第333話12-21至高の趣味

 12-21至高の趣味



 「あなたは一体何者なのですの!?」



 あたしの誰何にその眼鏡の男、ボーンズ神父と思われる人物は肩で笑う。

 

 「ふっふっふっふっ、これは失礼した。あなたとはお初にお目にかかるのでしたな、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンさん」


 そう言って懐から黒ぶちのメガネを取り出す。

 そして今かけているメガネを取り外し懐から取り出した眼鏡をつける。



 『ああっ! あなたボーンズ神父だったの!?』



 メル教祖が驚きの声をあげる。

 しかし驚きの声をあげたのはメル教祖だけでは無かった!



 『なんですって!? 貴方がボーンズ神父だったのですか!?」



 何故かネミルさんも驚きの声をあげる。

 どう言う事よ?


 「ふっふっふっふっ、どうでしたかわたしの変装は? メル教祖もネミル宮廷魔術師も気が付かなかったでしょう?」


 

 どう言う事?

 メガネを取り換えただけだよね??



 『ま、まさかあなたがボーンズ神父だったとは‥‥‥ 茶色のメガネぶちで全く別人にしか見えず気が付かなかった‥‥‥ まさかこの計画の相談相手の神父様がジュリ教、いえ、ジュメルの者だったとは!!』


 『どう言う事よ、ボーンズ神父!? 変装して近くにいたなら連絡位よこしなさいよ! 全くわからなかったわ!!』



 メガネかっ!?

 メガネなのかっ!!!?



 なにそれ!

 この世界ってメガネのぶちの色変っただけで人物特定できなくなるの!?

 


 「お、恐ろしいですね、お姉さま。ジュメルってあそこまで高度な変装が出来るのですか!?」


 「すごいわね、全く別人じゃないの」


 「人間の区別なんてよくわからないでいやがりますが、確かにあそこまで変わられては私たちでも見破れないでいやがります」


 イオマもシェルもクロエさんまでもが驚いている!?



 こっちもかいっ!!!?



 あたしは心底頭痛がしてきたがボーンズ神父と対峙して指をさす。


 「ボーンズ神父、あなたが何を企んでいるかは分かりませんがこれ以上ジュメルの暗躍はさせませんわ!!」


 するとボーンズ神父は心底不思議そうな顔をする。


 「はっ? 暗躍ですと? 私はただこう言った民衆が好むアイドルを育てプロデュースするのが大好きなだけなんですが?」


 そう言って両手を広げ高々に宣言する。



 「皆さん、時代はエンターテイメントを欲している! この四人の新興宗教は素晴らしい! これに私のプロデュースが加わり教えを広めればメル教など目ではなくなりますぞ! これなら白黒歌合戦全世界大会も目指せる! ただでかいだけの胸ではなく小ぶりやこれから育てるというそのシュチュエーション! 世の男性の心をわしづかみにします!! 『育乳教』これもまた良い響き! 男性だけでなく女性も参加できるまさしくビッグエンターテイメントぉ! ネミルさん、素晴らしいですよ! このまま人数増やしてメイン幹部四十八人くらいにまでしちゃいましょう!!」



 うっとりと声高々に宣言するこいつは一体何を言ってるのよ!?



 あたしの理解を超えるその物言いにメル教祖が物言いをする。


 『ちょっと、ボーンズ神父! これってスィーフを乗っ取るのが目的じゃなかったの!? あたしにここまでさせておいてどう言うつもりよ!? この後あたしはどうすればいいのよ!?』


 あー、パニクって計画しゃべっちゃったよ。

 おかげで残っていたメル教の信者たちの間に動揺のざわめきが巻き起こる。



 「あー、メルさんはもういいです。やっぱり二十五歳にもなるとでかい胸以外魅力無いですもん。ヨハネス神父の所に帰っていいですよ。私はネミルさんとエルハイミさんたちに用が有るので!」



 片手あげて「じゃっ!」みたいな動作をしてあたしたちの所へ来る。

 向こうでメル教祖がヒステリックに何か言っている。



 『冗談じゃないわ! このまま帰ったらヨハネス神父様の手助けにならないじゃない! くっそうぅ、こうなったらみんな、ボーンズ神父含めあの小生意気な小娘どももやっちゃいなさい!! 【精神浸食魔法】、【融合魔法】!!』



 メル教祖は手に持つ杖を振りかざし懐から魔晶石を取り出し高速詠唱をしながら呪文を完成させた。

 すると信者の人たちに異変が起こり始める。



 鉢巻をしてはっぴを着込んでペンライトもどきを持っていた人たちがペンライトを胸に持ってくると変身が始まった!?


 はっぴが体を覆い胸のペンライトが怪しく輝く。

 そして頭の鉢巻きは角の様になって人々の顔つきも狂暴な赤く光る双眼を残しマスクで覆われていく。


 所々人の部分を残してはいるがその姿は魔怪人に近い。



 『ふん、どうよジュメル技術開発部が作り上げた簡易魔怪人たちよ! 寿命は短いけどお前たち、あたしの為にその命燃やしてあいつらをやっておしまい!!』



 この広場にいた無数の男たちは信者のシンボルを身に着けていたもの全員が魔怪人になってしまった!

