスティマ様が治めているらしいが、ティアナの命令でゾナーはそのままエスティマ様の補佐をしてティナの町を守っているそうだ。



 あたしはソーセージをかじりながらあれやこれやと考える。



 やはり首都ガルザイルでアコード陛下に連合軍参加の許可を取ったら実家に一旦帰らないとまずいよなぁ。

 しかしそうなるとまたティアナとしばらく離れてしまう。

 そうなればセレとミアムがあたしがいない事をいい事にまたティアナにいちゃいちゃするに違いない!



 ざくっ!



 思わすあたしはリンゴにフォークを刺してしまった。

 

 分かってはいる。

 それにあたしもあたしの目が届かない所ならティアナの浮気を許している。

 しかしあからさまにそうなると思うとやはりいい気分ではない。



 こうなったら離れる前にまたティアナのを搾り取れるだけ搾り取ってしまおうか?



 あたしがそんな事を考えているとシェルが聞いてくる。


 「それでさしあたり今日明日って何するのよ?」


 「学園内の修復は今日で終わるので明日は師匠と今後の話と『女神の杖』について話が有りますわ」


 そう、あたしたちは「女神の杖」を今後この学園都市ボヘーミャに預けて外部には秘匿しようとしているのだ。


 あんな危険な物持ち歩いて万が一にもジュメルに奪われたらそれこそ大騒ぎだ。

 かと言ってガレントで保有なんかしてたらそれはそれで問題になる。


 ジュメルはあたしが保有していることを知っている。

 そうすれば必然とあたしをターゲットにするだろう。


 つまりあたしがおとりになってジュメルをおびき出しそれを連合軍でつぶしていこうという算段だ。


 

 「ふーん、じゃあ今日はあたしはソルミナ姉さんの所に行ってくるね」


 「あ、それなら私もアンナさんの所で調べたい事が有るので行ってきます」


 シェルもイオマも今日はやりたい事が有るようだ。



 「主様、申し訳ございませんがどうも今朝から背中がうずきます。もしかしたら脱皮が始まるやもしれませんので今日はここで大人しくしたいのですが‥‥‥」


 「黒龍様、それならば私がお手伝いいたします」


 「むう、黒龍様が脱皮されると有らば万が一に備えなければな。主様申し訳ございませんが本日は黒龍様にお付きしたく存じます」



 コクが脱皮するかもしれないって?

 そう言えば先日コクに魔力を吸われたっけ。

 久々に思い切り吸われたから危うく気絶するところだった。



 「そうですの? 分かりましたわ。どうせ今日は修復作業でしょうから」


 「主よ、マース教授に頼まれている事はどうするのだ? 例の破壊試験、必要なら俺が代わりに行ってくるぞ?」


 そう言えばマース教授に試験の手伝いを言われてたっけ?

 あたしはショーゴさんの申し出を受けそちらの方はお願いする事とした。



 珍しいわね皆がそろって用事があるなんて。


 そんな訳で今日はあたし一人での行動となったのだった。



 * * * * *



 「ふう、ここは大体これで良いでしょう。エルハイミ、終わりにしましょうか?」


 「そうですわね、ティアナ。思ったより早く終わりましたわね」


 あたしとティアナは錬成魔法や創作魔法で建物やその他周りの破壊された場所を修復していた。

 自業自得とは言え今回はかなりの場所を破壊してしまったので修復にも時間がっかった。

 しかしそれもやっと終わりであたしたちはこの後時間が出来た。


 「そう言えば今日はあの二人の姿が見えませんがどうしましたの?」


 「あの二人には連合軍の仕事の手伝いをしてもらってます。ですので今日は修復作業だけだったのでこちらには来ていません」


 へえ、あの二人そんな事もやっているんだ。

 と、あたしはティアナと二人っきりだと言う事に気付く。


 「でしたらちょうどお昼の時間にもなりますわ。ティアナ久々に街に出てボヘーミャ名物でも食べません事?」


 「良いですね。そうしましょう」


 あたしとティアナは二人そろって学園の外にある街に行く事にした。



 * * * * *



 「懐かしいですわね」


 「そうね、あの頃はこうしてよくみんなで街に繰り出したわね」


 ティアナはあたしと二人きりなので口調も昔のものになっている。

 二人並んで街を歩くなんて何年ぶりだろう?


