第275話10-17三本の矢

10-17三本の矢



 あたしはシェルに起こされた。



 「エルハイミ、そろそろ起きて時間よ」


 まだ少しぼおっとする頭を振りあたしは目覚める。

 さすがに睡眠したお陰でかなりの回復が出来た。

 コクに盛大に吸われた魔力もそこそこ回復しているし、何より体が軽い。


 「私はどのくらい寝ていましたのですの?」


 「そうね、二時間ってところかしら?」


 シェルに言われてあたしは驚く。

 予定より一時間も余分に寝ていた。


 「大丈夫なのですの!?」


 「まあ主よ、そう言うな。みんなさすがに疲れていて一時間では足らなかった。この後挽回すれば問題は無い」


 そう言ってショーゴさんはあたしに水筒を渡してきた。

 あたしは水筒を受け取り中身を飲む。 

 寝起きの体に気持ちいいほど水分が染み渡る。


 「主様、お目覚めですね? お陰様で二人の再生はだいぶ進みました。あと少しで再生完了します」


 コクがあたしのそばまでやってくる。

 そしてちょこんと女の子すわりしてあたしにそう告げる。


 「でもまだ時間が必要なんでしょ? だったらあたしたちだけで先進むしかないわね」


 言いながらシェルは弓の調子を見ている。

 ショーゴさんも首を縦に振りあたしを見る。


 「お姉さま、大丈夫なんですか?」


 イオマが心配してくれるけど体も軽くなったことだし先に進むことにする。


 「そうですわね、ここにずっといる訳にも行きませんわ。先に進みましょうですわ」


 あたしはそう言って立ち上がるのだった。



 * * * * *



 「着いたぞ、主よいいか?」


 ショーゴさんの問いにあたしは静かに首を縦に振る。

 それを見たショーゴさんは頷いてから扉を開ける。



 『ようやく来たね? しかし凄いね、あいつら全部倒してきたんだ。歓迎するよ我が宮殿にようこそ!』



 見ると詰め所の真ん中にケンタウロスのような悪魔がいた。

 その悪魔は人の部分が悪魔で弓をもって前足を踏み鳴らしている。


 「主よ、気を付けてくれ。飛び道具を持っている」


 ショーゴさんがなぎなたソードを構える。


 『おっとぉ、君たち複数で僕をいじめるのかい? 前の奴等倒してきたんだから君たちって強いだろ? 僕に勝ち目がないかもしれないじゃないか。だからゲームをしよう。悪魔のゲームをね!』


 そう言ってぱちんと指を鳴らすと部屋全体が明るくなった。

 そしてあたしたちの左横を指さす。


 『この子の頭の上にリンゴを置くからそのリンゴを射抜いたら君たちの勝ち。でも放てる矢は三本まで。どう? わかりやすいルールでしょ?』


 頭の上のリンゴ?

 あたしたちがつられて見たそこにはコクが立っていて頭の上にリンゴが乗せられていた!?


 「え? コ、コクぅ!?」


 慌ててあたしの隣横を見るといたはずのコクがいなくなっている。

 

 「え? ええ? えええっ!? あ、主様ぁ! これは一体!?」


 『おっと、君は動いちゃだめだよ。それとその物騒な刀を持った男もだよ。僕とのゲームは既に始まっている。さあ、誰がこのゲームに挑戦するのかな?』


 そう愉快そうに笑うケンタウロスの悪魔。

 しまった、すでにあの悪魔の術中に落ちたか!?


 あたしたちは動こうとしているけど動けない。

 コクも同じようだ。


 『僕とのゲームが終わらない限り君たちは動けないよ。その代わり全部の力をゲームに使っているから僕も今攻撃されたら子供の腕力でさえ倒せるんだけどね~』


 カラカラと嬉しそうに笑う。


 『さあ、ゲームには誰が挑戦する? あ、そうだ言い忘れる所だったけど、負けたら君らの魂全部僕がもらうからね?』


 そう言って邪悪な笑みをこぼす。

 最初から向こうが有利な条件だらけだ。


 「あたしがやる!」


 そう言ってシェルは声を張り上げた。

 

 「コクの頭の上のリンゴを打ち抜けばいいのよね? やってやろうじゃないの!」


 『君が挑戦するんだね? 分かった、じゃあここへきて』


 ケンタウロスの悪魔はそう言ってもう一度指を鳴らす。

 するとシェルだけ体が自由に動かせるようになったようだ。


 シェルはずかずかと悪魔の近くまで行く。

 そして悪魔が指さした場所に立った。


 『それじゃあ始めようか? 使える矢は三本まで。一本でもいいからあの子の頭の上のリンゴを射抜けば君の勝ち。全部外れれば僕の勝ちで君たちの魂を全部もらうよ? それでいい??』


 「ふん、あたしが勝ったらみんなを自由にしてこの先に行かせるのよ! いいわね!?」


 『うん、わかった。じゃあ交渉成立! さあ始めよう悪魔のゲームを!』


 シェルは弓に矢をつがえ狙いを定めていく。

 まっとうにすればシェルの腕ならまず間違いない。

 しかし相手は悪魔だ、どんな卑劣な手を使ってくるか分からない。


 『シェル、気を付けてですわ。悪魔が相手ですものきっと何か企んでいますわ!』


 『わかっている、集中するから少し黙ってて』


 あたしは念話でシェルに注意を促すがシェルは集中するからと言って念話を切った。

 


 すうっと息を吸いピタッと止める。

 そして次の瞬間シェルの弓はヒュンっとうなりをあげて矢を解放つ。


 シュッと音がしてそれはコクの頭のリンゴに当たったと思ったその瞬間だ!


