第327話12-15ソラリマズの求婚
12-15ソラリマズの求婚
あたしはソラリマズ陛下のお誘いで夕食に来ていた。
一応あたしの従者と言う事も有り他のみんなや王族等もその席にはいた。
「エルハイミ殿はおいくつになられる?」
「はい陛下、十七歳になりますわ」
あたしは営業用の笑顔を顔に張り付け応対する。
何やらソラリマズ陛下は満足そうにワインを飲む。
そして‥‥‥
「十七と言えばまさしく花も恥じらう乙女。可憐極まりないエルハイミ殿にぴったりな言葉だ」
なんかまとわりつくような視線であたしをうっとりとみる。
ううっ、なんか気持ち悪い。
あたしは内心を悟られない様に笑顔を維持する。
しかしそんなあたしには全く気付かずソラリマズ陛下は続ける。
「エルハイミ殿は何故連合に参加されているのだ? あなたの様な可憐な乙女が危険な最前線に出るほどなのか?」
「陛下、私はジュメルによって苦しめられた人々を見てきましたのですわ。ジュメルは我が国ガレントだけでは無く遠い昔からひそかに各国の中枢に忍び寄りその国を蝕んできましたわ。そして今この時に表舞台に出てきて一気に世界を混沌へと貶めようとしていますわ。私は我が主、ガレントがティアナ姫と共にその野望を撃ち砕きこの世界に平穏を望むのですわ」
ここだけはあたしは本心を言う。
それは誰の前に出ても間違いのないあたしの気持ち。
平穏でやさしいこの世界をあんな連中壊されてたまるものですか!
真剣なあたしの眼差しを受けてソラリマズ陛下も真面目な顔をする。
そして頷いてとんでもない事を言い出す。
「やはり貴女は優しい女性だ。そしてその心も清らかで真っ直ぐだ。決めた、エルハイミ殿、私の妻になってくれないか?」
「はいっ!?」
「我が伴侶となって欲しいのだ」
どよっ!
そのソラリマズ陛下の言葉にこの場にいる者全員が一斉に驚きの声をあげる
「だ、駄目よエルハイミっ!」
「そうですよお姉さまっ!」
「大人しく聞いていれば我が主様に‥‥‥」
シェルもイオマもコクまでも浮足立ちあたしの所へ来ようとする。
しかし‥‥‥
「陛下、お戯れを申してはエルハイミさんが困ってしまいますよ? 昔からお教えしているでしょう? 女性を口説くには性急ではなりません。それは女性に嫌われる要因と言ったでしょう?」
静かに控えていたネミルさんはソラリマズ陛下の近くにすっと行きそう言う。
「わ、分かっておるわ! しかしだな、エルハイミ殿ほど可憐で純情でそして真っ直ぐな女性は初めてだ。私の理想の女性そのものでは無いか!!」
「おや? しかし陛下は先日メル教祖がかわいらしいと絶賛されていたのではないですか?」
おお?
流石ネミルさん、うまくメル教に話を持って行った!?
ネミルさんはあたしをちらっと見る。
それはアイコンタクト。
なるほど、ここで一気に陛下の気持ちをメル教から離すのか。
「あら、陛下は色々な女性にご興味が有るのですわね? やはり私の事もお戯れですわね?」
あたしはわざとそう言って大きくため息をつく。
それを見たソラリマズ陛下は大慌てで取り繕う。
「な、何を言うのだエルハイミ殿! 貴女へのこの気持ちは本物ですぞ! メ、メル教祖は相対的に世間一般の意見を述べたまでで‥‥‥」
「おや? その割にはメル教が困難なので保護までなされていたのは陛下のメル教祖殿への手厚いお気づきと思っておりましたが?」
「ネ、ネミル! 余計な事を言うで無い! エ、エルハイミ殿に余計に誤解をされてしまうではないか!!」
既に苦笑しか無いがこれはかなりうまく誘導が出来ている。
流石に年季の入った宮廷魔術師の取りまとめ。
それに話の感じではだいぶソラリマズ陛下には昔からいろいろ指南していたようでソラリマズ陛下もネミルさんには頭が上がらないポイ。
よし、あと一押しかな?
