第339話12-27迷いの森

 12-27迷いの森



 ぐろぉろろろっ‥‥‥


 

 あたしの明かりの魔法に照らし出されたそのヒドラはまぶしそうにこちらを見る。


 「ヒドラでは無いですか?」


 コクはつまらなさそうにあたしの横でそのヒドラを見上げる。

 しかし次の瞬間コクは警告を発する。



 「主様気を付けて! この子は操られています!!」



 コクのその警告にあたしたちはいっせいに身構える。

 いくつかの首がこちらに向いたと思ったら喉を膨らませ炎を吐き出した!



 「【絶対防壁】!」



 あたしが絶対防壁を展開し、ショーゴさんがヒドラの首をなぎなたソードで切り落とす。



 

 ざんっ!




 ヒドラの頭が数個切り落とされるもすぐに再生して今度はショーゴさんに噛みつく。

 ショーゴさんは慌てずその場を飛び退きその攻撃を難なくかわす。



 「ヒドラ風情が私たちに逆らうでいやがりますか? ここはしっかりと躾が必要でいやがりますね?」


 「お姉さま! あっちにも!!」


 クロエさんが指をぽきぽきと鳴らしているとイオマが別の場所を指さし悲鳴を上げる。

 見れば逆方向からやはりヒドラが‥‥‥



 え?



 「明かりよ!」


 あたしは追加で現れた方に明かりの魔法を飛ばす。

 するとその明かりに照らし出されたヒドラが沢山‥‥‥


 「な、何なのですの!? ヒドラがあんなに沢山!?」


 明かりに照らし出されたヒドラはその数二十はくだらない。

 そして最初に現れたヒドラの後ろにも同じようにヒドラがわんさか現れた。




 「ふっふっふっふっ、やっと捕まえましたよ、エルハイミさん!」



 その声は何処からともなく聞こえてきた。

 しかしこの声はっ!



 「ボーンズ神父!」



 「お久しぶりです、エルハイミさん。まったく、全ての勧誘を断るなんてひどいじゃないですか? 私は平和的にあなた方にエンターテイメントをしていただきたかっただけなにの」


 あたしはボーンズ神父の姿を探す。

 しかしその姿が見当たらない。


 「せっかくの逸材をこのまま『迷いの森』に入れてしまっては流石に手が出ない。なのでここで貴女たちを捕まえさせてもらいますからね! やりなさい!!」


 ボーンズ神父がそう言うとヒドラ共が一斉にこちらに襲いかかってきた。



 「ふん、いくらヒドラあたりが来ても無駄でいやがります! 喰らえ! ドラゴン百裂掌!!」


 「黒龍様、主様お下がりください。すぐに片づけてきます。 受けよ我が爪、ドラゴンクロ―!!」


 「アサルトモード! 全弾発射!!」


 「うわっ! こっち来ないでよ!! エイッ!」


 クロエさんのドラゴン百裂掌が、クロさんのドラゴンクロ―が、ショーゴさんの魔光弾が、そして近くまで来ていたヒドラの頭にシェルの矢が当たり破裂させる。


 一斉に襲いかかってきたヒドラたちだがあたしたちの応戦にどんどんその数を減らしていく。



 「なんですと!? ここまでの戦闘力を持っていたのですか!?」



 ボーンズ神父が驚いている。

 簡易魔怪人ではなく魔獣の群れなら何とかなるとでも思ったのだろうか?

 しかし残念ながらあたしたちはドラゴンの群れが来ても十分に対応できてしまう。



 「何処ですのボーンズ神父! 姿を現しなさいですわ!!」


 「くっ、流石ですね、エルハイミさん。しかし私は既にあなたの前にいますよ?」



 言われてあたしは自分の前をよく見る。

 するとそこにヒドラの着ぐるみを着ていたボーンズ神父が!


 ボーンズ神父は立ち上がり頭にヒドラの首をプラプラさせながら前足で器用に淵の茶色眼鏡を外しいつもの黒ぶちの眼鏡に付け替える。



 「ああっ! ボーンズ神父!! いつの間に!?」

 

 「あ、主様、申し訳ございません! てっきり子供のヒドラと思っていました!!」


 「え、え、ええっ!? 完全にさっきまで分からなかったですよ、お姉さま!!」


 

 シェルもコクもイオマさえも驚きに着ぐるみ姿のボーンズ神父を見ている。




 えーと、それって着ぐるみのせい?

