第306話11-17英雄ドゥーハン
11-17英雄ドゥーハン
「ユリシアなのか!? い、いや、そんなはずはない‥‥‥」
そのおっさんはあたしの顔を見て驚いている。
誰この人?
あたしは思い出そうとしても記憶に引っかからない。
「ドゥーハン殿、丁度よかった。実はですなこちらにおられる可憐な女性はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン殿と申し、かの有名な育‥‥‥ い、いや、高名な魔導士でしてな、今正にあの件の事をお話をして協力をお願いするところでした」
「ハミルトン? ハミルトンだとぉ~!? まさかこの嬢ちゃんホーネスの野郎の娘か!?」
「あら、お父様をご存じですの?」
「ご存じも何もホーネスの野郎に俺はユリシア取られたんだ! って事は、嬢ちゃんあんたユリシアの娘か!?」
うーん、なんかめんどい知り合いっぽいな。
あたしは嫌な予感がしながら自己紹介する。
「はい、ユリシアの娘、エルハイミと申しますわ。失礼ですがあなたはですわ?」
一応ちゃんと膝折って正式な挨拶をする。
するとこのおっさんは一瞬嫌そうな顔をしてから話し出した。
「俺はドゥーハン、ドゥーハン=ボナバルドだ。お前さんの父親と母親は昔パーティーを組んでいた事がある。」
うーん、パパンとママンの昔の仲間か。
しかしさっきの話だと‥‥‥
「ドズラー大臣、この嬢ちゃんはだめだ。ホーネスの野郎は良いがユリシアの娘をあぶねえ目には合わせられねえ」
「しかし‥‥‥」
なんかあるみたいね?
仕方無しにあたしはこのドゥーハンさんて人に聞いてみる。
「お話の途中ですみませんわ、一体どうしたのですわ?」
あたしの割り込みにドズラー大臣は救われたかのように話始める。
「実は、最近近隣の村や町にやたらとゴブリンやコボルトと言った小物の魔物が現れましてな、それ自体は冒険者などを雇えば問題も無い事でしたがその数が多すぎるのです。そしてしばらくすると今度はドワーフたちとの交流が途絶え、様子を見に行った者も戻らなくなった。あまりの異常事態に調べを始めましたらドワーフ王国とつながる山岳部に巨大な岩虫、ロックワームが出たとの事なのです」
ドズラー大臣はここまで言ってドゥーハンさんを見る。
「それで俺たち冒険者が依頼を受けたんだがな、如何せん地面にもぐられちゃ俺のような戦士は手が出せない。それに今回のロックワームは異常だ。ざっと見二十メートルはあるバケモンだ」
二十メートルもあるロックワームですってぇ!?
通常ロックワームは大きくても五、六メートルが良いところだ。
それが二十メートルもあるとなればドラゴンサイズじゃないの!?
