第273話10-15必殺の一刺し

 10-15必殺の一刺し



 あたしたちは次なる詰め所へと来ていた。

 


 「しっかし、どういう訳かここの悪魔って変なのばかりね? リッチって召喚する悪魔間違えてるんじゃないの?」


 シェルが軽口をたたく。

 確かに変なのが多いけどかなり強い連中のはず。

 実際に何度もピンチになってるわけだし、ここから先も注意しながらいかなきゃね。


 「シェル、油断は禁物ですわ。確かに変なのも多いですけどやはり強い連中ですわ」


 「そうですね、主様。私が思っていたより悪魔どもって強いですね。とくに精神的にきついのは今後もごめんです」


 コクがかわいらしく口をとがらせながら言う。


 「主よ、扉を開けるぞ」


 そう言ってショーゴさんは次なる詰め所の扉を開ける。



 『来たか。連絡が有った通りだと全員残っているのか?』



 見れば詰所の中央に裸チョッキのダボついたズボン、所々にアクセサリーを付けたアラビア的な服装の両肩に大きな鋏を持ち、尻尾がサソリの尾になった悪魔がたたずんでいた。



 「連絡が有っただと?」


 『ああ、前の連中が音沙汰無くなったのでな様子を見に行かせた使い魔たちからそう連絡があった』



 サソリ尾の悪魔はそう言ってショーゴさんを見る。

 そして肩から生えている大きな鋏をバチンとひと鳴らしする。


 『ここから先へは通さんぞ。人間風情と言えどここまで来たのだ、相応の歓迎をしてやる!』


 そう言っていきなりこっちへ突っ込んで来た!


 あたしは慌てて【絶対防壁】を展開しようとする。

 しかしあたしの前にはショーゴさんが既に異形の兜の戦士に変身してあのオリハルコンの鎧を身にまとい立ちふさがっていた。



 がきぃぃいいぃぃんっ!



 ショーゴさんはサソリ尾の悪魔が振り下ろした大きな鋏をなぎなたソードと短刀で防ぐ。

 そこへクロエさんが躍り出てスカートを翻しながら魔力のこもった蹴りを見舞う。

 しかしサソリ尾の悪魔は冷静にそれをサソリの尾で捌く。


 その隙にあたしたちはこの場を離れ各々がこのサソリ尾の悪魔に攻撃をかける!


 シェルは矢を放ちイオマは頑張って十本くらいの【炎の矢】を撃ち出す。

 クロさんはコクをかばいながら隙を見ているがあたしも既に準備が出来ている。


 クロエさんとショーゴさんが一旦距離を取った所へシェルの矢とイオマの【炎の矢】がサソリ尾の悪魔に突き刺さる。


 が、刺さったかと見えたそれは残像で既にサソリ尾の悪魔はあたしたちの横に動いていた。

 あたしは予想していたことなので慌てずそこへ【地槍】の魔法を発動させると同時に【氷の矢】を放つ。


 『こんなものかっ!?』


 サソリ尾の悪魔は【地槍】で出来た大地の槍を大鋏で防ぎ、飛んでくる【氷の矢】を避ける。

 そこへ魔力を練っていたクロエさんが技を放つ!


 「食らいやがれです! ドラゴン百裂掌!!」


 クロエさんの無数の掌が放たれまるで流星群の様にその光る輝線が尾を引く。

 その数々の光の尾は全てサソリ尾の悪魔に吸い込まれていく!



 がががががががぁがぁぁぁぁっっ!!



 大きな連打の音がしたが見ればサソリ尾の悪魔は平然と立っている。


 『つまらん、この程度だったか? ‥‥‥ぐはっ!?』


 一瞬何事も無かったようなサソリ尾の悪魔だが次の瞬間には胸を押さえる。

 見れば胸にクロエさんの手形がのめり込む様に食い込んでいてそこを爪でむしり取ったかのように傷ついている。



 『そうか、他は全てまやかしでこの一撃が本命か。悪くないが俺には効かんぞ!』


 そう言ってむんっと気合を入れると傷口が盛り上がって元通りに戻る。

 

 「そんな馬鹿な!? 心臓まで傷つけてやったはずでいやがります!」


 しかしサソリ尾の悪魔は肩で笑っている。

 

 『確かに我々悪魔でさえ心臓を攻撃されればただでは済まない。だが貴様如きの掌、俺には通用せん!!』


 びしっと人差し指を刺されクロエさんは悔しそうにする。

 しかし、あたしの見た目では先ほどの技は完全に決まっていてその傷だって心臓に届くほどのはず。

 一体どういう事だろう?



