第341話12-29メル長老とコク
12-29メル長老とコク
あたしたちはソルガさんについて扉を抜けエルフの村に来ていた。
「うわぁっ! お姉さまここがエルフの村なんですね!」
初めて来たイオマはその物珍しさにあちこちを見ている。
久々に来たエルフの村はあたしの記憶と全く変わっていなかった。
それはまるで今までの外の世界の出来事が夢であったかのようにここはあの時と何にも変わっていない。
「ほんと、何も変わっていないわね‥‥‥」
シェルはあたしの心でも読みとったかのようにぼそりとそう一言いった。
あたしたちはソルガさんについて一軒の家に入って行く。
「とりあえずこの家で待っていてくれ。ファイナス長老に話をしてくる。シェル、みんなにお茶を入れてやってくれ。場所は分かるよな?」
「ええ、大丈夫。後はやっておくわよ。ソルガ兄さんは行ってきて」
シェルにそう言われるとソルガさんは家を出て行ってしまった。
初めて来る家なのにシェルはまるで自分の家かの様にてきぱきとお茶の準備をする。
「シェル、この家は?」
「ああ、ここはソルガ兄さんの家よ。叔父さんも叔母さんも今は別の家に住んでいるの。ここはソルガ兄さんがマニーさんと所帯を持つために作った家なんだけどね~」
そう言われあたしは以前の事を思い出す。
あの時はソルガさんお嫁さんもらえなかったんだっけ。
苦笑しているとシェルがお茶を入れてみんなに配っていた。
* * * * *
ソルガさんの家でお茶を飲んで待っているとソルガさんとファイナス市長が戻って来た。
「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン、よく無事で戻ってきましたね。ユカも喜んでいましたよ!」
対面して挨拶一番ファイナス市長はそう言ってくれた。
「シェルもご苦労様です。無事戻って来てくれてほっとしてます。変わりは無いようですね?」
「はい、ファイナス長老。ご心配をおかけしました」
流石にシェルもファイナス市長の前では大人しい。
しかしファイナス市長はあたしたちに挨拶が終わると厳しい顔でコクを見る。
「あなたが黒龍なのですね? 私はエルフの八大長老が一人ファイナスと言います。初めまして」
「古参のエルフですか? 転生してこのような姿ですが私が黒龍です」
コクはそう言ってファイナス市長に一応挨拶をする。
「話はソルガから聞いています。しつこいようですが黒龍よ、あなたには敵対するつもりは無いのですね?」
「ええ、今更太古のエルフに何かしようと言うつもりはありません。私は主様に従うまでです」
そう言って静かに目をつむる。
その様子を見たファイナス市長はあたしを見る。
「エルハイミさん、相変わらずのようですね。あなたの周りにはいつも驚かされる事しかない。黒龍と知らされていなければこの者は貴女の子供かと思ってしまいますよ」
ファイナス市長はそう言ってふっと優しく笑う。
こ、子供って!?
あたしはコクを見て改めて思い知る。
似ている。
確かにコクはあたしの小さな時にすごく似ている。
あたしのトレードマーク、こめかみの上にくせっ毛で常に三つの棘の様な髪の毛左右に合計六か所あるけどそれまでしっかりコクにもある。
違うのは黒髪と赤黒い瞳位なものであたしたちが並んでいたら確かに親子か年の離れた姉妹に間違えられるだろう。
「主様の子供‥‥‥」
にへへへぇ~と聞こえそうなコクは嬉しそうにあたしに抱き着いてくる。
「こ、これが話に聞くあの黒龍とはな‥‥‥」
横でソルガさんが驚きの声をあげている。
ファイナス市長も同じようだ。
「本当にエルハイミさんになついているのですね。聞かされていたイメージとはかなり違いますね? しかしこれなら大丈夫でしょう。エルハイミさん、メル長老が会いたがっていますよ」
あたしはファイナス市長にそう言われてメル長老に会いに行くのだった。
* * * * *
「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンよ、よくぞ無事此処まで戻ってきたな。どうやら変わりは無いようじゃが‥‥‥」
葉が金色に輝く大きな樹木の下に座っていたメル長老はあたしの横にいるコクにその視線を移す。
「なんでお前さんが一緒なんじゃ? それにその姿はどう言う事じゃ?」
「ふん、太古のエルフ、メルよ。久しいな。今の我の主はここにおられるエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン様だ。この姿も主様のおかげで手に入れたものだが何か問題でもあるのか?」
一目でコクが黒龍であることを見抜いたメル長老にコクは苛立ちながら返事をする。
「エルハイミよ、おぬしが主とは本当か?」
「ええ、一応そう言う事になっているようですわ」
あたしはあの時てっきり竜の姿で孵化すると思っていた。
しかし出てきたのは人の姿でしかもあたしにそっくり。
早く孵化させ迷宮から早く出たい一心で魔力を与え続けた結果あたしに似たのだろうとクロさんは言う。
「ふむ、まあよいか。おぬしのその姿に免じて過去の事は忘れてやろうぞ、黒龍よ。 ぷっ!」
メル長老はこらえられず最後の方で吹き出してしまった。
「なっ! メルよ! 大きなお世話です! 私は今の姿が気に入っているのです!! それに成長すれば主様同様のお姿になれるのですからね! あなたの様にいつまでも幼女のままではありません!!」
「なんじゃとぉ! この姿でも儂はガーベル様にちゃんと愛していただけたのだぞ! 竜族が成人するまでは我らエルフ同様時間がかかるはずじゃ! 黒龍よ、おぬしだって当分はその姿のまま幼女じゃろうに! それに胸だけなら儂の勝ちじゃ! ガーベル様にここまで育てていただいたのじゃからな!」
そう言ってこのロリっ子巨乳エルフはでかい胸を張って威張る。
「なっ!? そ、その様なもの我が主様が私の胸を育乳してくださいます! 主様の二つ名は『育乳の魔女』なのですからね!!」
おいこらコク、あんたまでその名であたしを呼ぶか!?
