第298話11-9宣戦布告
11-9宣戦布告
ここブルーゲイルの街はあわただしくなっていた。
先王が崩御していよいよ内戦の元凶である兄王子と弟王子が決着を付けなければならなくなったのだ。
今までは先王が病に伏していたため隣の街に居を構える弟王子派はこの首都であるブルーゲイルに攻め込む事は無かった。
しかし先王が亡くなった今、この街には兄王子だけとなる。
そうなれば大義名分でこの街の襲いかかりこのイザンカ王国の王として宣言が出来る。
今まではそう言った事が暗黙の了解だったのか、先王が亡くなってから事は一気に進んだ。
「戦は市街戦にならぬようこちらから打って出る。全兵をブルーゲイルから出しレッドゲイル近郊まで進軍。これより七日後にレッドゲイルに攻め込む。そしてこの事をイルゲットたちに宣戦布告するのだ!」
アビィシュ殿下はそう言ってこの軍事会議で他の人達を見渡す。
「アビィシュ様、わざわざこちらから打って出るのですか? そうするとこのブルーゲイルはどうなります?」
ジニオさんが恐る恐る挙手しながら質問をする。
「草民や伝統あるこの街に被害を及ぼすわけにはいかん。この戦で決めるのだ」
アビィシュ殿下の表情は硬い。
そしてこれが本当に最後の戦いなのだとこの場にいる人々にもう一を念を押している。
「こちらの戦力はあちらに比べ聖騎士団の分不利です。それにあちらにも強力な魔術師がいます」
家臣の一人がそう進言するもジニオさんたちは発言をする。
「それに関しては今回こちらにはエルハイミ殿たちが手を貸してくれる。かの有名な大魔導士がこちらにつくのだ、相手の魔術師など恐れるに足らん! それにエルハミ殿の方があんなおっぱい年増よりずっと可憐ではないか! 大きれば良いと言うものではない! エルハイミ殿、結婚してくれ!」
「何あんたの妄想を挟み込んでんのよ!」
げしっ!
ジニオさんはだんだんと高ぶる発言に最後の方にあたしに対する妄言がそのまま口から出ていた。
フィルモさんが代わりにしばいておいたのでここは良しとしよう。
しかし周りの反応がちょっとね。
「確かに、『育乳の魔女』殿がいれば我々にも勝機が」
「噂ではあの黒龍様を従えるとか」
「しかし気を付けなければ、すでにエルハイミ殿の周りには美女だらけだが、何時お気が変わり我々の胸も大きくされてしまうやも‥‥‥」
ちょっとマテ、なんだそれは!?
あたしが不満げな顔をして睨むと家臣たちはいっせいに自分の胸を隠し後ずさる。
全くどいつもこいつも!
そんなあたしを見ていたフィルモさんは軽く笑ってあたしに聞いてくる。
「ところでエルハイミさん、ジマの国の方はどうなっているの?」
「それに関しては問題ありませんわ。ミナンテ陛下は喜んで協力してくれるそうですわ」
あたしのその言葉にここに居る皆がおおーっと喜びの声をあげる。
「エルハイミ殿、重ね重ね感謝しますぞ。この戦、必ず勝ってこのイザンカに平和を取り戻しますぞ!」
アビィシュ殿下はそう言ってあたしにお礼を言ってくる。
七日後、いよいよ決戦を迎えるのだった。
* * * * *
「主様、今まで黙っておりましたがローグの民もお使いになりますか?」
コクがあたしに突然そんな事を聞いて来た。
ローグの民って確か人畜無害そうなちょっとビビりの入った人たちだったけどいきなり戦に参戦できるのだろうか?
「コク、彼らはもう長い時そう言った事とは疎遠であったのでしょう? 今更彼らの生活に影響が出る事をする必要は無いのではないですの?」
しかしコクは複雑な顔をする。
なんか小さなあたしが悩んでいるようで可愛らしい。
「それが、ミグロたちと交流を持たせたらずいぶんと元気になったようで残りのゾンビの駆逐やジマの国に入り込んだ他国の隠密は既に処理しているらしいです。クロエの話ですと必要であればこちらに精鋭部隊を送ってくるそうですが、いかがいたしましょう?」
あたしはベルトバッツさんの禿げ頭を思い出す。
あのにこやかな笑みが合う人たちが?
