第328話12-16近郊の遺跡

 12-16近郊の遺跡



 あたしたちはソラリマズ陛下の気を引くために翌日から近郊の遺跡の調査を始めた。



 「多いとは聞きましたがまさか近場だけでもこんなにもあるなんて思いもしませんでしたわ」


 あたしはネミルさんにこのスィーフから一日以内の距離だけでも十個は古代遺跡があると聞き驚いていた。

 しかも水没やリザードマンの領域、場所によっては水竜の狩場なども有り危険な所が多くほとんど手つかずの物もあるらしい。


 ただそれらの遺跡はどんな目的の物だったかはこのスィーフの古くからある記録に記されているのでその重要性の低いものは誰も見向きもしない物もあった。



 「しかしジュメルがこの地域に目を付けるだけの理由は十分に有りますわ。ドワーフの時と同じく魔法王ガーベルが『女神の杖』を預けた可能性はありますものね。ただ、その杖は多分私が回収したものでしょうけど」



 あたしは水竜がいたあの古代遺跡を思い出していた。


 

 あれだけの仕掛けをした遺跡はそうそう無い。

 そしてサージムの古代語なんてもので書き記された碑石は解読できなければただの謎の石で終わってしまう。

 たまたまコクがいてくれたおかげで解読できただろうけど読めなければ意味が無い。



 「お姉さま、そうするとこの地域にはもう『女神の杖』は無いと言う事ですか?」


 「ええ、多分そうだと思いますわ。でも一応はそれらしい物が有ればちゃんと調べなければですわ」



 イオマにあたしはそう答えてからネミルさんを見る。


 「そうですね、伝承には『女神の杖』にかかわるものはありませんから秘匿されたものなのでしょうね。我々スィーフでは無くリザードマンの領地の遺跡に封印されていた所を見ますと」


 ネミルさんはそう言って「もしかしたらその神殿に訪れた者と言うのもジュメルの関係者だったのかもしれませんね」と付け加えた。


 ジュメル自体は既にこの地域でかなり前から活動を行っていたし、リザードマンの領域にジュリ教の神殿を築いたのもジュメルの仕業だろう。

 しかしジュメルはこの地域で「女神の杖」は見つけていない。

 だからジュリ教が撤退した後も何らかの方法でこの地域にとどまり「女神の杖」を探さなければならなかったのだろう。



 ただ気になるのは各国で一斉に新興宗教、しかも教祖がみんな美人で巨乳の若い女性だと言う事だ。

 あの後ネミルさんにも調べてもらったがどうやら他の国に発生した新興宗教も同じような信者の集まりが日々拡大しているらしい。



 全く世の男どもはっ!



 あたしはあきれながらもそれでも急速に拡大する新興宗教に危機感を感じた。

 他の国の上層部は流石にそんな教祖様に惑わされないだろう、多分‥‥‥




 「こちらにおられたか、エルハイミ殿」


 見るとソラリマズ陛下がにこやかにこちらにやって来ていた。

 なんかバラの花まで持ってこっちに近寄って来るよ。


 「今日もお美しいな、エルハイミ殿。エルハイミ殿にと思って持って来た花もエルハイミ殿の前では色あせてしまうな」


 などと決め顔で言われても困るんですけど。

 あたしは営業の笑顔を顔に張り付かせ眉毛がひくひくしない様に注意する。



 「陛下、本日のお仕事はどうなさったのですか?」


 ネミルさんにそう言われたソラリマズ陛下はドヤ顔で言い切った。


 「ふん、そんなものは昨日のうちに徹夜で三日分終わらせたわ! さあエルハイミ殿、どの遺跡から調査を始めますかな? 私が同行しますゆえ安心召され。はっはっはっはっはっ!」


 既に親切の押し売り状態になっているけど流石に国王陛下の申し出を断るわけにもいかない。

 あたしはネミルさんと顔を合わせてから話し始める。


 「ソラリマズ陛下、ただいま近郊の遺跡についてネミルさんと古文書や記録を確認していますわ。その中で可能性の高いものから探さなければ流石に近郊だけでも十か所も有りますもの。すべて調査するなんて何年もかかってしまいますわ」


 「良いでは無いか、そのまま私の妻になればずっとここにいられますぞ!」


 ドヤ顔を再度しながら白い歯をきらめかせる。

 

 いやいや、それは無いって。

 他の女性なら正しく玉の輿だろうけどあたしにはティアナと言う心に決めた人がいるんだから。

 しかしここは嫌でも気を引かなくてはならない。


 「嫌ですわ、陛下は私にずっとここに居させるつもりですの?」


 するとソラリマズ陛下は ぱぁっ と明るい顔になりバラの花をネミルさんに持たせあたしの手を取る。

 そして手の甲に口づけをして「勿論です、ずっと私のそばにいて欲しい」などとキメ顔で言う。

 いい加減嫌になってきたあたしだがそこへ意外な人がやって来た。



 「陛下、こちらでしたか? もう、陛下ったら私とお話したいっておっしゃっていたのにどうされたのですか?」



 見ればソラリマズ陛下の側近に連れられたメル教祖がやって来ていた。



 「げっ! エルハイミっ!? ‥‥‥さん」



 あからさまのあたしを警戒している様子だ。

 しかし保護下とは言え王城の中を側近に連れられて動けるとは。

 陛下の側近には既に取り込まれた者もいるのかもしれない。



 「うっ、メ、メル教祖殿ではないか‥‥‥ ど、どうしたのだ?」


 「あ、陛下。実は我がメル教の教えを更に広めるためにご相談が有ったのですが、よろしいでしょうか?」



 ソラリマズ陛下は「あ~、それはぁ~」とか言っている。

 ふむ、ここは揺さぶりをかけておくか。



 「ソラリマズ陛下、陛下はお忙しいようですわね? どうぞ私などにはお気遣いなくですわ。私はネミルさんと先程気になった遺跡の調査に参ります。陛下はメル教祖様とお二人でゆっくりとお話なさいませ!」


 わざと最後の方を強く言ってツンと明後日の方を向いて「ネミルさん、行きましょうですわ」と言ってこの場を離れる。



 後ろで何やらもめているようだがあたしはソラリマズ陛下に分からない様にこっそり笑う。



 「エルハイミ、だいぶ性格悪くなったんじゃない?」

 

 「お姉さまが魔性の女になってしまった‥‥‥」


 「人聞きの悪いこと言わないでですわ! これも作戦のうちですわよ!」



 あたしは少し膨れてそう言う。


 「でもエルハイミさんのおかげで陛下が釣れたようですよ? ほら、慌ててこちらに来ましたよ」



 見るとソラリマズ陛下は慌ててこちらにやって来た。


 「エ、エルハイミ殿! 私も行きますぞ!!」




 あたしは振り返りサービスの笑顔を見せるのだった。

 

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