その後もこの幼女たちは正しく子供の喧嘩状態でしばし。
周りの長老たちもこうなっては口もはさめなくなりファイナス市長があたしを手招きする。
「エルハイミさん、長くなりそうなので先にこちらの要件を話しましょう」
「そうですわね、その方が合理的ですわね」
あたしはもう一度コクとメル長老を見る。
まだまだ言い争っている様だ‥‥‥
ため息一つ、ファイナス市長に向き直る。
「それで、シェルからはところどころの話は聞いています。まずはジュメルについてですが、十二使徒のうち一人を倒したというのは本当ですか?」
「ええ、確かにイザンカの内戦で彼は死にました」
それを聞いたファイナス市長は驚いていた。
「それはかなりの行幸です。我々もエルフのネットワークを駆使しながらユカに情報を流し連合軍と協力しているにもかかわらず十二使徒に関してはほとんど情報が入って来ていません」
え?
そうなの??
少なくともあたしの周りにはしつこいほど現れているってのに?
「しかし、だとすればソルガさんは英雄に匹敵する働きをした事になりますわ」
あたしのその一言にソルガさんが怪訝そうな顔であたしを見る。
ファイナス市長もどうやら同じでソルガさんと顔を見合わせている。
「『迷いの森』の火事でソルガさんが倒した着ぐるみの神父が十二使徒の一人、ボーンズ神父ですわ。十二使徒の神父たちにはダークエルフの伴侶がついていてそのダークエルフの女性もソルガさんが倒していたのですわ」
あたしに言われソルガさんもファイナス市長も大いに驚いている。
「まさか、あの変なのが十二使徒だったのか!?」
「ええ、そうですわ、間違いありませんわよ?」
「ソルガ、お手柄です! 我らエルフに仇成すものに一矢報いることができました」
ファイナス市長は大喜びで矢継ぎ早に次々といろいろな話を始める。
そしてあたしが「女神の杖」手に入れた事、ジュメルの目的が「狂気の巨人」復活ではないかと言う事等を話し、一番気になっていたことをあたしは聞いた。
「ティアナ姫ですね‥‥‥ 彼女はあなたを失ってから変わってしまった。まるで鬼神。ジュメルと聞けば自分の命すら投げ出し殲滅しようとしています。ただ、あなたが生きていると聞いて少し変わったとも聞いています。彼女は今西のミハイン王国でジュメルと戦っています。報告ではもうじきその戦いも終わりそうだと言っていました」
ミハイン王国と言えばウェージム大陸の最西に位置する国。
ティアナは今そこでジュメルと戦っているのか‥‥‥
あたしは心配と共にすぐにでもそこへ行きたい思いでいっぱいだった。
「ユカの話ではティアナ姫は必ずボヘーミャに来ると言っていたそうです。エルハイミさん、あなたの気持ちはわかりますが先ずはユカの下、ボヘーミャに行った方が良いですね」
ファイナス市長はあたしの心を読んだかのようにそう言って優しく笑ってくれる。
「しかし、その前にここでの問題ですね。エルハイミさんとシェルの事は聞きました。ソルガの言う通りこの話は他にはしない方が良いでしょう。シェル、貴女の功績は認めますが親御さんの心配というのも理解はしなさい。事情が事情です、今回は私も手を貸します」
「うぇっ!? あ、は、はいっ! ありがとうございますファイナス長老」
今まで他人事のようにしていたシェルはいきなり呼ばれて慌ててファイナス市長に返事する。
全く、こいつは~
「あ、あのぉ~、お姉さま、お話の途中ですみませんが、コクちゃんたちが呼んでますよ?」
イオマがおずおずとあたしたちに話しかけてくる。
何だろう?
コクたちが呼んでいるですって??
あたしもファイナス市長も呼ばれたコクとメル長老の方へと行く。
「エルハイミよ! 宴だ!! 宴をするぞ!! よいか黒龍、そこで勝負じゃ!」
「ええ、受けて立ちましょう! たとえこの体が幼くとも酒くらい何と言う事はありません! メル! 今度こそ負けませんからね!!」
えーと、どう言う事?
「お姉さま、お姉さまたちが話しているうちにコクちゃんとあのちっちゃい長老さんがお酒の飲み比べ勝負をするって事になりまして、宴の席で勝負するって言いだしたんですよ‥‥‥」
はいっ!?
何やってんのよコクっ!
「こうなるともう止められませんね‥‥‥ 話の続きは明日しましょう、エルハイミさん?」
ファイナス市長はあきらめ顔でため息をつく。
最古の長老たちは喜んでいるが次代の長老含めそれ以外のエルフたちは微妙な顔をしている。
あたしは黄金に輝く世界樹の葉っぱを見上げながら大きくため息をつくのだった。
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