第257話9-29閉ざされた国

 9-29閉ざされた国



 あたしたちはミグロさんに連れられて彼らのアジトにいた。



 「隠しても仕方ない、改めて自己紹介する。俺は元ジマ王国の第一王子ミナンテ=ガナ・ジマだ。今はミグロと名乗っている。できればミグロの名で呼んで欲しい。」


 そう言ってミグロさんは握手を求めてくる。


 

 「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンですわ。この子はコク、エルフのシェルとこちらの女性がイオマですわ」



 あたしはミグロさんと握手をしながらシェルやコク、イオマを紹介する。

 そしてショーゴさんを見て


 「ショーゴさんは紹介の必要がありませんわね?」


 「ああ、主よ、その通りだ」


 ショーゴさんはそれ以上何も言わない。



 「ところでミグロさん、どうなっているのか説明いただけますかしらですわ?」


 「勿論だ。少し長くなるが茶でも飲みながら聞いてくれ」


 そう言ってミグロさんは仲間の人にお茶を持ってきてくれるよう頼んでからあたしたちに話始めた。


 

 事の始まりは十数年前にさかのぼる。

 当時イージム大陸の東にあった小国、ジマの国は小さいながらも強力な騎士団を所有し北側の大国イザンカ王国と南の国ドドス共和国にはさまれる形であった。


 王族の努力もあって隣国にもそこそこの影響力を持っていたがそんな国にある日突然に亡者の軍団が押し寄せた。


 ジマの国は抵抗をしたが亡者の王リッチ率いる軍団は倒した相手を自軍取り込みその勢力をどんどんと大きくしていきジマの国全体にその影響は及んだ。

 当時王国は王族を国外にバラバラに逃がしたのだが王子三人とお姫様二人の行方は分からなくなり色々と噂されていた。



 そんな中、ミグロさん事第一王子であるミナンテ=ガナ・ジマさんは国外に冒険者として力をつけていき小規模のレジスタンスを結成してこの国を取り戻そうとしていたそうだ。



 「するとミナンテ様‥‥‥ ミグロ様と一緒にいた者はミグロ様の協力者ですか?」


 「ショーゴ殿、ミグロで構わないよ、むしろ逃亡生活と冒険者の生活が長いのでそう呼んでもらう方が気が楽だ。彼らは元騎士団の者や宮廷魔法使いの者、ジマの国出身者がほとんどだ」


 そう言ってミグロさんは運ばれてきたお茶をあたしたちに進める。


 「地下大迷宮の入り口はイザンカの領地でしたわよね? それが何故結界の中へですわ?」


 あたしの質問にミグロさんは険しい顔をして語りだした。


 「亡者の王リッチが力を増したんだ。噂では地下迷宮の奥底に眠る黒龍様を呪いで取り殺し、その力を得た事によって自分の力を増したそうだ。おかげで国内に生き残ったジマの国の民も近隣諸国の村や町も亡者共に襲われそれに取り込まれていったんだよ。俺たちは生き残った人間を見つけ出しては複数あるアジトに連れ帰っている所だ」


