第342話12-30シェルの親御さん
12-30シェルの親御さん
「ふははははっ! まだまだ行くぞ、黒龍よ!!」
「ふん、これくらいまだ序の口です! 負けませんよメル!」
幼女二人が杯を交わしながら飲み比べている。
既に周りは死屍累々。
どうなってんのよあの二人!?
最古の長老も既に数人酔いつぶれている。
次代だってファイナス市長がかろうじて残っているくらいで周りは全滅。
十二使徒を倒した功績でソルガさんもこの宴に参加していたが既に撃沈している。
「お、お姉さまもう無理ですぅ」
そして今イオマも倒れた所だ。
あたしはこっそり【状態回復魔法】を使って何とか保っているけど、あの二人ってあれだけ飲んだお酒何処に消えているのよ!?
「エルハイミぃ~、あたしもうむりぃ~、うっぷ!」
こらこらまさかここで粗相をするつもりじゃないだろうな!?
あたしは慌ててシェルにも【状態回復魔法】をかける。
「うぁ、あ、ありがとう、エルハイミ」
どうにかこらえたシェルは正気に戻って何とか落ち着いたようだ。
そしてシェルも改めてこの宴を見まわす。
残っている人の方が少ないんじゃないだろうか?
「ふん、エルフの酒にしてはまあまあでいやがりますね」
「クロエ、あまり飲み過ぎるな。黒龍様や主様に万が一が会った時にさしつかえる」
「しかしよく飲むな、あの二人は」
クロエさんはちびちび飲んでいるけど既にクロさんとショーゴさんは飲んでいない。
一体どこまで続くのだろうこの勝負は?
あたしはため息つきながらシェルと話す。
「今日は仕方ありませんが明日にはシェルのご両親に会いに行かなければなりませんわね?」
「え? もう行くの? ちょっと、心の準備がまだ‥‥‥」
何の心の準備よ!?
「まあまあ、エルハイミさんには先に他にも聞きたいことが沢山あります。シェルの親御さんの所へは明後日で良いでは無いですか?」
ファイナス市長にそう言われるとあたしも同意するしかない。
「わかりましたわ、シェルの親御さんには明後日会いに行きましょうですわ。ファイナス市長、師匠とは連絡とれまして?」
「風のメッセンジャーですね? あの便利な魔道具は精霊都市ユグリアに置いてあります。ここエルフの村には刺激が強すぎますからね」
そう言ってファイナス市長もあの二人を見る。
と、二人が同時に倒れた。
「どうやら今回は引き分けと言う事になりそうですね?」
酒樽に埋もれてコクとメル長老は動かなくなっていた。
やっとお開きになる。
あたしは大きなため息をついてコクを回収に行く事にしたのだった。
* * * * *
あたしたちはソルガさんの家に泊めてもらい、翌日ファイナス市長が来るのを待っていた。
「エルハイミ、厄介な事が起こった」
先に出かけていたソルガさんは数人のエルフの戦士たちと慌てて戻ってきた。
ファイナス市長と一緒に来るはずだったのがどうしたのだろう?
「どうしたのですのソルガさん?」
「昨日捕まえたダークエルフたちがいなくなっていた。それと十二使徒とか言うやつの遺体とダークエルフの女の遺体もだ!」
まさか生き残ったダークエルフたちが逃げ出して遺体も持ち去ったのか?
だとするとエルフの村は大丈夫なの?
「ソルガさん、村は大丈夫ですの!?」
「ああ、それで戦士たちが中心に村をくまなく調べている所だ。すまんがファイナス長老もその事ですぐには来れない。君たちはここで大人しく待っていてくれ!」
そう言ってまたまた家から出て行ってしまった。
「ううっ、頭ガガンガンしますね? どうしたのですか主様? 何か有ったのですか?」
クロエさんに介抱されながらコクが起きてきた。
昨日は結局酔いつぶれそのままここに運んだのだった。
「ジュメルのボーンズ神父の遺体が消え、捕まえたダークエルフたちも逃げ出したらしいですわ」
あたしがそう言うとコクはクロエさんから水をもらいながら聞いてくる。
「ベルトバッツたちを使いましょうか?」
コクがそう言った時だった。
「その必要はありませんよ、エルハイミさん」
その声にみんな驚く。
嫌でも忘れないボーンズ神父の声だった。
「なっ!? あんたソルガが兄さんの矢で死んだはず! どう言う事!? どこにいるの姿を見せなさい!」
「そう焦らずとも私はここに居ますよ?」
そう言ってとびらの横に有った観葉植物の木が振り向いた。
そこには顔だけ出したボーンズ神父の姿が!
そしてボーンズ神父は緑のぶち眼鏡をいつもの黒い淵の眼鏡に枝の手で付け変える。
「ああっ! お姉さま観葉植物がボーンズ神父に!?」
「ええっ! あれって植木じゃなかったのっ!?」
イオマやシェルが驚くけど、着ぐるみに驚いているんだよね?
眼鏡変えてからじゃないよね!?
「どう言う事ですのボーンズ神父、あなたの伴侶のダークエルフまでソルガさんに倒されたはずですわ」
「ええ、確かに殺されましたよ? 酷いものです私がお話していた途中だというのに。しかし危なかった、これが無ければ危うく永遠に死んでしまう所でした」
そう言って懐から首飾りを取り出した。
「なっ!? それはまさかですわっ!?」
「ふふっ、エルハイミさんはご存じでしたか? そう、これは【身代わりの首飾り】です。珍しいもので貴重品ですがつけておいてよかった。最も回復するのに今回はかなり時間がかかりましたがね」
そう、あれは【身代りの首飾り】、魔法王国時代の産物。
「まさかそんなものまで持っていたとはですわ!」
「ふふっ、驚いていただけた様で何より! 私は皆さんが驚く顔を見るのが大好きなんですよ! しかし今回は残念ながらここでおいとまします。しかしエルハイミさん、私はますますあなたたちが欲しくなった! きっとそのうちあなたたちを私のモノにして見せますよ! それでは皆さん失礼します」
そう言って「帰還魔晶石」を発動させる。
「あっ! 待ちなさいですわ!!」
あたしが雷撃を飛ばしたがボーンズ神父は間一髪それをかわし消えてしまった。
あたしは歯ぎしりする。
あのふてぶてしい神父を逃がしてしまったのだ。
全く、ジュメルの神父たちは逃げ足が速い。
と、外も何やら騒がしい。
あたしたちは外に出て様子をうかがう。
すると向こうにソルガさんたちと木の上に肌の黒い女性が‥‥‥
「貴様、生きていたのか!?」
「ふん、エルフめ! 一度はお前に殺されたがこれのおかげで助かった! この借りきっと返すぞ! 特に貴様、我が主にして夫に手をかけた貴様だけは絶対に許さないからな!」
そう言ってその肌の黒い女性、あのボーンズ神父の伴侶ダークエルフのベスと呼ばれた彼女は懐から「帰還魔晶石」を取り出し発動させる。
その素早い動きにソルガさんたちが矢を放つ前に彼女は消えてしまった。
「エルハイミ、あいつら‥‥‥」
「ええ、まさか【身代わりの首飾り】なんてものを持っていた何てですわ‥‥‥」
シェルの問いかけにあたしも頷き返す。
「帰還魔晶石」を使ったのだからかなり遠くの拠点に逃げたのだろう。
すぐには襲ってこないだろうけどボーンズ神父、嫌な相手と長い付き合いになってしまいそうだ。
あたしは騒いでいるソルガさんたちを見ながらそう思うのであった。
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