 それとも付け替えたメガネのせい!!!?



 

 あたしはものすごく着ぐるみのせいであって欲しいと思ってしまった。



 「ここまでとは思いもしませんでした。これではいくらヒドラがいてもエルハイミさんたちが私の言う事を聞いてはくれそうも無いですね。仕方ない。お前たち、森を焼き払いなさい!」


 ボーンズ神父はそう言ってヒドラたちに命令をする。

 するとヒドラたちはその炎を森に向けて放ち始めた!




 「エルハイミっ!!」



 シェルが悲鳴を上げる。

 シェルにとってはこの森は自分の家族と同じだ。



 あたしは慌てて【高層雲暴雨】の魔法を発動させる!


 あたしの魔力を使って上空に一気に積乱雲を発生させスコールのような大雨を降らせる。

 しかしヒドラたちもまだまだ炎を吐いていてその火事はなかなか消えない。


 と、他の場所でも森が燃え始めた!!



 「どう言う事ですの!? 他の場所からも火が!?」


 「主様、ダークエルフです! ダークエルフたちが油瓶を使って炎を広げています!!」


 驚いているあたしにコクがそう告げる。

 ダークエルフまで動いている!?



 「ふっふっふっふっふっ、このままこんな面倒な森など燃え尽きてしまえばいいのだ! ベスよどんどんやりなさい! そうだ、燃え跡には『育乳教』の神殿を建てましょう! ここを拠点に一気にメジャーデビューですよ!!」



 着ぐるみ姿のまま高笑いをしているボーンズ神父。

 しかし今は相手をしている暇はない!



 あれだけの大雨だというのに油瓶のせいでなかなか消火が出来ない。

 しかもその炎はどんどんと広がっている。


 「水の精霊よ、手伝って!!」


 シェルも消火の為に水の精霊を呼び出して火消しをして行く。

 しかしダークエルフたちのせいで火はまだまだ燃え広がっていく。




 「ベルトバッツよ! ダークエルフ共を始末せよ!!」


 「はっ! 黒龍様!!」


 コクがベルトバッツさんたちに指示する。

 とたんに沢山の影が飛び散り見えにくい所で剣を交える音が始まる。




 「畜生でいやがります! 火消しは苦手でいやがります!!」


 「致し方無い、燃え移った木を切り倒すぞクロエ!」


 クロエさんとクロさんは燃え盛る木々をなぎ倒し始めた。

 これで更に燃え広がる事は無いだろう。




 「【氷結槍】アイススピア!」



 あたしは【氷の矢】よりずっと強力な【氷結槍】の魔法で大量の氷の槍を作って燃え盛る炎にぶつける。

 これなら周りの水分も含め一瞬で凍りつけさせるので炎の勢いをかなり弱められる。




 「くそっ! ヒドラの数がまた増えた! 主よ消火は任せた!!」


 近くでヒドラを退治していたショーゴさんはまたまた新たに現れたヒドラにとびかかる。

 イオマも水生成魔法を使って残り火をどんどん消していく。


 しかしなかなか消火が終わらない。





 「ふははははははっ! 燃えろぉ、燃えろぉ!!」



 

 ボーンズ神父の笑い声が無茶苦茶腹立たしい!

 あたしがボーンズ神父を睨んだその時だった!



 ひゅんっ!


 

 とすっ!




 「はい?」



 思わずボーンズ神父は笑いを止め変な声を出す。

 ボーンズ神父の眉間に矢が刺さりそのまま倒れて動かなくなった。


 

 「ボーンズ神父!! あ、あなたぁ!!」


 倒れる着ぐるみ姿のボーンズ神父にダークエルフの女性が駆け寄る。

 しかしボーンズ神父は半笑いの表情のまま白目をむいて動かない。




 「大火事なっているというので見に来てみればダークエルフがこの地に迷い込んだか? エルハイミよ、そいつが諸悪の根源なのだろう?」



 そう言って木の陰から一人のエルフの戦士が出てきた。

 あたしの名前を呼んだその戦士のエルフを見る。



 「ソルガさん!!」



 


 そこには知った顔のエルフの戦士ソルガさんが立っていたのだった。

  

 

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