「陛下、そのお話は一旦保留させていただきますわ。私はまず自分の務めを果たさなければなりませんわ。明日よりネミルさんに教えてもらった近隣の遺跡調査を始めたいと思いますわ」
するとソラリマズ陛下は慌ててあたしに提案をしてくる。
「エルハイミ殿、近隣の遺跡でしたら私が案内しますぞ! この辺は安全とは言え遺跡には何があるか分かりませんからな。自国の安全を確保する為にもちょうど良い。明日より私はエルハイミ殿と遺跡を回るぞ!」
そう宣言した途端周りからはどよめきが上がるが「よいな!」という陛下の一言にみんな黙ってします。
あたしはちらっとネミルさんを見る。
ネミルさんは目だけ笑ってあたしに答える。
どうやら完全に当初の目的は果たせたようだ。
その後明日の予定を話して本日のお食事会はお開きとなった。
あたしたちはそのまま与えられた部屋へと行く。
* * * * *
「どうにか当初の目的は果たせたようですね。エルハイミさん、明日の遺跡調査は私も同行します」
ネミルさんはそう言って小さなメモ書きの紙を取り出す。
「イリナたちには調べさせていますが、メル教祖の取り巻きの誰がそのボーンズ神父と言うのはまだ分からないようですね。しかしこちらの事は向こうに伝わっていた様でメル教祖がソラリマズ陛下に面談を希望しているらしいですね」
どうやらむこうも動き出したようだ。
しかし、情報が少なすぎる。
あたしが悩んでいるとコクがあたしの袖を引く。
「主様、ここは私にお任せください。相手の情報を調べてこさせます。 ベルトバッツよ、ここへ」
すると部屋の扉がノックされる。
入室を許可するとベルトバッツさんが音も無く入ってきた。
「お呼びでござりますか、黒龍様」
初めて見るベルトバッツさんにネミルさんは驚く。
「エルハイミさん、こちらの方は何者なのですか?」
誰がどう見ても怪しいその髭面スキンヘッドの大男にネミルさんは眉をひそめる。
「そう言えばネミルさんには話していませんでしたわね? 彼は黒龍に仕えるローグの民、バルトバッツさんですわ」
「黒龍!? ローグの民!!!? まさか、本物なのですか!?」
ネミルさんはその眼を大きく開き驚いている。
するとコクはそのぺたんこの胸を張ってここぞとばかりに自己紹介をする。
「人間の魔術師よ、我は黒龍。この者は違いなく我が配下のローグ者だ」
えっへん!
なんかそのしぐさがかわいらしい。
あたしは思わずほっこりとみているけど言われたネミルさんはそれ所じゃ無い。
「伝説の黒龍に恐怖のローグの民とは‥‥‥ エルハイミさん、これは一体どう言う事ですか? まさかスィーフを‥‥‥」
あたしは何やら誤解が生じそうなのでネミルさんには今まで有った事をかいつまんで話した。
* * *
「そんな事が有ったのですか‥‥‥ やはり英雄ユカ・コバヤシが認めた者、エルハイミさんは英雄だったのですね?」
「いえ、私はそんな大そうな者ではありませんわ。私的には私は一刻でも早く愛しいティアナ姫の下に戻りたいのと、この世界の平穏を望むだけですわ」
ネミルさんはあたしのその言葉にやさしく微笑んで軽くうなずく。
「あなたがどう思っているかは別として、貴女はやはり英雄の器が有るのですよ。やはりイリナたちをボヘーミャに留学させたのは正解でした。人のつながりは運を運びます。あなたのような人に会えたことを女神に感謝します」
ネミルさんはそう言ってあたしに手を差し出す。
「これから先どれだけ長生き出来るかは分かりませんが世界の終焉だけは見たくないものです。改めてエルハイミさん、私たちに協力をしてください」
あたしはネミルさんの手を握り返す。
「ええ、ジュメルの思い通りにはさせませんわよ!」
あたしのその答えにネミルさんは優しく微笑むのだった。
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