第317話12-5水竜を操るもの
12-5水竜を操るもの
沼地の島はそれほど大きなものでは無かった。
「しかし、よくこんな所に遺跡など作ったものだな」
ショーゴさんが入り口近くの蔦や木々を切っていいる。
既に誰かが入って行った形跡があるものの、この人数が入るには流石に狭い。
ショーゴさんが切り払った植物をどかして中に入って行く。
「ふむ、確かに通常の竜ではこの波長は耐えがたいですね」
「どう言う事ですの、コク?」
コクはわずかに眉間にしわを寄せていた。
「どうやら精神支配の波長が出ているようです。特に力ある者には影響が出やすいようですが、我ら黒龍レベルには通用しません」
ふんっと可愛らしく言い切る。
あたしたちには何も感じないところを見ると独特な波長なのだろう。
「エルハイミ、あれ見て」
光の精霊を出しながらシェルが指さすところを見ると大きな石碑があった。
「おお、あれです。我々には何が書いてあるかさっぱりですが」
ガルイさんは石板を指さしていた。
そう言えばガルイさんには精神支配の波長の影響はないみたいね?
見れば大きさ二メートル近い石碑に何かの文字がびっしりと書かれている。
あたしはさっそくそれを見るがこれって‥‥‥
「どうやら古代文字のようですわね? 古代コモン語では無いようですが‥‥‥」
「主様、これは古代サージム大陸の文字のようですね。どれどれ‥‥‥」
コクがそう言って石板を読み始める。
『我らサージムの民は魔法王ガーベルに感謝し、ここに神殿を築き彼より女神の杖を預かり受ける。魔法王ガーベルの意向のよりこの杖を欲するものは試練を受け、認められなければこの杖を引き渡す事叶わず。欲するものはその試練を受けよ。認められれば女神の杖はその者に渡すことを我らサージムの民も認めるもの也』
あたしは思わずコクを見る。
「コクこれって、女神の杖ですの!?」
「はい、間違いないようですね、主様」
そう言ってコクはまたその続きを読む。
『試練を受けし者、祭壇にてその力示すがよい。その力真なるモノなれば試練の道は開けん』
続きを読み終わったコクはこの部屋を見渡す。
するとある一点でその動きを止める。
「どうやらあそこのようですね? 主様行ってみましょう」
あたしはコクが見ているその一点を見てみる。
壁際に近い所に数段高くなっていて、祭壇の様な所がある。
どこからか日の光が入って来ているようでその祭壇だけは光が当たっていた。
「特に変な仕掛けがあるわけでは無いようですわね?」
あたしは同調して感知魔法を使って様子を見る。
しかし特に異常な感じは無い様だ。
「エルハイミ、なんかものすごい精霊力を感じる。祭壇の下の方!」
シェルは何かを感じ取った様だ。
祭壇の下の方を指さす。
「まずはその力を示せでしたわね? 何をすればいいのでしょうですわ?」
あたしはコクを見るがコクは首を横にふる。
「具体的に何をしろとはかかれていませんでした。祭壇にて魔力の放出でもしてみてはいかがでしょう?」
古代魔法王国の示す力だ、多分コクの言う通りだろう。
あたしは祭壇に上がって魔力を高める。
すると祭壇後ろの壁に魔方陣が現れた。
「お姉さま、魔法陣が!」
「この魔法陣は‥‥‥ 転移魔法ですの?」
その魔法陣の形状と刻まれている内容はどこかへ転移する魔法陣のようだった。
となればその魔法陣に魔力を注ぎ込み転移すれば「女神の杖」の場所まで行けるのか?