 

 かつんっ!

 どすっ!!



 横から一本の矢が邪魔をしてシェルの矢の軌道を狂わせ的のリンゴから大きく外れて壁に突き刺さる。


 「なっ!?」


 『ふははははははっ! ざ~んねんっ! はっずれぇ~!!』


 カラカラ笑う悪魔にシェルは抗議する。

 

 「なによあれ! なんであたしの矢の邪魔するのよっ!?」


 『あれぇ~? 約束には邪魔しちゃいけないなんて無かったよぉ~? 弓はエルフだけの専売特許じゃないからねぇ~。僕だってあのくらいに矢は放てるさ!!』



 最初からそれが狙いか!

 確かに決まりごとに邪魔しちゃいけないって事は無かった。

 しかしまさかここまであからさまに邪魔しに来るとは。



 『さあ、残り二本。どんどん行こうよ!』


 「くっ! いいわ見てなさい!!」


 そう言ってシェルはまた矢を構える。

 しかし今度は二本同時だ。


 『おやぁ、僕に邪魔されるのが嫌で二本同時に撃つつもりかい? いいねぇ、でもこれで外れたら君の負けだよ? いいのかな??』


 シェルの周りでワザとおどけて見せるケンタウロスの悪魔、シェルの集中力を乱すつもりか?

 しかしシェルは涼しい顔で弓を引く。


 悪魔はこれ以上騒いでも効果が無いと悟るとシェル同様二本の矢を弓で弾く。


 そしてシェルが矢を放つと同時にあ悪魔も矢を放った!


 悪魔の矢はまっすぐにシェルの矢が飛んでいくと思われる方へ行くが、しかしシェルの矢は二本とも大きく弧を描きこちらに、悪魔に向かって飛んでくる!?

 それはそのまま悪魔に襲いかかるがケンタウロスの悪魔は慌ててその場を退き飛んできた矢を避ける。


 『うわっっと! 危ないなぁ!! そうか僕を始末すればこのゲームが終わると思ったな!? 残念でしたぁ! 君の矢は僕が避けて的から外れたから君たちの魂は僕の物だよっ!』


 けらけらと笑っている悪魔だがシェルは何食わぬ顔でその様子を見ている。


 『なんだい? 僕を始末できなかったんで不満かな? 確かに相手を攻撃しちゃいけないなんて決まりは無かったけど的から外れちゃ意味がないよね? はははっ! ああ面白い!!』


 上機嫌の悪魔だけどあたしたちはおもむろに動き出す。



 『なにっ? お前たち何で動けんるんだよ!? おかしいだろ!? 僕の力は絶対だ、契約したんだから動けるはずがない!!』



 「そうね、確かに契約したからあたしの勝ちって事よね?」


 『なっ、このエルフ頭がおかしくなったのか!? お前の矢は的から外れたじゃないか!?』


 しかしシェルのもとまで歩いてきたコクは頭に乗っていたリンゴをシェルに渡す。

 そのリンゴにはシェルの矢が二本とも突き刺さっていた!


 『そんな馬鹿な!? だってさっきの矢は僕に向かって飛んで来たのになんで!?』


 「別にあなたを狙ったわけじゃないわよ? ちゃんと部屋を一周させてコクの頭のリンゴを狙ったのよ!」

 

 そう、シェルの矢は悪魔が避けた後も大きく弧を描きもう一度コクの頭のリンゴに向かって飛んでいき見事に二本ともそれに突き刺さったのだ。


 『くっ! 汚いぞ!! 僕を狙っておいてよくも! こんなのは無効だ! やり直しだ!!』


 わめいているがシェルは冷たく一言こういった。


 「あなたの負けよ」


 『うっ、うわぁああぁあああぁぁぁぁっっ!!』


 ケンタウロスの悪魔はシェルに矢を向けるがそれより早くショーゴさんが動いて短刀をケンタウロスの悪魔の胸に投げる。


 

 どすっ!



 『ぐっ!』


 見事に心臓にその短刀は突き刺さりケンタウロスの悪魔はその場に倒れる。

 どうやら本当に能力に力を使っていて自分の防御力は皆無に等しい様だ。


 近づいてみるけど事切れている。


 「さあ、次行こう!」

 


 シェルはそう言って歩き出す。

 あたしたちはシェルの後について歩き出すのだった。 

 

 

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