第301話11-12巨人再び

 11-12巨人再び



 「なんなんだあれはっ!」


 誰が言った言葉だろう?

 しかしここに居る人々はきっと同じ事を思っただろう。


 レッドゲイルの壁の向こう、まだ体からもうもうと湯気を立ち昇らせそれは立ち上がったのだった。


 

 「あれが主様の言う巨人ですね? 確かに大きいけどそれほどの強敵なのですか?」


 コクがあたしのそばにやってきてその巨人を見る。

 巨人はゆっくりと城壁をまたぎこちらへと向かってくる。


 「ティナの町では随分と苦労させられましたわ。硬い鱗は簡単に突き破られず、ロックゴーレムをも投げ飛ばす腕力、そして通常の竜をも凌駕する炎を吐き出しますわ!」


 流石にこの混戦でも巨人の出現に両軍一旦引いて陣形を整える。



 「はははははっ! さあ聖騎士団の皆さん、私が女神様の力でお手伝いしましょう! ジュリ様の加護で生まれしこの巨人であの魔女を引き裂いてやりましょう!!」



 嬉しそうに言うカルラ神父。

 見ればヨハネス神父同様に巨人の肩に乗っている。


 そして城壁の上には杖を持ったジェリーンもいた。



 「主様、あれは私たちのお任せを。哀れな同胞を静かに眠らせてやります。あの子はあのような姿にされ自由を奪われ苦しんでいます。せめて我ら竜族の手で静かに眠らせてやりたいのです」



 そういってコクは人の姿のままひと鳴き、悲しそうな竜の鳴き声を発する。


 それと同時に今まで数を減らしていた相手のゴーレムがまたこちらに向かって動き出した。

 あたしはこちらのゴーレムに命令して迎え打たせる。


 「ふはははははっ! 巨人よ焼き払え!!」


 カルラ神父のその言葉に巨神は大きく息を吸いその灼熱の咢を開く!



 「まずいっ! 【絶対防壁】!!」



 あたしはとっさに自軍の前に絶対防壁を展開する。

 間一髪巨人の吐いた炎はあたしの絶対防壁に阻まれこちらの軍に被害は出なかった。

 しかし防壁の外にいたロックゴーレム何体かがそん炎に焼かれドロドロに溶けてしまっていた。


 「お姉さま! 何ですかあの化け物はっ!」


 「あれが私たちが戦ってきたジュメルの奥の手ですわ。あれにはどれだけ苦しめられたことか。でも今は違いますわ!」



 見れば巨人に異変が起こっていた。



 

 「はぁあああぁぁっ! 【ドラゴン百裂掌】!!」


 「これが本当の炎だ、受けよ我がドラゴンブレス!!」




 クロエさんのドラゴン百裂掌が流星群の様に巨人の胸を穿つ!

 そしてクロさんのドラゴンブレスに巨人がひるんでいた。



 「ほんと、あたしたち何もしなくて済みそうで助かるわ。できればあんなのとはもう二度とやりたくないもんね」


 「シェルよ、しかし気を抜いてはだめだぞ。いつ何が起こるか分かったものではない」


 完全に観戦モードでクロさんやクロエさんの戦いを見ているシェルはポーチからおやつを取り出しもしゃもしゃ食べてる。

 ショーゴさんも異形の兜の戦士に変身してオリハルコンのプロテクターに身を包んで腕組みしてみている。

 あたしはゴーレムたちを操りながらこちらの軍に被害が及ばない様に可能な限りサポートの魔法を放っている。


 あたしは巨人を見る。


 あれが黒龍たちの力。

 太古の竜であり、その分身である竜たち。

 人の戦にその力は絶対的なものになる。

 そしてその力はあの巨人さえも押すほど。


 あたしはコクを見る。


 「やはりあなたたち黒龍はすごいですわね。あの巨人をあそこまで抑え込むとはですわ」


 「主様の為です! 後でご褒美におっぱいください!!」


 こんな時だというのにコクはあたしに抱き着いて来てくれる。


 「あああっ、コクちゃんずるい! うう、こんな時じゃなきゃあたしもお姉さまに抱き着くのに!」


 イオマがローブの端を噛んで悔しがっているけど、みんな気を抜きすぎじゃない?