 ふと街のお店の窓ガラスに映るあたしたちを見る。

 ティアナは大人の女性であたしよりずいぶんと背が高くなってしまった。

 いや、あたし自身は成長と言うか「時の指輪」のせいであの時と全く変わらない。


 ティアナと再会してからこっちこうした変化のせいでずっとリードされっぱなしな気もする。

 でも凛々しくなったティアナもまた良いものだ。



 「どうしたのエルハイミ?」


 「いえ、こうしてまたティアナのと一緒にいられるのって幸せだなって」



 あたしがそう言った瞬間ティアナはあたしの腰に手をまわして来て顎に指をあてあたしを引き寄せ口づけする。

 あまりにも自然でそして情熱的だった。



 「もうエルハイミを離さ無いからね」


 「あふぅ、ティアナぁ‥‥‥」



 こ、こんな人の往来するところでいきなりそんなきゅんとする事されちゃうとは!



 しかしあたしはふとその手慣れた一連の行動にセレとミアムを思い出した。

 だって前のティアナとは全く違うし。



 「ティアナ、ずいぶんとこういった事に手慣れていますわね‥‥‥」


 「え? い、いや、そんな事は無いわよ?」


 「浮気は仕方ないとしてもいつもこんなことあの二人にしているのでしょう? きっと夜だって‥‥‥」


 あたしのその物言いにティアナは額に脂汗をかいて目線が泳ぐ。


 なんかだんだんと腹立たしくなってきた。

 最近はあたしが正妻と言う事で夜とかもあの二人を押しのけてティアナの所に行ってるけどあたしがいなければきっとティアナの事だ、夜にもあの二人を可愛がるに決まっている。


 ガルザイルに戻ってあたしが実家に行っている間ティアナはきっと‥‥‥



 ゆ、許せない!!



 「ティアナ! ガルザイルに戻ってアコード陛下にお許しをもらったら実家に挨拶に行きますけどティアナも付いて来てくださいですわ! 良いですわね!!」


 「エ、エルハイミ?」


 あたしのその一方的な要求にティアナは応えるしかないのであった。



 * * * * * 



 「それでは師匠、いろいろとお世話になりましたわ。あなたもご挨拶をですわ!」

 

 「そ、それでは師匠、また何かありましたら連絡を願います」


 ティアナはそう言ってあたしと一緒に師匠にお辞儀する。

 その様子を見て師匠は小さく笑う。


 「ティアナ、エルハイミ。まだまだ油断はできませんがジュメルは今後エルハイミを狙ってくるでしょう。十分に注意するのですよ」


 「はい、分かっていますわ」


 「エルハイミを取り戻せたのです、今後は後れをとることはありません」


 あたしたちのその答えに師匠は満足そうに首を縦に振る。



 「あー、なんかティアナがエルハイミの尻に敷かれてるわね」


 「うう、あたしもお姉さまの尻に敷かれたい」


 「結局脱皮は出来ませんでしたがその間に主様たちがやたらと夫婦然としていますね? 一体何が有ったのでしょう?」



 「うう、ティアナ様が最近かまってくれない。ミアムぅ~」


 「セレ、エルハイミさんが正妻で邪魔ばかりするからよ。何とか引き離してティアナ様のご寵愛を‥‥‥」



 何かごちゃごちゃと言っているのがいるけどそろそろ出発よ!

 とにかくあたしがそばにいる間はティアナはあたしの!

 誰にも渡さないんだから!!




 あたしはその頑なな決意と共にゲートを起動させるのだった


  

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