第258話9-30立ち上がる者

 9-30立ち上がる者



 ここイザンカ王国の端、元ジマの国との境にあるミグロさんのアジトでは今重要な会議が行われていた。


 

 「黒龍様が復活されたならリッチなど恐れるに足らず、今こそ各地に分散している同志たちと共に立ち上がる時だ! そして私は我が父のもとに召されるであろう!」


 ミグロさんの演説は今佳境に入っていた。

 

 「ジマの国の救世主だ!」


 「ジマの国に栄光あれ!!」


 彼を慕う者たちからは絶賛の声が上がる。

 勿論ここに居る人たちも彼に対する信頼は厚いらしい。


 「すごいものですわね、ミグロさんの人気はですわ」


 あたしは率直な感想を言う。


 「もともとミナン‥‥‥ いや、ミグロは父親に似ていた。人の上に立つ器があるんだ」


 ショーゴさんはまるで自分の事のように嬉しそうにしている。

 そして自嘲するかのように語る。


 「俺はミグロの弟、カナンテ様を守り切れなった。カナンテ様は優し過ぎる御方だった。だから俺などの為に‥‥‥」


 ショーゴさんの過去に何が有ったかは大体予測できる。

 今は彼のその体は既に人とは呼べないものになっている。

 あたしたちの双備型魔晶石核が無ければショーゴさんも既に命尽きていただろう。

 

 「主よ、改めて礼を言う。守り切れなかったカナンテ様の原因となるリッチ、その討伐の協力を申し出てもらって」


 そう言ってショーゴさんはあたしに頭を下げる。


 「ショーゴさん、それは私たちにも必要な事だったからですわ。頭をあげてくださいですわ」


 そう、あたしたちはミグロさんに協力してこの結界の元凶であるリッチに反旗を翻す事に成ったのだった。

 これにはもちろんコクも同意してくれた。

 わざわざあの後召喚魔法でクロさんとクロエさんまで呼び寄せて亡者の王リッチ討伐に協力するというのだ。


 「しっかし、実際にはどうするのよエルハイミ? 話を聞く限りリッチの亡者の軍団の数は半端ないのでしょう? しかも倒されるとあちら側に取り込まれてあたしたちの敵になっちゃうんでしょう?」


 「うう、お姉さま、こわ~いぃ!」


 「イオマ、主様に抱き着くのはだめです! 主様の胸は私の居場所です!!」


 イオマはコクにあたしに抱き着くのを阻止され恨めしそうに指をくわえてこっちを見ている。


 「えへへへっ、主様ぁ~」


 コクはイオマの代わりにあたしに抱き着いてくる。

 可愛いのでついつい甘やかせてしまうあたし。

 抱き着いてくるコクの頭を撫でてしまう。


 「くっ、主様羨まし過ぎるでいやがります」


 「黒龍様、つゆ払いは私共がいたします。にっくきリッチに裁きの鉄槌を」


 「コクちゃん酷いよぉ~、あたしにもおすそ分けしてっ!」


 「駄目です、主様は私の主様です」


 ツンと明後日の方を向くコクの様子がまた可愛らしい。


 

 さてと。



 ミグロさんを見ると演説も終わって討伐方法について議論され始めている。

 あたしたちもそれに参加する。



 「まずは死霊四天王を打ち破り元ジマの王城にいる亡者の王リッチを倒す。あの居城は四方に四つの町がある。死霊四天王はその各町に駐在している。一か所を突破して城に攻め込むと側面から攻撃され戦力を削られる。だから同時に四天王が守る町二か所を襲撃してから城へと攻め込む」


 大まかな案はミグロさんがすでに立てているけど問題はこちらの戦力。

 本陣となるミグロさんの部隊が三百人、各地に分散されているアジトの総数で七百人、有志で協力してくれる人たちで二百人、合計で千二百人となる。



 「相手はゾンビやグール、ゴーストの類がほとんどで単体なら脅威にならんが、数が圧倒的に違う」



 ショーゴさんのその一言で場が鎮まる。

 いくら弱くてもその数が多ければ話は違う。

 倒しても倒してもあとからあとから襲われては普通の人じゃ最後に体力切れでやられてしまう。

 魔法使いが魔法で一挙に十や二十の数を倒してもその後にまだまだ襲ってくればやはり同じ事に成ってしまう。


 「そこで話に聞く黒龍様にご協力いただきたいのだ。聞けば迷宮入り口にいたゾンビ共を一瞬で焼き尽くしたとか」


 ミグロさんのはあたしたちに視線を向ける。

 一斉に視線を浴びたコクは瞳をぱちくりさせている。



 あ、このしぐさ可愛い~



 「主様、私がゾンビ共を焼き尽くせばいのですか?」


 「手伝ってもらえますか、コク?」


 「主様のご命令ならば何なりと!」


 そう言ってあたしに抱き着いてくる。


 確かにコクのドラゴンブレスは強力だ。

 あの時迷宮の前にいたゾンビ共は少なくても数百はいたはず。

 それを一息で焼き尽くすのだから普通のドラゴン以上の攻撃力だ。



 「黒龍様の手を煩わせるまでも無い、つゆ払いは私めにお任せを」


 「汚物は消毒いたします。黒龍様、どうぞこのクロエにお任せください」



 そう言ってクロさんもクロエさんも膝をつきコクに頭を下げる。

 この二人が手伝うなら数千のゾンビたちが押し寄せても何ら問題無いだろう。



 そうすると‥‥‥



 「ミグロさん、その死霊四天王とは一体何なんですの?」


 「死霊四天王、亡者の軍団を率いるリッチの配下だ。首なし騎士のデュラハン、破壊の権化オークゾンビ、剣豪ソードスケルトン、そして闇の支配者吸血鬼バンパイヤ」


 見事に死霊の軍団そのものだった。

 

 「こいつらが四つの町に駐屯していて亡者の王リッチを守っている」


 ミグロさんはそう言ってあたしを見る。

 あたしは学園にいた時の記憶を引っ張り出し言われたモンスターたちの事を思い出す。

 面倒なモンスターばかりだけど今のあたしたちなら対処できないレベルじゃない。

 

 「わかりましたわ、私たちも全面的に協力いたしますわ。それで決行はいつ?」


 「他のアジトとの連絡もあるので一週間後、北と西のデュラハンとソードスケルトンがいる町から攻め込む」

 

 「わかりましたわ、それで配置は?」


 ミグロさんはテーブルの地図を指さし話す。

 

 「ソードスケルトンは直接攻撃が通用するが、問題はデュラハン。呪いや魔法を使ってくる。ですので黒龍様にはデュラハンの方を、俺たちの方はソードスケルトンの方を相手にする」


 この二点を突破してリッチの居城に攻め込むのか。

 うーん、他の二体も気になるけど短期決戦しないと兵力も無いし仕方ないか。



 決行は一週間後、あたしたちはミグロさんたちと共に立ち上がるのだった。

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