第311話11-22船出

 11-22船出



 「儂は此処までじゃ、エルハイミの嬢ちゃんよ、気を付けて行くがいい」



 オルスターさんはそう言ってあたしに銀で出来た髪飾りをくれる。

 

 「急ぎ作ったでな、こんな餞別しか渡せぬが受け取ってくれ」



 その髪飾りはシンプルなデザインであったが細部まで細かく作り込まれた品だった。



 「よいのですの、このようなもの頂いてですわ?」


 「ああ、イザンカからこっちずっと嬢ちゃんには世話になったからの。せめてもの礼だ、受け取っておくれ」


 そう言ってオルスターさんは優しい表情をする。

 あたしはさっそくその髪飾りを頭につけてみる。


 「うわっ、お姉さまそれ凄く似合ってます!」


 「あらほんと、エルハイミの髪の色に邪魔にならない感じでいいわね」


 イオマやシェルがそう言ってきゃいきゃいあたしの髪飾りを付けているのを見る。

 

 「流石にこういったモノはドワーフは得意ですね」


 「ふむ、確かに主によく似合っている」


 コクもショーゴさんもそう言ってくれる。


 「儂らはただ派手なものを作るわけではない。飾りはつけたその人に合うように作るのじゃよ」


 そうオルスターさんは言ってくれた。


 「ありがとうですわ、オルスターさん。それでは私たちは行きますわね。お元気で」


 「ああ、元気でな。またこちらに寄ることが有れば顔を出すがいい。歓迎してやるぞい」


 オルスターさんは愉快気に笑った。

 そして今いるこの港町の船着き場からあたしたちはサージム大陸へ向かう定期船に乗り込む。

 船は一週間もすればサージム大陸に着くそうだ。


 あたしたちは甲板から見送ってくれているオルスターさんを見る。

 船が出航して動き出してもオルスターさんはずっとあたしたちを見送ってくれている。


 あたしは大きくてを振るとオルスターさんも手を振り返してくれるのだった。



 * * * * *

 

  

 「そう言えばこの船ってサージム大陸のどこに着くの?」


 シェルが甲板の樽の上で弓の調整をしながらあたしに聞いて来た。

 確かサージム大陸の南の方だったと思う。


 「確かサージム大陸の南の方ですわ。近くには湿地帯があるところで確か水上都市スィーフが近いはずですわ」


 「そうかぁ、『迷いの森』の南か。エルフの村までだいぶあるわね」


 言われてみればそうである。

 水上都市スィーフに立ち寄ってから「迷いの森」を抜けるのが一番早い。

 精霊都市ユグリアに行くには森をぬけるのが早いのだが問題はその「迷いの森」である。

  

 あの森はエルフの結界がかかっており普通の人間が入ると必ず迷いそして森から排出される。

 どんなに目印をつけても必ず迷ってしまうらしい。

 だから森を迂回するルートが通常使われているらしいがそんな遠回りは出来ない。



 「シェルがいれば迷いの森は通り抜けられるのでしょうですわ?」


 「まあ、あたしがいれば確かに問題は無いだろうけど‥‥‥」



 シェルが浮かない顔をしている。

 なんだろ?



 「あー、ファイナス長老にも伝えておかなきゃだし、森を通るならきっと村の人にも見つかるよなぁ」


 「それが何か問題でもありますの?」


 シェルは弓をポーチにしまって大きく伸びをしてからあたしを見る。

 


 「エルハイミはあたしの味方よね?」


 「はい? 勿論ですわ」



 すると真剣な顔でシェルはあたしに話す。


 「じゃあ、エルフの村を通る時にあたしの実家に来てエルハイミが今のあたしの伴侶だって言ってもらいたいの!」



 はぁっ!?

 何ですとぉ!?



