第338話12-26森の入り口
12-26森の入り口
「うん? 森の香りがしてきたわね」
シェルが鼻をひくひくさせながらあたしの横に来た。
どうやら「迷いの森」が近づいてきたようだ。
「うう、やっと着きやがりましたか? 本当に人間の移動は面倒でいやがります」
クロエさんがそう言って肩を落としながら大きくため息をついた。
「でも『迷いの森』にはもうすぐ着くんですよね? 森に着けば流石にもうああいう事は無いですよね?」
イオマはそう言って眉をひそめ上目遣いで今まで有った事を思い出している様だ。
つられてあたしも思い出ししてみる。
ある時は、持病のしゃくが~とか言う老婆だったり。
ある時は、この道通過百万人目だからプレゼントするとかだったり。
ある時は、「そこのお嬢ちゃんちょっと占って行かないかい?」とかだったり。
そしてまたある時は、直接アイドル勧誘だったりと。
一体どう言うつもりかは知らないけどこれって全部ボーンズ神父の回し者だった。
そして「至高の拷問」の犠牲者が増えて行ったのは言うまでもない。
「そう言えばお姉さまはエルフの村に入った事が有るんですよね? どんな感じの所なんですか?」
イオマがエルフの村に興味を持ってあたしに聞いて来た。
まあ普通の人間にとってエルフと言えば永遠の美貌と強力な精霊魔法の使い手、そして長寿の種族として羨望の眼差しで見られている。
誰でも一度はあこがれを持つだろう。
あたしだって最初はそうだった。
こいつに会うまでは。
「なに? イオマってあんな何の変化も無い退屈な村が気になるの? いいわ、じゃああたしが教えてあげる!」
シェルはあたしたちの間に割り込んできて勝手に話し始める。
それでもイオマにとっては物珍しい話ばかりでなんだかんだ言いながらきゃっきゃウフフしながら楽しそうに話している。
「太古のエルフ、メルですか‥‥‥ 正直苦手な相手です」
そんな中コクだけは浮かない顔でつぶやく。
「コクはメル長老とは知り合いなのですの?」
「あやつは一度に三体もの上級精霊を使ってくるのです。いかに我ら黒龍とは言え属性の違う上級精霊に一度に三体も来られてはたまったものではありません」
可愛らしく口をすぼめほほを膨らます。
あたしは思わず笑いそうになってしまった。
「でもそれは太古の話、今は争う理由が無いのではないですの?」
「それはそうですが‥‥‥ なんか負けたままってのが許せません‥‥‥」
コクはあたしにだけ聞こえる本音を言った。
「ぷっ!」
あたしはそんなコクに思わず吹き出してしまった。
「主様、ひどいです! もうっ! 後でおっぱいくださいね!!」
コクはかわいらしくぶんぶん手を振って怒っている。
あたしは「ごめんなさいですわ」と一応謝罪しておく。
と、そんなたわいない話をしていたら道の先に青々とした木々が見え始めた。
「あれが『迷いの森』ですわね」
あたしのその言葉にみんなはその先に見え始めた大森林を見る。
やっとここまで帰ってこれた。
ここまで既に二年以上が過ぎている。
思えばあんな遠い所まで飛ばされるとは思ってもみなかった。
いや、飛ばされるだけで済んだのはまだいい方だろう。
あの時はティアナさえ生き残ってくれれば良いと思った。
しかし助かったあたしはティアナと離れ、会いたい一心でここまで戻った。
あの森を抜け精霊都市ユグリアにさえ辿り着けば海の向こうのウェージム大陸、学園都市ボヘーミャまでゲートでひとっ飛びだ。
そうすればティアナに会える。
心なしかあたしの足取りは軽くなったのだった。
* * * * *
「うわー、なんて森なんですか!」
イオマが森の入り口で木々を見ている。
森の端に有るその木々は見上げるほど大きくそして太い。
そんな木々がまるで壁の様に森の端を埋め尽くしている。
「シェル、こちら側からの入り口って知っているのですの?」
「ああ、それなら森の木々に聞けばすぐ教えてくれるわよ? ちょっと待ってってね」
そう言ってシェルは目をつむり森の木々に話しかける。
「古くからの友よ、私は帰って来た。私の帰る扉を教えて」
すると木からぼうっとした光の玉たちが出てきてシェルの周りをくるくると廻る。
それだけ見ているとまるでおとぎ話に出てくるエルフの少女そのものだ。
あたしは思わずその美しい情景に見とれる。
ほんと、ああしていれば奇麗な少女なのになぁ‥‥‥
ふとそんな事をあたしは思う。
シェルはしばらくその光の玉と戯れるようにしていたが首をうんうんと縦に振って「ありがとう」と言った。
するとその光の玉はまた木々に戻って行ってしまった。
「うん、分かったけどこれから行ったら門限に間に合わないわ。残念だけど今日はこの近くで野営して明日の扉が開いている時間に行きましょう。 あたしは強制で門を開ける呪文知らないからね」
意外だったのはシェルが扉を開ける強制呪文を知らなかったことだ。
エルフのルルさんはその呪文使えたのにね?
でもそうなると仕方ない。
あたしたちは森の入り口近くで野営できそうな場所を探した。
* * * * *
焚火の炎があたしたちをオレンジ色に照らしている。
「はぁ、いよいよかぁ。エルハイミはもちろん、他のみんなもちゃんと協力してよね? もしお父さんたちが納得してくれなければ次に村を出れるのなんて何時になるか分からないんだからね」
「それはつまりライバルが一人減ると言う事ですよね?」
「なるほど、特にエルフは保守的ですから一度捕まれば数百年は出れないかもしれませんね?」
イオマとコクが何やら話し合っている。
そして二人は「にひひひっ」と笑いながらシェルを見る。
「ちょっと、本気!? やめてよね!!」
「どうしましょうかね~? ねえコクちゃん?」
「そうですね。シェルに何かしてもらえば気が変わるかもしれませんが。あ、シェルのおっぱいは要りませんよ?」
「こ、こらっ! あたしを脅すつもり!?」
シェルがそう言った途端イオマとコクは笑い出す。
一瞬ポカーンとしてからシェルも笑いだす。
つられてあたしも笑ってしまった。
さて、明日は扉を探してエルフの村にいよいよ行かなければならない。
あたしたちは早々に休む事になった。
* * *
「?」
その気配にあたしたちはいっせいに目覚める。
まだ周りは真っ暗で朝が訪れるにはまだまだ時間が有った。
しかしそれは急速にこちらに近づいている。
「主よ!」
「ええ、起きていますわ。この気配、何なのですの?」
毛布から抜け出しあたしたちは体制を整える。
「お姉さま、あれっ!」
イオマが指さす方を見れば大きな象の様な物からうねうねと数本何かがうごめいていた。
「明かりよ!」
あたしは明かりの魔法を使ってそれを照らし出す。
するとそこに通常より大きなヒドラがいたのだった。
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