「岩の多い山岳部は洞窟も多い。奴にしてみれば絶好の住処になる。逆に俺たち冒険者にしてみれば最悪の場所だ。いくら注意していてもどこから襲われるか全くわからん。それにあの巨体だ、嬢ちゃんなんかひと呑まれされちまう。そんなあぶねえところにユリシアの娘を引っ張っていけるか!」
ドゥーハンさんはそう言って首を横にふる。
しかし‥‥‥
「参ったの、そうするとドワーフの国にも行けんの?」
オルスターさんはそう言って髭をさする。
そう、あたしたちの目的地であるドワーフ王国にも行けないのである。
となればやはりここはあたしたちが何とかするしかない。
「ドゥーハンさん、私たちはどうしてもドワーフの王国に向かわなければなりませんわ。そのロックワーム討伐、私たちも協力させていただきますわ!」
「やっぱりそうなるのよねぇ~」
「お姉さまですもの!」
「主様、岩芋虫の討伐ですか? その様な事私共にお任せください。瞬殺してご覧にいれます。ですからご褒美後でください!」
「ロックワームか、面白い」
「しかしクロ様岩芋虫如きですよ? その程度ショーゴにやらせれば十分でいやがりますよ?」
「ふむ、ロックワームか奴は音に敏感だったな」
既にみんなもその気になってくれている。
それを見ていたドズラー大臣は大喜び。
逆にドゥーハンさんはしかめっ面になる。
「確かエルハイミとか言ったな、嬢ちゃん。ユリシアの娘だ、そこそこ魔道は使えるだろうがやはり危険だ。ついて来るのは認められねえ」
「あら、こう見えましても私も魔道には少々自信がありましてですわ」
にっこり微笑むあたしにドゥーハンさんは顎に手をやり唸っている。
そこへすかさずドズラー大臣が「これほどの魔導士他にいないですぞ!」なんて言っている。
ドゥーハンさんはしばし考えてうなずく。
「よし、じゃあ庭に出ろ、お前さんの実力が見たい」
「わかりましたわ」
あたしはドゥーハンさんについて庭へ行った。
* * * * *
「よーし、エルハイミよ、俺に向かって炎の矢を放て。遠慮はいらん。本気で来い!」
「しかし、それではドゥーハンさんが大けがしてしまいますわ?」
「大丈夫だ、問題無い。本気で来いよ!」
だいぶ自信が有るようだけど本当に大丈夫かな?
あたしは手加減して【炎の矢】を百本ほど無詠唱で出した。
調整しているから直撃してもやけどで済むレベルに絞り込んであるから大丈夫よね?
「へっ!?」
「ドゥーハンさん、行きますわよ~。それっ!」
あたしは一斉にその百本ある【炎の矢】を放った。
矢は奇麗にドゥーハンさんを囲みながら迫る。
まあ、回復魔法も有るし大丈夫だろう。
「のあぁあぁぁぁぁぁっ!! 何じゃこりゅあぁ!!!?」
大声上げて炎の矢の餌食になるだろうと思ったその瞬間、ドゥーハンさんはいきなり心眼を開いて迫りくる百本もある【炎の矢】を全部剣で叩き切った!?
「うむ、見事だ!」
「ほほう、人間にしてはやるではないか?」
「面白そうなやつでいやがりますね?」
それを見ていたショーゴさんやクロさん、クロエさんは興味を示した。
「っだぁぁああああぁぁっ!! こらエルハイミ! てめえ俺に何の恨みがあるんだ!? 殺す気か!!」
「えっ、だって本気で来いって言いましたわよ? それにこれでも手加減して本気であればあの数百倍の【炎の矢】が出せますわよ?」
「ユリシアも大概だったが、娘のお前はもっと大概だぁ!! ホーネスに俺を亡き者にでもしろって教育でもされてるんじゃないだろうな!?」
ぜぇぜぇ
ドゥーハンさんは肩で息している。
しかしあたしは少し驚いている。
ドゥーハンさんの瞳が薄く金色になっていたからだ。
それはアンナさんの領域、つまり英雄にも引けを取らない心眼使いなのだ。
「流石は北陸戦争の英雄、あれほどの【炎の矢】もしのぐとは! これにエルハイミ殿が協力していただければロックワームもすぐに片付きましょうぞ!」
ドズラー大臣はあたしたちの一連を見ていて拍手しながらそう言ってくる。
「ま、まあこの嬢ちゃんなら確かに問題無ぇ。よしわかった、これ以上被害を広げないためだ、協力してくれエルハイミの嬢ちゃん」
そう言ってドゥーハンさんはあたしに手を差し出す。
あたしはその手を取り握手する。
早い所あたしもドワーフの王国へ行きたいし、そのあとサージム大陸行って精霊都市ユグリアを目指したい。
そこまで行けばボヘーミャは目と鼻の先だ。
そしてきっと師匠がティアナにも連絡付けてくれているだろうし、やっとティアナの元へ帰れる。
あたしはティアナに合えることを心待ちにするのだった。
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