第314話12-2リザードマン

 12-2リザードマン



 あたしたちに近づいて来る何かは人ではないそうだ。

 既にベルトバッツさんたちが接近を阻止するために動き出している。


 「主様、どうやらベルトバッツたちが接触したようです。ですが、戦闘は始まっていないようですね?」


 いったい何と接触したのだろう?

 あたしがそう思っているといきなりコクの近くにベルトバッツさんが現れた。



 「うわっっきゃぁああぁっ! べ、ベルトバッツさん!?」



 「む? これは姉御、失礼をしたでござる。驚かせてしまったようでござるな。それより黒龍様、やって来た者はリザードマンのようでござる。我々にはその姿形がトカゲ人のようにも見えるでござるが間違いないでしょうか?」



 そう言えばベルトバッツさんたちって今まであの迷宮でずっと住んできたんだよね?

 見るモノ全て初めてのはずだけど?



 「クロエに渡した『知識の水晶』で良く学びました。その容姿であれば間違いなくリザードマンでしょう。彼らには言葉が通じます。なんと言ってきましたか?」


 「はっ、何やら高貴な気配がしたので様子を見に来たと言っていたでござります」


  

 今まで浮世離れしていた分をそんなアイテムで補填していたのか?

 しかし、前から思っていたけどベルトバッツさんたち変わり過ぎ!

 どうなってんのよ?



 「ベルトバッツよ、主様の妨げになるのでは困ります。その者たちと会ってここを通してもらいましょう。ここは彼らの土地、厄介事は主様の手を煩わせます」


 「御意」


 そう言ってまたベルトバッツさんは姿を消す。

 あたしは今更ながらにコクに聞いてみる。


 「コク、ベルトバッツさんたちのあの変わりようは何なのですの? ローグの民はものすごく穏やかな人たちと思っていたのですのに、ですわ」


 「主様、彼らはその闘争心や気迫を今まで迷宮の胞子で押さえていたのです。私は当時女子供まで女神戦争で道連れにする必要は無いと思い残った者たちを地下神殿の近くに移り住ませました。しかしやはりと言うかその血はローグ特有でそのまま放置しておけば迷宮の生物がすべて死滅してしまいます。ですのであの胞子の植物でその闘争心や気迫を押さえていたのです」



 え?

 じゃあ今のベルトバッツさんたちが本当の姿!?

 しかしいくら何でもあそこまで能力が高いって同じ人族として納得がいかない!



 「しかし、あそこまで能力が高いとは思いませんでしたわ」


 「たまに様子を見に行っていましたが、鍛錬だけは続けていたようです。穏やかな暮らしの中でも伝統的な鍛錬は欠かさず行っていたようで肉体の限界をたびたび超え魂と肉体を完全に繋げる術を極めています」



 って、それって同調が出来ているって事!?

 しかも完全にと言う事はアンナさんたち以上、英雄にも引けを取らないって事じゃない??



 あたしがコクの話を聞きながら驚いているとシェルたちがあたしを呼ぶ。


 「エルハイミ、お客さんよ」


 見るとベルトバッツさんたちに連れられて十数人のリザードマンたちが来ていた。

 そしてその中の一人、どうやらリーダー格のようなリザードマンが話しかけてきた。

 

 

 「おおおっ、その高貴な気は紛れもなく大竜様ですな? 人の姿をしていても分かります」



 「リザードマンたちよ、こちらに敵意は無い。そなたらのこの土地を通ることを許してはもらえないだろうか?」


 するとリザードマンたちは驚きざわざわと口々に話す。

 それをそのリーダー格が戒める。


 「もとよりこの道を通るだけであれば人族との約束で問題ございません。どうぞご自由にお通りくださいませ」


 「そうか、感謝する」


 するとまたまたリザードマンたちが騒ぐ。



 「御大はなんとお優しき大竜様でありますか! 我らトカゲにそのように言ってくださるとは。失礼ですがお名前をお聞きしてもよろしいですか?」



 「かまいません、我が名は黒龍。長き時を生きし太古の竜です」


 すると今度こそリザードマンたちは大きな声で驚きと歓喜の声をあげる。

 今度はリーダー格のリザードマンも喜んでいる。



 「なんと! 伝説の大竜様ではありませぬか!! これは女神のお導き、黒龍様、なにとぞわが一族にお力を貸していただけはしませぬか!?」



 その場にリザードマンたちは土下座を始めた。

 それを見てコクは困ったようにあたしを見る。


 うーん、早い所水上都市スィーフには行きたいけど、こんなことされたら無視はできない。

 仕方ないのであたしはコクに向かって頷く。


 「話だけは聞いても良いでしょう」


 コクがそう言うとリーダー格のリザードマンは大喜びで語り始めるのだった。



 * * *



 そのリザードマンのリーダーは名をガルイと言いこの湿地帯の警備をしている戦士長だそうだ。


 そしてガルイさんの言う事には二年くらい前のジュリ教神殿の争いで水上都市スィーフやリザードマンの国、ベンゲルは多大な痛手を被ったそうだ。



 あたしはそこで初めてジュリ教と連合軍の戦いについて知った。



 あの争いでジュリ教は巨人を持ち出したのだがその容姿が竜に近い事も有りリザードマンたちの間でも問題が起こった。

 リザードマンたちは女神戦争の折、戦いの女神ジュリ様についていた。

 なのでジュリ教を名乗る巨人は伝説の太古の竜だから言う事を聞くべきだという一派と人族があがめるジュリ様は偽物だと言って反発する一派との二分割を起こしてしまった。

 

 しかし巨人が紛い物のキメラでありジュリ教の後ろにジュメルが潜んでいたことを暴露されたジュリ教はリザードマンたちの怒りを買い連合軍と共に応援に駆け付けた女性の魔術師と共に打倒されたそうだ。



 応援の魔術師って、きっとアンナさんの事だろう。



 それに話を聞く限りこちらに回されていた巨人は試作体か何かのようであたしたちが戦ってきた巨人よりずっと弱かったようだ。

 何せ一回の戦闘で十五分くらいしか動けないようで吐き出す炎もあたしたちが知るそれから比べればかなり弱いものであったらしい。

 

 しかしそれでもかなりの被害を出しどうにかジュリ教を倒したがその後に別問題が起こったとの事。

 

 連合軍が撤収した後に何故か水の竜がこの沼地に住み着いたらしい。

 本来水竜は性格が穏やかなものが多く、沼地の食料は豊かで水竜の食料も十分なはずだった。

 


 だがこの水竜は違った。


 

 目に入るもの全てを憎しみ喰らい惨殺するのであった。

 リザードマンたちは困り果てた。



 そんなこんながここ一年近く起こっていたらしい。



 「と言う事に成ります。黒龍様、どうかその水竜と話をつけていただけませぬか?」


 「水竜ですか。我が眷属には属さないもののむやみに殺生を起こすのはよろしくありませんね。主様少しお時間をいただけますか? その若造にお灸を添えに行きたいのですが」


 まあ、ここまで身の上話をされれば嫌とは言えない。

 それに別の眷属でも流石にコクに言われれば少しはその水竜と言うのも身に沁みるだろう。

 あたしは仕方なくそれの了承をする。


 「おおっ! 黒龍様が口添えをしてくださる!! ありがとうございます!」


 ガルイさん含めそこにいたリザードマンたちは再びコクに感謝の土下座をした。





 そしてあたしたちはガルイさんの案内でリザードマンの国、ベンゲルへと向かうのであった。  

 

 

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