第300話11-11女神の杖

11-11女神の杖



 曇り空の下、油と鉄の匂いを漂わせ金属のガチャガチャする音が響く。


 

 「ドーテ殿、ご協力感謝する。」


 「いえいえ、アビィシュ殿下、黒龍様の命により参りました。礼は黒龍様に願います」



 そう言ってジマの国から援軍でやってきたドーテさんたちはアビィシュ殿下にコクを引き合わせる。



 「まさかこの少女があの黒龍様とは知りませんでしたな、数々のご無礼どうかご容赦願いたい。」


 「かまいません、私は主様のご意思に従ったまでです」



 そう言ってコクはあたしを見る。



 「やはり最後はあなたですか。エルハイミ殿」


 「やはりとはどういう意味ですの? 私はジュメルを許すつもりが無いのですわ。ただそれだけですわよ」



 あたしのその断言にアビィシュ殿下は苦笑する。


 

 「元々高名なうえジマの国を開放し、そして我らイザンカの為に手を貸す。本当にあなたは何者なのですか?」


 「私はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン。それ以上でもそれ以下でも無いですわ」



 そのあたしの答えにアビィシュ殿下はがははははっと笑い声をあげる。


 「余計な事を聞きました。さて、そろそろですな」


 アビィシュ殿下はそう言って向こうに行き兜をして馬に跨る。

 そして近衛を引き連れて全軍の一番前に行く。


 

 「イザンカを愛する者たちよ! この国を蝕む輩を追い出すぞ! この戦いに勝利し我らは再びイザンカ王国に栄光を! ゆくぞ皆の者! 我につづけぇ!!」



 大声でそう宣言すると腰の剣を引き抜き高々と掲げる。

 戦の始まりの角笛が鳴り響く。



 一斉に怒声と共に軍が動き出した。



 見ればレッドゲイルの聖騎士団も角笛を鳴らしこちらに攻め込んで来ている。

 

 

 「これはいきなり混戦になるな。主よ、我々も行くぞ!」



 そう言ってショーゴさんたちも動き始めた時だった。



 

 「全く、血気盛んは良いですが自軍の戦力を温存させるのも策ですよ? 聖騎士団の皆さん私が初手を手伝いますよ!」




 どこからともなく聞こえたこの声はカルラ神父!

 あたしはカルラ神父が何処にいるか探すも見つからない。

 

 そんな事を思っていた矢先にこちらの先行部隊いきなり弾き飛ばされた!?

 

 「エルハイミ! 風の女神メリル様の力よ!」


 シェルはこちらの軍が吹き飛ばされた場所を見ている。 

 よくよく見れば上級精霊テンペストたちがいた。



 「ならばこちらも女神様のお力を借りるまでですわ! ファーナ様お力をお貸しくださいですわ!」



 あたしはそう言って「女神の杖」に魔力を込める。

 それはあたしの魔力に反応してあたしの意志で最前線、敵陣の前に茨の壁を出現させる。

 そしてその茨を向こうの聖騎士団たちにけしかけた!


 いきなり地面から伸び出た茨に聖騎士団たちは絡め捕られ身動きが取れなくなる。

 


 「やはり貴女か! 我々ジュメルにたてつく魔女よ! 我が神ジュリ様の名の元あなたを滅ぼす! 聖騎士団よ異教の魔女を始末するのです!!」



 とうとうあたしを名指しで来たか!

 よろしい、ならば戦争だ!!



 「コク、かまいません聖騎士団を薙ぎ払いなさい! シェル、ショーゴさん、イオマは私の守りに! いきますわよぉ 集え巌の体! 【ロックゴーレム】!!」


 あたしは準備していた近くの岩に魔力を注ぎ込み、百体以上のロックゴーレムを作り聖騎士団へと殴り込みに行かせる。

 物理攻撃を主体とした身の丈三、四メートルのロックゴーレムの大軍だ、流石に聖騎士団もその動きを止めて対応を始めなければならない。


 あたしは更に女神の杖を使って茨を増やし聖騎士団の足止めをする。



 「おのれ魔女! 風よ茨を切り裂け!!」



 あちらもカルラ神父が「女神の杖」を使って聖騎士団にまとわりつく茨を切り裂く。

 

 なんと言う器用な事を!

 

 しかし流石にロックゴーレムまでは切り裂けず混戦が始まっている所へこちらのロックゴーレムがなだれ込んだ。

 一応聖騎士団だけ襲うように命令しているけどアビィシュ殿下その辺は大丈夫よね?


 ドーテさんやユエバの町から来た援軍にも自軍の目印、青の頭巾をさせているのでそれが外れなければ大丈夫だと思うけど。




 「おーっほっほっほっほっほっ! 小娘出てきましたわね! ロックゴーレムが使えるのは貴女だけで無くてよ! カルラ神父、ちょっとその杖をお貸しくださいましな。こちらも行きますですわよ、【ロックゴーレム】!!」



 いきなり高飛車の声が聞こえてジェリーンが「女神の杖」を使ってロックゴーレムを作り上げたぁ?

 しかもあたしに匹敵する数を生み出してきた!!


 やるなジェリーン、でかいのはその態度と胸だけじゃなかったのね!?


 

 「エルハイミ、やばいわよあのロックゴーレムたち風の精霊をまとってるわ! 攻撃に風の加護が付加されている!!」



 シェルがあたしに警告してきた。


 確かに先頭にいたこちらのロックゴーレムはあちらのロックゴーレムに殴られ破損していた。

 通常の攻撃でここまで破損はしない。


 ならばこちらも!


 「女神ファーナ様よ、我がしもべに加護を!!」


 あたしがそう言いながら「女神の杖」に更に魔力を込めるとあたしが作ったロックゴーレムに茨が巻き付きその防御力と攻撃力を著しく上げた!


 「小生意気な小娘ですわね! カルラ神父何とかなさいなですわよ!!」


 「全く、人使いが荒いですね。だからヨハネスに振り向いてもらえないのですよ?」


 「きぃいいいいっ! そんな事はありませんわよ! 私のこの献身、きっとヨハネス神父様にも分かっていただけますわっ! それより早く何とか致してくださいですわ!!」


 なんかもめてるわね。

 しかしそんな事に気を取られている暇はない。


 混戦の中、既にクロさんとクロエさんが参戦したおかげで相手のロックゴーレムが数を減らし始めた。


 「すごい! お姉さまこのまま行けますね!」


 「油断大敵ですわ、イオマ!」


 楽観的な事を言うイオマを戒めたちょうどその時だった!!



 ごがぁぁああぁんっ!!




 レッドゲイルの城壁の向こうで大きな音がしてそれは障壁を超える大きさで立ち上がったのだった。



 

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