第312話11-23サージム大陸


 暗い船室のイオマの部屋にあたしはいた。


 

 「あふぅっ、 お姉さま今日は特に激しかったですぅ~ どうしたんですか?」


 「い、いえ、なんでもありませんわ。それよりイオマ、最近私より大きくなっているようですけど、そろそろマッサージを終えても良いのではないのですの?」


 「だぁ~めぇです。お姉さまはあたしのこと面倒見てくれるんでしょ? だから、せめてティアナさんに会うまではしっかりとかわいがってくださいよぉ~」



 イオマの甘い声と香りにあたしは動揺する。

 最近のイオマはその、あたし好みになってしまった。


 

 上半身裸であたしにもたれかかってくるイオマを見る。

 既に成人を過ぎイオマも十六歳になる。



 どうしてあたしの周りにはこうも魅力的な女の子ばかりなのだろう‥‥‥



 「お姉さま?」


 イオマがあたしを見上げる。

 その瞳は熱を帯び始めている。

 ウルウルとし始めたその瞳は何かを期待していた。

 イオマはそっと瞳を閉じる。

 そしてあたしが来てくれることを待っている。


 あたしはそのやわらかそうなイオマの唇に吸い寄せられそうになる。



 あたしは‥‥‥



 イオマの唇にあたしの唇が触れる寸前にあたしの脳裏にティアナの姿が蘇り、シェルのあの唇の感覚が蘇る。

 あたしは慌てて身を引きイオマのおでこにキスをする。


 「イ、イオマ今日はここまでです、もう寝ましょうですわ。おやすみなさいですわ」


 そう言ってあたしはそそくさとイオマの部屋を後にする。

 後ろからイオマの「お姉さまのいけずぅー!!」という非難の声が聞こえるが無視して急いで自分の部屋に戻る。



 * * *


 

 「主様、お帰りなさいです。 ‥‥‥どうしたのですか?」


 部屋に戻るとコクが寝間着に着替えてちょこんとベッドに座っていた。

 あたしは何も言わずコクを抱きしめる。


 「私は何でこうなってしまったのでしょうですわ‥‥‥」


 「主様?」


 あたしはその晩コクを抱きしめたまま眠ってしまった。



 * * * * *


 

 既に船に乗り込んで五日が経っていた。

 その間にシェルやイオマの事であたしはずっと混乱していた。


 しかしシェルはいつも通りに、イオマも相変わらずあたしに甘えていた。

 一人悩みまくっているあたしは二人に会うたびに不自然になってしまう。



 「主よ、何を悩んでいるか知らんが主らしくも無いぞ? 主はもっといつもの様に主らしくいればいいのではないか?」



 甲板から海を眺めていたあたしにショーゴさんが語りかけてきた。



 「ショーゴさん、ティアナは私の事ちゃんと待っていてくれるでしょうかしらですわ‥‥‥」


 「主らしくも無い。ティアナ殿下は主の大切な人なのだろう? ならティアナ殿下もきっと主の帰還を待ち望んでいる」



 ショーゴさんはそう言ってしばらくあたしと一緒に海を眺めている。

 そしてまたつぶやくように話しかけてきた。


 「今更だが、主よ、ジマの国の事、ミナンテ様の事本当に礼を言う。自分の役目は果たせなかったがこれで心残りは無くなった。俺は俺の命が尽きるまで主の為に剣となり盾となる事を再度誓う。だから主は主の心のままにいてくれ。俺は何が有ろうと主について行く」


 そう言ってあたしのそばから離れていった。


 全く。

 下手な慰め方だな。

 それにあたしが落ち込んでいるのはあたし自身がティアナ以外に心を奪われそうになったって事なのに。



 「主様、こちらでしたか。先ほどクロエから聞きました。サージム大陸が見えて来たそうです」


 ショーゴさんと入れ替わりにコクがやってきた。

 コクはあたしの手を引っ張って船の先端の方へと連れて行く。

 見れば遠くの水平線に陸地のようなものが見えてきた。

 


 あれがサージム大陸。



 とうとうここまで戻れたか。

 でもこの後湿地帯を抜け、水上都市スィーフに行ってそこから「迷いの森」を抜け精霊都市ユグリアまで行かなければならない。


 まだまだ先は長い。


 あたしは徐々に大きくなってくるサージム大陸を見るのだった。 

  

 

 * * * * * 



 「ここがサージム大陸ですか?」


 イオマはイージム大陸から出た事がなかったそうだ。

 

 ここはサージム大陸の港町ツエマ。

 言い伝えでは魔法王ガーベルがイージム大陸から上陸した地だそうだ。


 なのでこの港町は非常に古い。


 イージムとの交易が盛んなため港町と言ってもそこそこ大きいし商売もそこそこ盛んな土地だ。

 あたしたちは約一週間ぶりに地面に足をつける。


 「うーん、やっぱり陸地の方が良いわね! 海も嫌いじゃないけど水の精霊と風の精霊ばっかってのも変な感じよね?」


 「それはシェルさんじゃないと分からないですよ、あたしたちは精霊魔法使えないんですから」


 気持ちよさそうに伸びをするシェルとそれに応えているイオマをあたしは見る。

 そして大きくあたしも深呼吸していつものあたしに戻る。


 「さあ、まずは久しぶりに新鮮な野菜や果物の食事をしながら水上都市スィーフを目指しましょうですわ!」



 悩んでいても仕方ない。


 まずは精霊都市ユグリアにまで行く事に集中しよう。

 あたしの心はまだティアナがしっかりといる。

 シェルやイオマが気になってもティアナへの思いは嘘偽りはない。

 だから余計な事を考えるのは今はやめよう。



 心なしかみんなの表情も和らぐ。




 あたしたちはさっそくツエマの町を散策し始めるのだった。

 



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