 「シェ、シェル? 私にはティアナと言う大事な人がいるのですわよ!?」


 「分かってる、だからお芝居でいいからお願い!」


 珍しくシェルはあたしを拝み倒している。


 「シェル、一体どういう事か説明してくださいですわ」


 するとシェルは渋々語りだした。



 もともとマーヤさんとの一件が有り、そしてエルフの村をあたしたち二人で救った事も有りシェルが村から出るには絶好のチャンスでもあった。


 しかしシェルの親御さんは大反対で、齢二百歳程度の若木が外界をふらふらするのは認められないと猛反対したそうだ。

 だが、メル長老がシェルに褒美を与えると言い出したのでシェルはここぞとばかり願いを伝えた。


 そしてシェルはあたしにくっついて外の世界で見聞を広めると言う事に成った。


 これには流石に親御さんもメル長老の手前反対できず、学園都市ボヘーミャにいるソルミナ教授のもとで面倒を見てもらう事で渋々同意した。


 しかし次に村に帰ってくる時はそうそうまた外界に行かせたくない事も有り親御さんは条件として次に村に帰った時は結婚相手を見つけエルフの村に縛り付けようとしていたらしい。



 「だから今の伴侶がエルハイミだって言えば結婚相手をあたしにあてがう事が出来なくなるし、あたしが生んだ『時の指輪』は伴侶であるエルハイミに渡したって言えるから離れ離れには出来なくなるわ!」


 「本当に生んだのですのっ!?」


 「前にも言ったじゃない、あたしの初めてだって!」


 あたしは思わず魂の同調をしてそのころのシェルの記憶を見た。



 あ‥‥‥

 ////


 ほ、本当に生んでるぅ!!!?



 「エルハイミ、今あたしが指輪産んでいる所見てるでしょ‥‥‥」


 シェルは赤くなりながらあたしを睨んでいる。

 あたしは思わず指輪がはめられている指をなでてしまった。



 「『時の指輪』はね伴侶になる為の証なの。だからその指輪を渡すって事はその人の妻になるって事なのよ‥‥‥」


 「えっ? じゃ、じゃあですわ!?」


 「あ、あたしはエルハイミの事ただの友達としか思ってないわよっ! で、でも普通の友達じゃないし、あたしの魂までエルハイミのモノにされちゃったから‥‥‥」


 赤くなりながらシェルはプイっと向こうを向いた。

 そして消え入りそうな声でこう言った。



 「ティアナがいるから待っていればいいと思っていた。友達でもゆっくり好きになって行けばいいと思っていた。だってエルハイミはあたしと同じ時を生きるから。一緒に大樹になるならその前に誰と一緒になっていても良い。最後にあたしと一緒になってくれれば良いと思った。だけど、今は違う。本気で好きになっちゃったんだから!」



 そう言っていきなりあたしに抱き着いてきて唇を重ねてくる。



 あたしは目を白黒させながらシェルに唇を奪われたまま動けなくなる。

 それは友情の軽いキスではない。

 濃厚なティアナとかわすキスと同じ。


 シェルのがあたしの中に入って来てあたしを求める。



 だ、駄目、ティアナっ!



 しかしシェルの香りも味もあまりにもあたしになじんでいた。

 それは遠い昔から知っていたような感じ。

 頭の片隅にはずっとティアナがいるのにあたしはシェルを受け入れそうになってしまう。


 でもシェルはふとあたしから離れた。


 

 キスの気持ちいい余韻にあたしは酔っている。



 「ごめん、エルハイミにはティアナがいたよね。今のは忘れて。でもあたしはずっと待っている。マーヤへの気持ちをエルハイミが超えてしまったから‥‥‥」


 そう言ってするりと風のようにどこかに行ってしまう。

 一人甲板に残されたあたしはしばらくぼ~っとしていた。




 ‥‥‥

 ‥‥‥‥‥‥


 ってぇ、え”え”え”え”えええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!!!?



 ど、どういう事よ!?

 シェ、シェルがあたしを!?

 なにっ?

 なにがおこったの!?



 思わず現実に引き戻されあたしはその場に頭を抱えてうずくまってしまった。



 シェルがあたしを好き?

 しかも友達としてではなく??


 あの濃厚なキスがシェルの全てを物語ってる。



 ―― 浮気 ――



 いきなりそんな言葉があたしの脳裏をかすめる。

 い、いや、そんなはずはない! 

 あたしの気持ちはティアナ一筋。

 そりゃぁシェルの事も友人として好きだけど、恋愛の好きじゃないはず!



 あたしがパニクっているとイオマがやってきた。


 「お姉さま、こんな所にいたんですね? ‥‥‥お姉さま?」


 あたしはイオマを見る。

 最近めっきり奇麗になってきたイオマ。

 イオマはあたしのこと好きと言ってくれている。


 そしてシェルも‥‥‥




 あたしは更に混乱するのだった。


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