 そいつらが雪崩のようにこちらに襲いかかって来る。



 「ふう、残念ですねここは一旦下がりましょう。ベス、引き揚げます」



 ボーンズ神父がそう言うとすっとボーンズ神父の影からダークエルフの女性が現れた!


 「おいたもほどほどにしてください、転移します!」


 そう言って帰還魔晶石を取り出しボーンズ神父共々消える。


 「それでは皆さん、また会いましょう! アデュー!」


 早々に逃げるボーンズ神父たち。

 しかしこっちは協力してもらった女性たちや鞍替えした男性信者たちがいる。



 「【絶対防壁】! シェル眠りの魔法を! イオマは女性たちや男たちの避難を! クロエさん、殺しちゃだめですわよ!!」



 あたしは早口で指示を出す。

 しかし参った。

 もしかして融合魔法だからこの簡易魔怪人たちはもう人の姿に戻れないのではないか?


 【絶対防壁】に阻まれてこちらに襲いかかれない簡易魔怪人たちが群がっている。

 

 あたしは【感知魔法】と【鑑定魔法】を発動させこの簡易魔怪人を見る。

 するとあのペンライトを中心に人間の部分のマナや魔力をどんどん消費している?



 「眠りの精霊たちよ、手伝って!」


 「仕方ないでいやがります、骨折位は覚悟しやがれです!」



 シェルが前衛に眠りの魔法を、後続の大量にいる簡易魔怪人の真っただ中にクロエさんが飛び込み吹き飛ばしていく。


 「主よ!女性たちと鞍替えしてきた男どもは避難させ終わった! あの教祖をとらえるぞ!」


 「主様! クロ、あなたも行きなさい! 殺さない様に制圧するのです!」


 「はっ、黒龍様の意のままに!」


 どうやらイオマが避難誘導を上手くしてくれてショーゴさんたちも手伝ってくれたようだ。

 ショーゴさんは異形の兜の戦士に変身してこの簡易魔怪人たちを軽々飛び越えメル教祖に肉薄する。


 しかしそれを黒ずくめたちが囲み、側近の信者たちが魔怪人に変身する。


 「裏切り者までいたの!? ちっ、駒数減るけど仕方ない、【融合魔法】! 融合魔怪人よ裏切り者を始末しなさい!!」


 側近だった魔怪人たちはその数を半分にして融合魔怪人に成り飛び込んでくるショーゴさんを迎え撃つ。



 「ストライクモード!」



 空中でショーゴさんは黄金のプロテクターを装着し、なぎなたソードを背中から引き抜き空いた手でセブンソードの短刀を引き抜いて融合魔怪人に投げつける。

 そして着地と同時になぎなたソードを一閃させる。



 ざしゅっ!



 そのひと振りで簡単に融合魔怪人一体を切り伏せる。


 「なっ!? なによあの強さ! お前たち早くあいつをやっつけちゃいなさいよ!」


 メル教祖は黒ずくめまでつかってショーゴさんをどうにかしようとするが、そんなものでショーゴさんを止められるわけない。


 バッタバッタと黒ずくめは切り伏され融合魔怪人すらなぎ倒していく。



 「やばっ! お前たち時間を稼ぎなさい!!」



 残った融合魔怪人や黒ずくめをショーゴさんにぶつけている隙にメル教祖は帰還魔晶石を取り出し起動させた。



 ざしゅっ!



 「むっ、逃がしたか!?」


 最後の融合魔怪人を切り倒したショーゴさんは残念そうに言う。

 さて、そうすると問題はこの沢山いる簡易魔怪人たちだがクロさんとクロエさんのおかげで死なない程度に叩きのめされていた。

 見ればほとんどが動かなくなっている。


 「とりあえずは終わったようですわね?」


 「エルハイミさん!」


 ステージの上にはネミルさんやイリナさんたちが集まって来ていた。

 そして倒れている簡易魔怪人たちを見る。


 「これは一体‥‥‥」


 「ジュメルが扱う魔道の犠牲ですわ。先ほど調べましたが人間のマナと魔力を糧に短時間で融合を済ませ簡易魔怪人となってしまった者を元に戻す術は無いですわ。まさかあれらのアイテムにこんな秘密が隠されていたとはですわ‥‥‥」



 「がはっ!」


 「うぐぐぐぅぅ」


 「ぐ、ぐあぁぁぁあああぁっ!」



 しまった予想以上にマナと魔力の枯渇が早い!

 

 クロさんとクロエさんに倒されたこの簡易魔怪人たちはどんどんと干からびて行った。

 そしてほどなくこの場にいる簡易魔怪人たちは乾燥ミイラの様になって息絶えた‥‥‥



 「エ、エルハイミ! こいつ等!」


 「どうなっているのです、お姉さま!?」


 「エルハイミさん、この症状は‥‥‥」


 シェルやイオマが驚いているがネミルさんは気づいたようだ。


 「マナと魔力の枯渇、それはつまり死ですわ‥‥‥」




 やるせない気持ちであたしはこの広場の死屍累々を見るのだった。

  


  

 

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