第334話12-22乱入
12-22乱入
「つまりはこれはジュメルの仕業だったと言うのか!?」
ソラリマズ陛下はわなわなと震えながらその惨状の報告を聞いていた。
「はい、メル教の背後にジュメルが潜んでいたというのは紛れもない事実です。結果このような惨状を引き起こしてしまいました」
ネミルさんはそう言って深々と頭を下げる。
ソラリマズ陛下は無言のまま下を向いた。
あたしたちはあの後騎士団長の協力の元この惨状の後処理とメル教に関わる全ての関係者とその施設の差し押さえをした。
しかし予想通り既にもぬけの殻、信者で残っていたものはジュメルとは関係の無い犠牲者たちばかりであった。
「たまたまアイテムを身につけていなかった幹部も捕らえましたが当人は地元の者でジュメルとは全く関わり合いの無い者でした。彼からは事情を聞きだしますが大した情報は得られないでしょう」
ネミルさんはそう言ってもう一度頭を下げる。
と、ソラリマズ陛下が椅子の肘置きを叩く。
「なんと言う事だ! メル教祖がジュメルと結託していたとは! ネミル! なにがなんでも奴を捕まえよ! 皆の者、メル教を徹底的に調べジュメルに関わる者は全てひっとらえよ! よいな!?」
「「「はっ!」」」
この場にいる全ての家臣たちは王の命令を聞きさっそく行動に出る。
「エルハイミ殿、済まぬが後で私の所へ来てはもらえないか? ネミルも一緒にな‥‥‥」
「わかりました、ソラリマズ陛下」
「では陛下後程ですわ」
あたしたちはそう言ってこの謁見の間を後にする。
* * *
「ネミルさん、どうしても先に聞かなければならない事が有りますわ。ネミルさんはボーンズ神父をご存じでしたの?」
「エルハイミさん、お恥ずかしい話ですがその通りです。彼は二年ほど前にこのスィーフに出来た新興宗教の神父でした。その時名をカルシ=ウムと名乗っていました」
二年前?
それってこっちでジュリ教が騒ぎ起こしていた後位?
するとそんなに長期にわたってこの地域に潜伏していたのか?
「そもそもカルシ神父は小さな宗教団体を切り盛りしていたのですが教祖だった女性が一年くらい前に『普通の女の子に戻ります!』と宣言してその団体は解散してしまったのです。しかし彼はその後も教会を切り盛りして地域密着型の活動もこなし人当たりの良さから街でもそこそこ安定して教会運営を行っていたのでいた」
そしてネミルさんはあたしを見る。
「言い訳にしかならないけど当時私も前任の国王が亡くなって精神的にだいぶやられていました。気を晴らすためと街の状況を見る為にたまに城下町の酒場に足を運んでいたのです。そこでたまたま彼に出会い、そして意気投合してしまったのです。今回の『育乳教』の発想も彼の考えがベースだったのです」
「ジュメルの神父たちはみな人当たりが良いのですわ。そうして私たちの警戒心を解く。以前私たちもヨハネス神父と言う十二使徒の一人と行動を共にしたことが有りましたわ。まさか彼がジュメルだとは、十二使徒だとは思いもしませんでしたわ。しかしジュメルとはそう言う連中ですわ。私たちはそんな連中と戦っていかなければならないのですわ」
あたしのその真剣な物言いにネミルさんは目を伏せふっと苦笑いをした。
「エルハイミさん、やはり貴女は英雄に成れる方だ。あなたの強さに敬意を表します」
そう言ってあたしたちをあの小部屋へと導いていった。
* * * * *
小部屋にいたあたしたちはソラリマズ陛下が来るのを待っていた。
しばらく待っていたら陛下がやって来た。
ソラリマズ陛下は苦虫をかみつぶしたような表情のまま席に黙って座った。
そして重々しくその口を開いた。
「エルハイミ殿、我が国の見苦しい恥をお見せした。どうか連合にはよしなに願います。それとこの度の協力に感謝いたしますぞ。調査に参られたにもかかわらず我が国の窮地に助力いただき感謝しますぞ」
そう言って深々と頭をあたしに下げてきた。
「陛下、おやめくださいですわ。私は務めを果たしたまで。調査以外にもジュメルが関わるなら協力は惜しみませんわ」
あたしにそう言われソラリマズ陛下はやっと頭をあげてくれた。
「エルハイミ殿にそう言っていただけると救われますぞ。しかし、よくぞメル教がジュメルとかかわっていたと見破られましたな」
「それはネミルさん含む宮廷魔術師のイリナさんたちのおかげですわ。彼女たちの情報が無ければ私たちも動けませんでしたもの。陛下は優秀な家臣をお持ちなのですわ」
あたしがそう言うとネミルさんは優しく微笑んでくれた。
ソラリマズ陛下もネミルさんを見てやれやれという感じの苦笑をする。
「幼き頃よりあなたにはいろいろ指導してもらった。ネミル、今後も宜しく頼むぞ」
「でしたら陛下はまず女性についてもう少し慎みを持たれる事をお勧めします。国王と言う立場もお忘れなく」
苦笑をしながら「分かっている」などと言っているけどネミルさんがそばにいればもう大丈夫だろう。
「しかしエルハイミ殿、あなたへの気持ちは本当ですぞ」
いきなりソラリマズ陛下はあたしにその話を振って来た。
「陛下、私にはまだまだやらなければならない事がございますわ。お申し出はうれしいですが私にはそれをやらないうちに一所に留まる事は出来ませんの」
そうあたしがはっきりと断りを入れるとソラリマズ陛下はそれでも何か言おうとした。
「そうですよ、エルハイミさんたちはこれから私と新たなエンターテイメントをこの世に広めるのですから!」
その声にあたしは驚き声のした方を見る。
すると赤い眼鏡ぶちの大臣服を着た男がいた。
「ボーンズ神父!」
あたしが驚きの声をあげると他のみんなはきょろきょろとボーンズ神父を探す。
いや、あたしの目の前だってば!
