第348話13-5ティアナとの再会
13-5ティアナとの再会
師匠は重々しい口調でティアナの事を話し出した。
「ティアナはアンナが開発したアイミたちの新機構を使い短時間ですが超人的な力を手に入れました。それは魔法防御に優れたホリゾンの聖騎士団の甲冑さえも紙のように簡単に引き裂き、どんなに強力な魔法も受け付けない強靭な身体、まさしく戦場を駆け巡る戦の女神の再来です」
師匠はそう言って一間置く。
「しかしその強力な力は味方にまで影響を及ぼし彼女が一旦その力を使うと周りの味方も巻き込まれてしまうほど。普通の者では彼女のそばにすら立っていられません」
ここまで聞いたあたしはその師匠の言葉に絶句する。
そしてアイミたちの事を思い出す。
確か「巨人戦争」で大破したはず。
アンナさんがここボヘーミャでアイミたちを修復したって事かな?
「そう言えばアイミたちのもう一つの目的、師匠をもとの世界に送り届ける研究はどうなったのですの?」
「それに関してはアンナのおかげでいつでも私をあの世界に送り届けられる目処がつきました。しかしその力を今はティアナがジュメル殲滅の為に使っている。私もこの世界の平和を切に願う者。この世界の行く末を見届けぬまま戻ることは出来ません」
それは師匠の本音なのだろう。
この世界は既に師匠にとっても第二の故郷。
それに戻っても師匠の思い人は遠の昔に‥‥‥
「師匠‥‥‥」
「エルハイミ、今はティアナの心をあなたが取り戻しなさい。彼女は今も苦しんでいるのです。あなたが彼女の前に現れればきっと」
師匠はそこまで言って出入り口を見る。
そこにはアンナさんが立っていた。
「ちょうど好い。ティアナに新しい力を与えたアンナならその事について詳しく話が出来るでしょう。アンナ」
「はい、師匠。もともと落ち着いてからエルハイミちゃんにはその事を話そうと思っていたのですから」
今はルイズちゃんを抱っこしていないところを見ると大人しく寝ているのだろう。
アンナさんはあたしたちのそばまでやって来た。
「エルハイミちゃん、はっきり言ってあの機構は殿下の体にかなりの負担をかけているはずです。できればやめさせたいのです」
「体に負担?」
アンナさんのその話にあたしは思わず聞き返す。
「ええ、あの機構はアイミを中心に他の四大精霊がその力を具現化して殿下にとりつき超人的な力を発するシステムです。しかしその膨大な力は中心人物である殿下の体にかなりの負担をかけているはずなのです。しかし殿下はジュメルと見ると我をも忘れ殲滅しようとする。私たちの言葉を聞き入れようとはしません」
そこまで言ってあたしに首飾りを渡して来る。
「もう二度と殿下にこの様な事が無い事を切に願うのです」
あたしはそれを受け取り驚く。
それはあの時にアコード様がティアナに送った【身代わりの首飾り】だった。
しかしその首飾りはその役目を終え無残にも真ん中の宝石が割れて灰色に変色していた。
文字どうり身代わりになってティアナの復活を手伝った首飾り。
目の前に渡されて言葉ではなくそれが事実だったとあたしは再度実感した。
「殿下はあの『巨人戦争』でその命を落としました。この【身代わりの首飾り】が無ければどうなっていた事やら。しかしもうこの【身代わりの首飾り】は無いのです。エルハイミちゃん、どうか殿下を止めてください」
「ティアナ‥‥‥」
あたしはアンナさんのその話にただティアナの名を呼ぶしかできなかった。
* * * * *
あたしはアンナさんの研究室に来ていた。
前に一度来た事はあったけどあれから更に混沌とした部屋になっている。
「お、お姉さま凄い! これだけの魔術書や媒体がこんなに! それにこれってほとんどマジックアイテムですよね!?」
「なにこれ? 人の形した植物?」
イオマもシェルもアンナさんの研究室に転がっている物を興味深く見ている。
なんかコクは師匠と話がしたいとか言ってクロさんとクロエさん連れて学園長室に行ってしまった。
アンナさんの研究室にはそれはそれは国家機密レベルのマジックアイテムがごろごろと転がっている。
あたしたちのライトプロテクターの原案になった甲冑や剣も転がっているし、風のメッセンジャーや天気予報のマジックアイテムも転がっていた。
「エルハイミちゃん、殿下はここ数日で着くらしいです。現在連合軍本陣はガレントの首都ガルザイルに向かっています。しかし殿下だけはこちらボヘーミャに向かっているとの事です」