「待て主よ、俺も行くぞ」
「あたしを置いて行く事は無いでしょうね?」
「お姉さま、もちろんあたしも行きます!」
「主様、私もついて行きますよ?」
「黒龍様、主様が行かれるなら当然私もついて行きますぞ」
「当然でいやがります! 黒龍様と主様を二人きりにするなんて危険すぎるでいやがります!」
なんだかんだ言ってみんなついて来るつもりのようだ。
「それでは私はここで待ちますよ。皆さんお気を付けて」
一人ガルイさんだけは祭壇に上らず手を振って待っている様だ。
もっとも、既に祭壇の上は定員オーバー気味ではあるけど。
「と、とにかく行ってきますわ、ガルイさん!」
あたしはそう言って魔力を魔法陣に込めて発動させるのだった。
* * * * *
転移先は薄暗いじめじめした場所だった。
どうにか全員を転送させたあたしは転移先を見渡す。
すると出ました、大ダコの化け物!
どうやらガーディアンのようだ。
お約束ですねぇ~
「ふっ、大ダコ如きすぐに片づけさせます、主様」
「そうよコク! ああ言ったのは早めに片付けて! じゃないといろいろ問題になるわ! 特に乙女の方面で!!」
なんかシェルが怒っているけど、その隙にクロさんとショーゴさんが大ダコに切り込んでいく。
そしてあっさりとその脅威を駆逐してしまった。
「‥‥‥なんか物足りないような気もしますが、お姉さま?」
「これでいいのですわ!」
あたしはびっと人差し指を立ててイオマに言う。
さて、面倒事は片付いたから部屋の探索を‥‥‥
「エルハイミ! 気を付けてっ!!」
シェルの言葉と同時にあたしは危険を察知して【絶対防壁】を展開していた!
そして飛び来る水刃を防壁で遮った。
「エルハイミ、これ面倒よ。水の上級精霊が怒り狂っているわ!」
シェルの言葉に水神が飛んで来た方を見ると水の上級精霊セイレーンが両手を振ってまたまた水神の刃を飛ばしてきた。
「【絶対防壁】!」
しかしあたしの防壁でそれらはことごとく弾かれる。
「主様!」
コクが大きく息を吸ってセイレーンにドラゴンブレスを吐き出す。
いくら幼竜ブレスとは言え黒龍のブレス、セイレーンはひるんだ。
「むんっ!」
その隙にショーゴさんがなぎなたソードでセイレーンに切り込んだ。
なぎなたソードに切られたセイレーンはとうとう霧散して消えてしまった。
「まったく、水竜と言い、大ダコと言い、そしてセイレーンまで一体どうなっているのよ!?」
シェルが怒っているけど多分あれのせいだろう。
あたしは無言でその杖の前まで行く。
そこには他の杖と同じく宙に浮いて輝いた「女神の杖」が有った。
あたしはその杖に手をかざす。
するとまたあの声が聞こえてくる。
―― 汝、何故この杖を欲するか? ――
魔法王ガーベルの声だ。
あたしはあの時と同じく応える。
「私はこの世の混乱を引き起こさないためにこの杖を欲しますわ!」
あたしがそう答えるとガーベルの声はまたあたしに質問をする。
―― 汝、この杖を持つに値するや? ――
「我が名はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン! この世の平和を願う者! その杖、必ずや我が元にて使いこなして見せますわ!!」
―― ならば試そう、杖を握るがいい ――
そう言われてあたしはその杖を掴んだ。
* * *
「ふう、これで三本目ですわ」
あたしは「女神の杖」を手にしていた。
この杖は水の女神ノーシィー様の物だった。
そしてこの杖をあたしが手にした途端コクたちが感じていたあの波動が無くなったらしい。
どうやら少し前に入ってきた何者かたちが試練に失敗して杖の防御の為変なものが発動していたようだ。
つまり、もう水竜も大ダコも水の上級精霊も操られ襲ってくることは無くなるのだ。
「すごいです、お姉さま! 女神様の杖がもう三本も手に入りましたね!」
良いのか悪いのかは別として、これで更にジュメルの目的は遠退くわけだ。
あたしは皆をまとめてまた転移魔法陣の前に行く。
そして元の場所に戻る為その魔法陣を起動させるのだった。
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