メガネなのっ!?
やっぱりメガネのせいなのっ!!!?
「ふふふっ、エルハイミさんも何をなすべきか自覚がおありのようで安心しました。そうです、この世にあなたたちを待っている者が沢山いるのです。さあ私がプロデュースしてあげます。あなたたちは百年に一度の逸材、きっとビッグに成れますよ!」
そう言って両手を広げ立ち上がりながら黒ぶちメガネに変える。
「ぼ、ボーンズ神父! いつの間に!?」
「なにっ? こ奴がボーンズ神父か!?」
ネミルさん、だからさっきからあたしの前にいたんだってば!
陛下も自分の家臣の顔くらい覚えようよ、ここの小部屋って重要な人物しか入れないのでしょう!?
「ボーンズ神父、一体どう言うつもりですの? わざわざ私たちの前に現れるなんて!」
「何を言うのです? さっきも言いましたでしょう? 私があなたたち『育乳教』をプロデュースして更に大きく、更に有名に、そして全世界白黒歌合戦にノミネートさせるのですよ! ああ、あなたたちを追うファンや信者たちの熱い応援、すべての者を魅了する歌声! まさしくエンターテイメント! 私はずっとあなたたちの様な素晴らしい素質の者たちを探していたのですよ!!」
うっとりとそして情熱的に語るボーンズ神父。
あたしは頬に一筋の汗を流しながら用心深く彼を見る。
「おふざけはそこまでですわ。ジュメルの十二使徒のくせにずいぶんと私たちを侮っていますわね? 一体何が目的ですの!? ジュメルは何を企んでいますの!」
するとボーンズ神父は心底意外そうな顔をしてあたしを見る。
「エルハイミさん、私は貴女は賢い女性だと思っていたのですが? 先ほども言いました、私の目的はあなたたちをビッグにする事ですよ? 確かに私はジュメルの十二使徒の一人です。しかしそれ以前に私自身は自分のやりたい事をやると言う、ジュリ様の何事にも立ち向かえという教えに忠実に従っているのですよ? ジュメルの他の幹部が何かをやろうとしているようですが、私は私のやりたい事の方が優先されているのですよ?」
へっ?
だってスィーフにメル教を広めこの国を乗っ取ろうとしたんじゃ‥‥‥
「で、ではなぜメル教などと?」
「ああ、巨乳教祖でビックになれるんじゃないかと思ったのですがやはり男性信者だけでは限界が有りました。そこへ来るとあなたたち『育乳教』は女性信者も加えられ絶大な支持も受けられる。まさしく私の理想なのですよ!」
「で、ではメル教祖は? このスィーフを乗っ取るつもりではなかったのですの!?」
饒舌なボーンズ神父はもう一度心底意外そうな顔をする。
「ですから巨乳教祖でビッグになろうと思ったのですがやはり無理でした。それに私は世界を狙っているのですよ? このスィーフだけで終わるつもりはありませんよ?」
なんじゃそりゃ!?
本気でジュメルの活動とは無関係!?
あんた十二使徒のくせになにやってんのよっ!!!?
「まあ、今日は挨拶ですよ、エルハイミさん。私は必ずあなたたちを手に入れて見せますよ? そして一緒にビッグになりましょう!」
そう言って帰還魔晶石を取り出し発動させる。
「あっ! 待ちなさいですわ!!」
あたしはとっさに雷撃の魔術を使うが僅差でボーンズ神父の姿は消えてしまった。
あたしはその消えた後の空間を睨めつけるのだった。
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