風のメッセンジャーで連合軍本陣と連絡を取ったアンナさんは状況を伝えてくれた。
「本陣はガルザイルに向かっているのですの?」
「ええ、西のミハイン王国でジュメルの暗躍があり殿下はそれを殲滅に向かったのです。今回初めて十二使徒と名乗るジュメルの神父と遭遇したとの事で殿下でさえ手こずっていたそうです。しかしやっとその問題も解決出来ミハイン王国で勝利した連合軍は駐屯地であるガルザイルに向かっています」
ジュメルの十二使徒。
世界各所で表に出始めいろいろとやってくれている様だ。
「でも、もうじきティアナに会えるのですわね!」
それでもあたしにとって念願のティアナとの再会。
あたしはその為にここまで戻ってきたのだ。
あと数日でティアナに会える‥‥‥
「と、言う訳でだな、その間優秀な人材を放置しておくのはもったいないのでな早速手伝ってもらうぞ、エルハイミ君」
いきなり後ろから現れたマース教授にあたしはがっしりと両肩を押さえられた。
「マ、マース教授?」
「実はちょうど実験に行き詰っていたのです。エルハイミちゃんがいればその膨大な魔力でうまく行くと思いますので協力をお願いしますね。あなた、師匠の許可は?」
「ああ、ちゃんと取ってある。学園にエルハイミ君たちが滞在する許可は取った。ティアナ殿下が来るまでは時間が有るだろうからエルハイミ君の協力要請を学園長に頼んだら『好きに使いなさい』と言われてね。早速だが始めよう」
なにそれ!?
あたしの意思は?
「さあ、まずはこれからだ!」
あたしは有無を言わさずマース教授とアンナさんの研究を手伝わされる羽目になったのだった。
◇ ◇ ◇
「アンナさん、これってここに魔力を注ぎ込めばいいのですの?」
あたしはあの後いろいろな実験に付き合わされた。
今日も出来上がった魔道具に魔力を込め起動実験を行う予定だった。
「アンナさん?」
あたしは魔道具に魔力を注ぎ終わってアンナさんに次に何をするのか聞こうとしたらアンナさんがいない?
またルイズちゃんがぐずっているのかなと思いアンナさんを探しに研究室を出る。
「どこに行ったのでしょう? アンナさ~んですわぁ~」
あたしはアンナさんを探しながら教授たちの宿舎の方へ行く。
そして通路の角を曲がった時だった。
ぼよんっ!
あたしの顔面に何やらやわらかいものがぶつかった!?
と、それが何かと理解する前にそのやわらかいものにあたしは頭を押さえられ強くそのやわらかいものに顔を埋め込まれる。
「むぐぐぐぐぅぅぅですわぁっ!」
「ほ、本物だ‥‥‥」
むぐぐぐっ、く、苦しい!!
あたしは何とか押さえつけられた顔を離し息をする。
「ぷはっ!? 危うく窒息するところでしたわ!! 一体何がですわ?」
「本物のエルハイミだ!!」
「へっ?」
声のした方、そのやわらかいものから顔をあげ上を見ると‥‥‥
「ア、アテンザ様?」
「本物のエルハイミだ‥‥‥」
そう言ってアテンザ様はいきなりあたしの唇を奪う。
「#$%&#っ??」
なんで?
アテンザ様があたしを!?
って、アテンザ様にしてはこの味は‥‥‥
その口づけはあたしのよく知る味だった。
懐かしくそして甘いその味は‥‥‥
ティアナぁっ!?
「ぷはぁっ! え? ええっ?? アテンザ様じゃない!? ま、まさかですわ‥‥‥」
あたしはようやく口づけから解放されてあたしを抱きしめるその女性を見る。
真っ赤な長い髪の毛、切れ長なやや釣り目の気の強そうな瞳、端正に整った鼻や見るからにやわらかそうなみずみずしい唇。
もみあげの所に昔からあるくせっけがほほに向かって跳ね上がっている。
アテンザ様に似ているけど少し違う。
そう、彼女こそ
「ティアナっ!」
あたしを抱きしめるこの胸の大きな大人の女性は間違いなくティアナだった!!
「エルハイミ、本当にエルハイミだ!」
そう言って彼女はまたあたしに唇を重ねる。
『よく戻ってきたわね、良かったエルハイミ。変わりはないようね?』
シコちゃんもあたしに念話をしてくる。
あたしは一旦唇を離す。
そしてもう一度まじまじとティアナを見る。
「ティアナ、ティアナぁっ!!」
あたしは大泣きしながらもう一度今度は自分からティアナに唇を重ねる。
そしてあたしとティアナは口づけをしながらしばらくそのまま抱き合っていたのだった。
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