 『心臓の一刺しとはこうやるのだ、受けよ我が最大奥義【カッパーニードル】!』



 そう言ってサソリ尾の悪魔は左手を掲げるとその人差し指の爪が紅黒く輝き濁った光を放ったと思ったらクロエさんの胸に刺さった!



 「いかん! 黒龍様お力を!」


 「はいっ! クロエ!!」



 胸を貫かれたクロエさんはその場でひざを折り倒れそうになるがコクがすかさず両手を広げると淡い光に包まれコクの手のひらへと消えていった。



 「くはっ!」


 コクがその可愛らしい口から吐血する。


 「コクっですわっ!」


 あたしは慌てて駆け寄りコクに【回復魔法】をかけようとするがコクはそれを手で制する。


 「だ、大丈夫です主様。ギリギリ間に合いました。クロエは一旦私と融合して破壊された心臓を再生させます。しばらく時間がかかりますのでクロエはもう参戦できません」


 コクにそう言われあたしは驚く。

 クロさんもクロエさんも、もともとはコクの分身。

 それが破壊され死にそうになった瞬間に自分に取り込みそのダメージを最小限に抑えたのか?

 しかも破壊された心臓の再生をしているって?


 『そうか、あの女は黒龍、貴様の分身だったか。そうするとまだ分身がいるのか? 面倒だ、大元のお前から始末してやる!』


 そう言ってサソリ尾の悪魔は再び構える。


 『【カッパーニードル】!』


 再び人差し指の爪が紅黒く輝き濁った光を放った!


 

 がきぃんぃっ!!



 甲高い音がしてそれはコクを貫くと思われたがとっさに割って入ったショーゴさんに食い止められる!

 見ればショーゴさんのあの新しい鎧にその爪は止められていた。


 『なにっ!? 俺の技を受け止めるとはその鎧、まさかオリハルコンか!?』


 慌ててサソリ尾の悪魔はショーゴさんから離れるがショーゴさんの方が一瞬早かった!


 

 ザシュっ!



 なぎなたブレードの一閃を受けサソリ尾の左腕が切り落とされた!

  

 「ドラゴンクロ―!!」


 クロさんがその後を追うようにあの技を繰り出す!

 それは防御に回った大鋏を切り刻んだ!


 『なにっ!? 俺の大鋏が切られだと!?』


 「我が爪は全てを切り裂く竜の爪! 覚悟!!」


 サソリ尾は『くっ!』と短く叫びながら後退するがそれをクロさんが追いかける。

 大きく飛び退けたそこへクロさんが肉薄する!



 『ふっ、かかったなドラゴンニュート!』



 クロさんが次の一撃を入れる瞬間何かが大量にクロさんの上に落ちてきた!?


 「ぐおっ!?」


 見ればそれは小さなサソリの大軍だった。

 

 「ぐあぁぁぁぁっ!」


 そのサソリたちはクロさんに毒針を突き立てる。

 さすがのクロさんも無数の毒針に一度には対応できずその毒牙を受けてしまう。


 「クロっ!」


 コクは慌ててクロエさんの時と同じようにクロさんを吸収融合する。



 「くはっ!!」



 「コク!」


 さすがに分身二体を一度に融合してその負担をコクが受けたのでコク自身かなりのダメージになってしまったようだ。

 コクはまた吐血してしまう。


 「見ていられませんわ、魔法で治療をですわ!」


 「待ってください、主様。二人の再生を先にしないと今度は分離できなくなってしまいます。私は大丈夫ですから主様はあいつを!」


 見れば小さなサソリたちを吸収してサソリ尾の悪魔は切られた腕と大鋏を再生していた。



 『油断は無かった、認めてやろうお前たちは強い。しかしそれもここまでだ!』



 あたしの前にショーゴさんが立つ。

 

 「ならば次は俺が相手だ!」


 しかしあたしは準備していた魔法をここで開放する。


 「ショーゴさん待ってくださいですわ! 【氷の矢】! 【氷結魔法】!!」


 あたしが放った数百の【氷の矢】がサソリ尾に迫る!