どう考えても想像がつかない。
「その事はコクに任せますわ。ただ、せっかく地上に出てきたのですわ、無理はさせない様にしてくださいですわ」
「わかりました。連絡などの事を考えると有能な人材です、少数をこちらに回します」
コクはそう言ってまたまた念話でクロエさんに連絡をしている様だ。
「エルハイミ、やっぱりあの神父って出てくると思う?」
「そうですわね、間違いなく出てくるでしょうですわ。そうすると問題はあの『女神の杖』ですわね」
「そう言えば、アビィシュ様が宝物殿に入る許可をくださったわ。エルハイミさんあたしたちもその『女神の杖』とやらを見に行かない?」
あたしやシェルが悩んでいるとフィルモさんがそう言ってくれた。
そう言えば宝物殿の「女神の杖」と思われる物を見せてもらう約束だっけ。
あたしたちはアビィシュ殿下の元へ向かい宝物殿に入れてもらう事にしたのである。
* * * * *
「ここに来るのは久しぶりだな。エルハイミ殿、取り扱いには気を付けてください。下手に魔力を使うといきなり暴走をしますので」
アビィシュ殿下はあたしたちを宝物庫に連れてきてくれた。
そして奥深くにしまわれていた宝箱を引っ張り出す。
この国では長らく「豊穣の杖」と呼ばれる古代マジックアイテム。
由来や何故ここにあるかはすでに忘れ去られているらしいけど今までの話を聞く限り間違いなくこれは「女神の杖」だろう。
あたしたちは出された宝箱を開く。
そこにはあの迷宮やカルラ神父が持っていたのと全く同じ形の杖が有った。
「間違いなく『女神の杖』ですわ」
あたしは同調しながら感知魔法も使ってみる。
そして感じ取ったのは愛と豊作の女神、ファーナ様のお力だ。
「エルハイミ、これってもしかして、ファーナ様?」
「よくわかりましたわねシェル。そうですわ、ファーナ様ですわ」
シェルはなんか嫌な顔している。
「これってなんかものすごく威圧感があるわね」
植物にはその力を及ぼし一瞬で蔓等で城を覆いつくせるほどの力があるそうだ。
シュルたちエルフは樹木と精霊から作り上げられていると言われているからもしかしてその影響みたいのが有るのかもしれない。
「そうだ、エルハイミ殿。この杖をエルハイミ殿にお譲りいたしましょう。我々が持っていても宝の持ち腐れ、この戦で何かの役に立つやもしれません」
「はいっ? しかしこれは国宝と聞きますわよ!?」
「なに、歴史だけは古い国故、国宝などこの部屋に有る物全てがそれに相当します。むしろこの杖は力はあれど一歩間違えると国が滅んでしまうほど取り扱いが面倒なもの。ジュメルとやらにくれてやる事は出来ませんがエルハイミ殿ならきっと上手く使ってくれるでしょう」
アビィシュ殿下はガハハハッと笑ってあたしにその杖を渡して来る。
そしてその杖を握ったあたしは思い知る。
ものすごく不機嫌なのだ、この杖は。
もしかしてシコちゃんみたいに意思の疎通が出来るかもしれない。
あたしは念話を試みるも残念ながら話は出来ないようだ。
しかしこの不機嫌な雰囲気、間違いなくあつかいに気を付けないといけない。
手に握る杖とアビィシュ殿下を見比べる。
これって単に厄介払いされてるだけなんじゃないかしら?
まあ、でも「女神の杖」をこれでジュメルに渡すことは無くなった。
少なからずともあたしの手元にあるうちは。
あたしはこの不機嫌な「女神の杖」を見ながらそう思うのであった。
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