第349話13-6凍った心も三秒で
13-6凍った心も三秒で
いきなりの再会であたしはパニクっていながらもとにかくティアナに抱き着いていた。
「ティアナ、本当にティアナですわ!」
「エルハイミ‥‥‥」
嬉しさに舞い上がるあたしだったけどティアナは抱き着くあたしから離れた。
そしてあたしを頭の先からつま先までもう一度よく見る。
「エルハイミ、本当に無事でよく戻って来てくれました。とてもうれしいです」
え?
なによそのよそよそしい口調は?
「アンナは研究室ですか?」
「ティ、ティアナ?」
あたしはティアナをもう一度見る。
しかしその表情は先ほどの歓喜の物ではなく冷たく感じられる無表情。
あたしはその様子に思わず一歩下がってしまった。
そして改めてティアナをよく見る。
ティアナは大きな胸もありスタイルこそ女性のシルエットが強く出ているがその服装は男性が着るそれその物。
まるで宝塚の男優のようだ。
それに先ほどの事もそうだけどこの二年ちょっとでティアナは少女と言うより大人の女性然としていて以前のアテンザ様そっくりだ。
毅然としたその雰囲気は連合軍の将軍職と言われても納得いく風格があり、武人としての闘気をまとっている。
「殿下、こちらでしたか。ボヘーミャにお着きになられてすぐにでもエルハイミちゃんを探しに行かれたと思ったのですが‥‥‥ あら? エルハイミちゃん?」
アンナさんがティアナの後ろから現れた。
ちょうどティアナの影になっていてアンナさんはあたしに気付いていなかったようだ。
「エルハイミには先ほど会ったばかりです。再会できてとてもうれしく思います。しかし今はアイミの調整を急ぎたい。アンナ、すぐにでもアイミの調整を願います」
ティアナはアンナさんに振り返りそう言ってカツカツと靴底の音を響きかせ向こうに行ってしまった。
「ティアナっ!」
あたしの呼びかけに振り向くことなくティアナは行ってしまった。
「エルハイミちゃん‥‥‥ 今の殿下は誰にでもあのような態度をとるのです。そして殿下の頭の中にはジュメルの事しかない。エルハイミちゃんに会えばそれも変わると思ったのですが‥‥‥」
あまりの事にあたしは呆然とする。
なんで?
さっきはあんなに激しくあたしを抱きしめてくれて熱い口づけをしてくれて歓喜の表情を見せてくれたのに?
「ティアナ‥‥‥」
あたしはただそう言うしかなかった。
『エルハイミ、またあとで話しましょう‥‥‥』
シコちゃんが遠ざかるティアナから念話を飛ばしてくれる。
しかしあたしはあまりの事に固まってしまいその場で動けなくなってしまったのだった。
* * * * *
「どうしたのよエルハイミ? そんなに落ち込んで? もうティアナには会ったんでしょ?」
「どう言う事なんでしょうね? さっきアンナさんから聞いたんですがお姉さまって念願のティアナさんにもう会ったんですよね?」
あたしはふらふらしながらみんながいる部屋にやって来た。
なんとなくぼぉっ~として席について出されたお茶を飲む。
「お~い、エルハイミ?」
シェルがあたしの目の前で手をひらひらする。
しかしそれはあたしには目に入っていなかったようだった。
「主様、いかがなされましたか? 何か悩み事でも?」
コクがあたしの前に来て下からのぞき込む。
小さい頃の自分に覗き込まれたような気がしてあたしはやっと思考を再開する。
まず再会したばかりのティアナはいつものティアナだった。
しかし一息ついたらいきなり雰囲気が変わって冷たい感じのティアナになってしまった。
アンナさんの話では今のティアナは誰に対してもああいった雰囲気だそうだ。
あたしにまで‥‥‥
再会したティアナはきっとあれやこれ、もしかしたらあの時ティアナだけ突き飛ばして異空間から脱出させたことを責めてくるかと思っていた。
いや、そうでなくても積もる話はいっぱいあるはずだった。
それが‥‥‥
「ティアナが‥‥‥ 」
あたしがそうぽつりと言った時だ。
「主よ、何が有ったか知らんが主らしくないぞ? 主はいつも通りの主でいればいいのだ」
ショーゴさんがあの時と同じような不器用な慰めを言ってくる。
―― エルハイミ、あなたならティアナを昔の彼女に戻せるかもしれない ――
あたしはふと師匠のその言葉を思い出した。
そしていてもたってもいられなくなりあたしは立ち上がって部屋を出ていく。
* * *
「アンナさん、ティアナは!?」
あたしはアンナさんの研究室に飛び込んだ。
そして搬入されたアイミの調整をしているはずのアンナさんを探し、ティアナを探す。
「エルハイミちゃん? 殿下は今師匠の所ですよ?」
「わかりました、ではそちらに行ってみますわ!」
返事もそこそこあたしはすぐに師匠の所へ向かう為にアンナさんの研究室を後にする。
ぴこっ?