 「遊んでいてはだめですわ! いくら巨人が押されているからと言ってまだまだ何があるか分かったものでは無いですわ。みんな気を引き締めてですわ!」


 


 「ありえない! 何なんだ貴様たちは!? 化け物か!?」


 

 「そんな竜のまがい物で私たちを止められるとでも思っていやがりますか!?」


 「哀れな同胞に安らかな眠りを与えてやる。受けよ【ドラゴンクロ―マックス】!!」


 クロさんの片腕全部を鋭利な刃物にした一撃はなんと巨人の腕を切り落とした!



 ぐろぉぉおおおおおおっ!!



 流石にこの一撃は効いたらしく巨人は苦痛の雄たけびを放つ。


 「ええぃ、化け物ども! 巨人よ、炎で焼き払え!!」


 カルラ神父は巨人に命令をして炎を吐かせる。

 しかし、それを直撃したクロさんもクロエさんも涼しい顔をしている。


 「我ら黒龍にその程度の炎は効かん!」


 「ぬるいでいやがります!」


 そう言ってクロエさんはまたドラゴン百裂掌を、クロさんはドラゴンクロ―を放つ!



 どがががががががぁぁああああっ!


 ざしゅ!!


 

 ぼこぼこに鱗がへこみ、もう一本の腕を切り落とされた巨人は雄たけびを上げながら倒れた。





 「くううぅっ! こうなったら、ルグシア! 魔女の首を取りなさい!!」



 カルラ神父はかろうじて倒れる巨人から離れ、大声でそんな事を言う。



 ルグシア?

 誰それ??



 あたしがそんな疑問を持った瞬間だった。


 「はい、カルラ神父様」


 あたしの耳元でその声がした。



 「エルハイミっ!」


 「主よ!!」



 いきなりあたしの横に現れたダークエルフの女が黒い短剣をあたしの喉元に差し込んできた!



 駄目っ!

 プロテクターの自動防御も間に合わないっ!!



 あたしがそう思った瞬間だった!




 きんっ!




 「くっ!」


 「姉御に手ぇ出すとは許せんでござる!」


 どすっ!



 それは一瞬の出来事だった。

 あたしの喉に黒い短剣が触れるその瞬間に短剣はベルトバッツさんの刀で弾き飛ばされていた。

 そしてベルトバッツさんの刀がそのダークエルフのお腹に刺さっていた。


 「くっ、カルラ神父様‥‥‥ ごめんなさい、あなた‥‥‥」


 最後にそう言って彼女はその場に倒れ動かなくなった。



 「エルハイミ、大丈夫!?」

 

 「主よ!?」


 「お姉さま!」

 


 みんながあたしの元へ駆け寄って来てくれた。


 「主様! よくやってくれましたベルトバッツ。助かりました」


 「はっ、もったいないお言葉でござりますでござる」


 ベルトバッツさんはコクの前に膝まづいていた。

 あたしはイオマやシェルに抱き着かれ体の隅々まで確認される。



 「エルハイミ、どこか傷を受けていない? ダークエルフの刃には毒が塗ってあるわ。かすり傷でも命を落とす」


 「え、ええ、おかげさまでどこも何も無いですわ」


 「お姉さま、本当にどこにもケガは無いのですか!?」


   

 それでも心配してくれるシェルとイオマ。

 

 「さすがローグの民、本当に今回は肝を冷やした。礼を言うベルトバッツ殿」


 ショーゴさんも異形の兜の戦士に変身しているので表情は分からないけどかなり安堵している様だ。


 


 「ぐぉおおおおおおおぉぉぉっ! ルグシアぁっ! ぐ、ぐあぁあああああぁぁっ!!」



 見るとカルラ神父が急激に老化していく。

 見る見るうちに若々しい肌はしわだらけの肌に変わり髪の毛は白くなり抜け落ちる。


 

 「じぇ、ジェリーン、たすけてくれぇええぇえぇぇっ!!」


 「ふん、所詮あなたはその程度だったようですわね。ヨハネス神父様に頼まれてあなたの手伝いをしていたけどそれもここまでのようですわね。小娘、最後に良い物をあなたたちにぶつけてあげます事よ、せいぜい楽しむのですわね、おーっほっほっほっほっほっ!!」


 そう言ってシェリーンは壁の向こうに飛び降りる。

 しばらくしたら城壁の門が開き身の丈三メートルくらいの一体の巨人が出てきた。


 それは一目でわかる魔怪人。


 今更魔怪人如きをあたしたちにぶつけてくる?

 あたしがそう疑問を持った時だった。


 

 「イルゲット様!?」



 近くにいたフィルモさんが叫んだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る