 しかしサソリ尾は笑ってそれら全部を大鋏で撃ち落とし破壊する。



 『無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁっ!!』



 勿論【氷の矢】程度でどうにかできるとは思っていない。

 しかし最初に打ち出した氷の矢はサソリ尾のちょうど後ろの壁に刺さったまま。

 あたしの【氷結魔法】でその力を一気に解放する!!



 びきびきびきびきっ!!



 壁から伝わった氷でサソリ尾の足元がいきなり凍り付けその動きを止める!


 『なにっ!? いつの間に!!』


 しかしもう遅い。

 氷は膝までサソリ尾の悪魔をとらえ動きを封じる。


 『くっ、こんなもの!』


 とサソリ尾の悪魔が大鋏を振り上げた時だった。


 『な、なんだ? か、体の動きが‥‥‥』


 氷の矢がことごとく大鋏で粉砕されてもその破片と冷気は【凍結魔法】で増幅されていた。



 「やはりそうでしたわね。サソリは寒くなると動きが悪くなりますわ。強い生命力で死ぬ事は無くてもその動き自体は悪くなるのですわ!」



 あたしはそう言って【拘束魔法】で魔法のロープをサソリ尾に巻き付ける。

 そしてシェルに指示をする。


 「シェル今ですわ! あのサソリ尾のお尻を狙って矢を放ってくださいですわ! サソリの心臓は尻尾の付け根、お尻の辺ですわ!!」


 「え? いいの?? 分かった!!」


 シェルはすかさず矢を放つ!

 

 それは魔法の矢のように大きく曲がりサソリ尾の悪魔のお尻に命中する。



 ぶすっ



 『ア”あ”あああああああっっっ!!!!』



 へっ?

 なんか変な悲鳴が‥‥‥



 『そ、そこはだめなんだぁっ!!』


 何か叫んでいる所にシェルが続けて矢を命中させる!



 ずぶっ! 



 『ア”ア”アァぁぁあぁぁっ!!』 


 

 更に変な叫び声をあげて白目で泡吹き始めた!?

 なに、なにっどういう事よ!?

   

 「とどめっ!」



 ひゅんっ!

 どすっ!!



 『ぐがあ”あ”ぁぁぁあああああぁぁっっ!!』



 最後にやっぱり変な断末魔を叫びながらサソリ尾の悪魔は動かなくなった。

 何処からともなく「チーン」と音がしてなんとなく魂抜けたような感じで口から吐かれていた物は泡から煙へと変わっていた。


 あたしは魔法の拘束を解くとサソリ尾の悪魔は前のめりに倒れる。

 そしてその勢いでサソリの尾が背中にのしかかる。


 するとお尻が見えて矢が三本刺さっているがぁ‥‥‥



 「シェ、シェル、ま、まさかですわ!?」


 「え? だってエルハイミがやれって言うからそこが弱点だと思って」


 何かショーゴさんがお尻を手で押さえている。


 

 えーと‥‥‥



 「お姉さま、あんな強敵にまで容赦ないなんて! 私にもしてくださいよぉ~」



 い、いや、あたしにはそんな趣味は無い。

 無いったら無いっ!



 「流石主様です。クロエが見たらきっとうらやましがります」


 「コ、コクなんで知っているのですの!?」


 あたしは思わずコクを見る。

 こんなの本当はコクに見せたく無かったのに何が有ったか理解しているみたい。


 「え、えっとぉ、コクにはそう言った趣味は理解できませんがクロエを融合したときにその記憶とかも見れましたからあの変態悪魔の時に何があったかも知ってしまいました。知識では知っていましたが流石に再生された今の私には衝撃ですね」


 そう言ってコクは顔を赤くする。


 

 いやいやいやっ!

 だめ、コクにはまだ早すぎる!

 だめよ、そんなこと覚えちゃ!!

 あたしはそんな風に育てた覚えは無いわよ!



 慌ててあたしはコクの元へ行って言い聞かせる。


 「コクにはまだまだ早いですわ! いいですの、こう言った事は大人になれば自然とわかりますからコクはそんなこと考えてはいけませんわ!」



 「いや、教育上一番問題なのはエルハイミ自身の存在なんじゃないの?」


 「お姉さまいろいろと容赦ないですからねぇ~」


 「主よ、俺にはそんな趣味は絶対にないからな!」


 シェルもイオマもショーゴさんまでもそんな事を言ってくる!?

 あ、あたしを一体何だと思っているのよ!!


 「わ、私だってノーマルですわぁあぁぁっっ!!」




 思わず叫ばすにはいられないあたしだった。  

 

     

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る