 そう言って悔しそうにする。



 【リッチ】。

 もともとは人間で死霊魔法、ネクロマンサーの魔法に精通した者が究極の力を得る事により自分自身が不死の化け物と化したモンスター。

 外観は干からびたミイラのようだが保有している魔力は膨大で、すべての不死の者を操れるらしい。

 本来はさらに魔道を追求する者が多く、通常はどこかの地下迷宮などで研究を進めているモノだ。


 しかし、人間界の国自体を滅ぼすなどと言う事は異例中の異例。

 滅ぼされたジマの国はたまったものではないが、この十数年来その勢力を伸ばす事も無く大人しくしていたはずなのに‥‥‥



 「私は死んでなどいませんよ? ミグロとか言いましたね、私黒龍はあなたの目の前に居ます」



 コクがずいっとミグロさんの前に立つ。


 「はははっ、お嬢ちゃんそれは大した冗談だ。黒龍様ってのはね黒くて巨大なドラゴンなんだ、お嬢ちゃんのような可愛らしいのとは全然違うんだよ」


 ミグロさんはそう言って笑ったが、コクはどうやら不満のようだ。



 「主様、この無礼者に私の姿を見せます。少し下がってください」


 「ちょと、コク!?」



 あたしの制止の言葉より早くコクはミグロさんの目の前で服を脱ぎ捨て、その体を一瞬光らせて人の背丈くらいある竜の姿に変わった。



 「なっ!? ドラゴンだと!?」



 驚いたミグロさんや仲間の人は思わず後ずさりして身構えたり剣を抜いたりした。


 『やめなさい。これ以上の無礼は許しません。全員消し炭になりたいですか?』


 「コクっ! やめなさいですわ!」


 『しかし主様‥‥‥』


 ミグロさんたちの動きをショーゴさんも抑える。

 

 「ミグロ、これは本物の黒龍様だ。リッチの呪いで再生の秘術を使い幼竜に生まれ変われたのだ。剣を引いてくれ」


 「まさか、本当に?」


 「ああ、間違いない。俺もその場に居合わせた」


 ミグロさんはショーゴさんを見ていたが、どうやら納得したようで仲間たちにも剣を引くように言う。

 そしてコクの前に跪き、頭を下げる。



 「知らぬこととは言え、数々のご無礼どうかご容赦いただきたい。まさか黒龍様にお会いできるとは思ってもみませんでした」



 「コク、もう良いでしょうですわ」


 『主様がそう言うのであれば‥‥‥』


 コクはそう言ってまた人間の姿に戻る。

 するとイオマが慌てて自分の外套をコクにかぶせる。


 「コクちゃん、お姉さまに言われたでしょう? 女の子は簡単に肌を他の人に見せちゃだめです」


 「‥‥‥うん、わかりました。ありがとうイオマ」



 うん、とりあえずは収まったわね。

 さてと。



 「ミグロさん、そういう事で黒龍様は健在ですわ。今は可愛い女の子になっていますが成長すればまた元の黒龍様になりますわ」


 あたしは微笑んでそうとミグロさんは頬を赤く染めてうなずいた。


 「それで状況は大体理解できましたわ。しかし私たちは一刻も早くこの結界を抜け出してガレントに戻りたいのですわ」


 「ガレント? あの西の大陸のガレント王国ですか? エルハイミさん、あなたは一体何者なのです?」


 するとあたしが説明する前にイオマが割って入る。



 「お姉さまはかの有名な『育乳の魔女』ですわ!」



 ちょっとマテ、そうじゃないだろイオマ!

 あたしが訂正しようとしたらミグロさんが動揺する。



 「なんと、かの有名な『育乳の魔女』ですか!? 近寄るものは男女かまわず胸を大きくすると言うあの魔女ですか!?」


 「うおぃっ、なんなんですのそれは!? 男性まで胸を大きくするなんて出来っこないですわ! そもそも私は誰でも胸を大きくするなんて事なんて‥‥‥」


 「お姉さまのおかげで揺れるまでなりました!」


 「私も主様に大きくしてもらいます!」


 「あー、エルハイミ、その件についてはあたしもちょっと相談が‥‥‥」


 一気に仲間内からフォローにならない言葉が!?



 「あ、あのぉ、もしよろしければエルハイミさんにはあとで相談に‥‥‥」



 なんかミグロさんの仲間の魔法使いのお姉さんも変な事言い出している!?



 「まあ、主は実績をお持ちだからな」


 「ちょっ! ショーゴさんまで裏切るのですの!?」


 「やっぱり本物の『育乳の魔女』なんだ‥‥‥」


 ミグロさんのそのつぶやきにあたしは思わず声をあげる。


 「私はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンですわぁっ! そんな変な呼び名は嫌ですわぁッ!!」



 あたしの空しい悲鳴がこだまするのであった‥‥‥

   

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