去り際になんか大きな赤いものが懐かしい反応をしたような気もしたがそれよりも今はティアナだ。
あたしは確認する事無く急いで師匠のもとに向かうのであった。
* * *
「師匠失礼しますわ!」
ばんっ!
勢いよくあたしは扉を開く。
「どうしたのですエルハイミ、騒がしいですよ?」
お茶をすすりながらソファーに座っている師匠がいた。
あたしはすぐに対面のソファーを見るが誰もいない。
もう一度師匠に視線を送る際にテーブルの上に使い終わった湯飲みが一つあるのに気付く。
「し、師匠! ティアナは? ティアナは何処ですの!?」
あたしのその有様に師匠はため息をついてから湯飲みを置く。
「あなたがティアナの事で錯乱してどうします。彼女は先ほどまでここに挨拶に来ていました。そしてティアナはここへ数日滞在するので割り当てた部屋に荷物を置きに行っています」
それを聞いたあたしは何処の部屋か師匠に聞いてからすぐにその部屋へと向かった。
* * *
「こ、ここですの?」
師匠に言われた場所はゲストハウスであたしたちが使っている建物のすぐ横だった。
特にこちらのゲストハウスはお偉いさんたちが来た時用なので高級ホテル張りである。
あたしは知らされた部屋に向かう。
「この部屋ですわね?」
扉の前で大きく深呼吸してからあたしは扉をノックする。
そして待つことしばし。
「はい、どちら様でしょうか?」
扉を開いたのは金髪碧眼のあたしと同じくらいの年の美少女だった。
「え、ええとぉ、あの、ここはティアナ殿下のお部屋ですわよね?」
「ああ、はい、殿下の部屋で間違いないですが、どちらさまで?」
不審者でも見るような表情をするこの少女にあたしは自分が誰であるか名乗る。
「私はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンですわ。ティアナの伴侶ですわ!」
「えっ?」
その少女は大いに驚いた様子だった。
そしてあたしの声が聞こえたのか部屋の奥でドタバタする音がする。
そして中からまた一人やはり金髪碧眼の美少女が出てきた。
「セレ、ティアナ様がその方を中にいれるようにと」
「ミアム、でもこの方ティアナ様の伴侶だって‥‥‥」
何やら話し込む二人。
そしてあたしに対してきつい視線を送って来てから中に入れてくれる。
中に入るとそこは応接間になっていた。
そしてそこにティアナがソファーに座ってお茶を飲んでいた。
「ティアナ様、お連れしました」
「ご苦労様です。セレ、ミアム席を外してもらえますか?」
ティアナは静かにお茶を飲んでいる。
「しかしティアナ様!」
「そうです、この方ティアナ様の伴侶だって!」
何この二人?
ティアナの指示に従わず物言いをしている?
しかしティアナが鋭い眼光でこの二人を見ると二人はびくっとして震えた。
ティアナは立ち上がりため息をつきながら二人の所まで行きその細い顎に指を添えいきなり二人にキスした!?
「二人とも、今は言う事を聞きなさい。良いですね?」
キスされた二人はうっとりとした表情で「はい」とだけ言って部屋を出て行った。
あたしは目の前で起こった有り得無い光景にふるふると震えている。
『あー、エルハイミ落ち着きないさい』
シコちゃんがそう言う。
しかし既にあたしの頭の周りに電気がピリピリと走り始めている。
「ティ、ティアナ‥‥‥ 今のは‥‥‥」
あたしがそう言いかけて時だった。
ティアナがいきなり抱き着いて来た!?
「違うのよ! これには訳が有るのよ!! あたしが愛しているのはエルハイミただ一人だけよ!! 本当よ!!」
「はぇっ?」
いきなりの事にあたしは驚くがそのままティアナに唇を奪われる。
それは濃厚な大人のキス。
しばし濃厚なキスをされていたあたしはやっとそれから解放される。
「ぅはぁん、ティ、ティアナぁ?」
既にティアナの大人のキスで思考能力が低下される。
そこにティアナは必死になってあたしに弁明を始める。
「あの二人は違うの! あたしにはエルハイミ、貴女だけよ! 今からそれを証明するわ!!」
「はえぇ?」
そしてティアナはまたあたしの唇を奪いながらベッドへとあたしを押し倒す。
あたしは何が何だか分からないままティアナにされるがままになってしまう。
こうしてあたしはその晩ティアナの何かの証明に一晩中付き合わされたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます