第253話9-25ママ

9-25ママ



 黒龍様の卵にひびが入っていた。



 「エルハイミ、これって間違いなくひびよ!」


 「ええ、そうするといよいよ黒龍様の復活ですわね!」



 他のみんなもそのひびに注目する。

 しばし見る事、卵が振動してひびが広がった。



 「おお、黒龍様が孵化される」


 「黒龍様!」


 クロさんもクロエさんも期待の眼差しでその様子を見ている。

 竜の孵化なんて珍しいもの滅多にみられるもんじゃない。

 しかも太古の竜の再生だものレア中のレアだ。



 あたしたちは固唾を飲んでその様子に見入る。



 「クロ様、竜の孵化には何か準備する物って必要なのですの?」


 「主様、クロで構いません。孵化にはすべて自力で出来ます。親竜はただその様子を見るだけです。特別何かをすることはありません」


 クロさんはそう言って卵を見つめている。

 


 ぴきっ



 今の振動でひび割れが一気に進んだ!

 ひびがどんどんと広がっていく。

 そして‥‥‥



 ぱきんっ!



 大きな音がして一気に一部分が剥がれ落ちた。

 いよいよ小さな竜が見れる!


 あたしは期待しながらその剥がれ落ちた部分を見るがなんか色が違う?



 ぱきぱきっ

 ぼろっ


 にょきっ!



 剥がれ落ちた所から一気にひびが広がり卵の殻が割れ、剥がれ落ちる。

 そしてそこから伸び出た赤ちゃんのお手々‥‥‥



 「えっ? えええっっですわっ!!!?」



 なんと卵から飛び出たのは人間の赤ちゃんの手だった。

 

 「なんと、黒龍様は人型でお生まれになったのか!?」

 

 「そんな、黒龍様っ!」


 クロさんとクロエさんも驚いている。

 卵なんだもの普通は竜の姿で生まれると思うわよね?

 あたしも意外だった。



 ぱきん、ぱきんっ


 にょきっ!

 ぼこっ!!



 卵の半分から上がバラバラと割れて中から可愛らしい黒髪の女の子の赤ちゃんが出てきた。

 

 「クロ様、とにかくお湯と毛布を! あ、お湯は私が魔法で!」


 生まれ出た黒龍様は体中がぬめぬめとした液体でまだ覆われていた。


 

 くふぅうぅぅぅぅ



 呼吸が始まる。

 ああっ、早く洗ってあげなきゃ!



 あたしは魔法で水生成しながら温度を上げお湯にする。

 そして慌ててクロエさんが持って来たタライにそれを入れ、黒龍様をそっと抱きかかえその中で湯浴みさせる。

 表面についていたぬめぬめした液体はすんなりお湯で洗い流せた。

 奇麗になった黒龍様をあたしはクロさんが持ってきたタオルで拭いてあげてから毛布に包む。



 「ふうぅ、呼吸は始めているからこれで一安心ですわ」



 あたしは黒龍様を抱きかかえたまま安堵の息を吐いた。

 すると黒龍様が目を開いた。

 

 黒い大きな瞳があたしを見る。


 

 うあぁっ、可愛いっ!



 思わずにっこりとほほ笑んであたしは黒龍様を見る。

 すると生まれたばかりなのに黒龍様がしゃべった。


 「ママ?」


 「へっ?」


 黒龍様はあたしを見て発声第一に面妖な事を言った。



 「ママぁ~ (にぱっ)」



 満面の笑みで無邪気に両手をあたしに差し出す。


 ちょっとまて、ママってどういう事よっ!?

 あたしは驚きのあまりクロさんたちを見る。


 「どうやらまだ記憶が戻っていないようですな。主様を最初に見て自分の親と思い込んでいるご様子。下級竜の子供にはたびたび起こる事です」


 「うっ、人間風情に黒龍様がその可愛らしいご様子を見せるとは! なんてうらやまけしからんです!!」


 クロさんの説明は分かったとしてもクロエさんは何故血の涙を流す!?

 あたしが当惑していると黒龍様は両手であたしの顔をぺちぺちと触っている。



 ううっ、どうしようこれ?



 「エロハイミ、とうとう黒龍様を妊娠させたわけ? あの黒龍様よりだいぶエルハイミに似ていない??」



 へっ?

 何変な事言ってんのよ、シェル?



 「あれ? そう言えば何となく目元とか唇の形とかお姉さまに似ている??」



 イオマまで変な事言いだす。

 そんな訳有るはずが‥‥‥


 あたしはしばしあたしの顔をぺちぺちする黒龍様をよく見る。



 ‥‥‥


 おやぁ?




 「あ、主様、手籠めにしていないと言いやがったですよね!?」


 「うむ、確かに人型の黒龍様と顔つきが違うな、どちらかと言うと主様に似ているのか?」


 「主よ、とうとう女の身で子供を授かる方法を見つけたのか? 流石我が主だ、その魔道感服する」


 クロエさんもクロさんもショーゴさんまでも変な事言い出す。

 あたしは錆び付いた機械人形のようにシェルに首を向ける。


 「シェ、シェルぅう、これは一体どういう事ですの? 私、黒龍様に指一本触れていませんわよ!?」


 「うーん、もしかしてエルハイミが卵に魔力注ぎ込んだんで受精でもしたんじゃない? 魚みたいに??」



 あたしは魚類かいぃっ!!



 と言うか魔力で受精って何っ!?

 そんな事が出来るならあたしが魔力注ぎこんだティアナなんてとっくの昔に腹ボテじゃないっ!?


 

 あたしは大いに混乱している。 



 本当だよ、あたし何もしてないもん、妄想でちょっと大人バージョンの黒龍様と楽しんだけど実際には指一本触ってないわよ!?



 「うむ、確かにそれはあるやもしれん。もともと黒龍様の魂自体は主様と融合なさっている。そこへ再生の秘術で卵になったとこへ成長促進で主様の魔力を注がれれば必然と主様に似るやもしれん」


 クロさんが状況分析をしてくれる。

 クロエさんは歯ぎしりしながらあたしを睨んでいる。


 「でも、魔力を、魔力を注ぎ込んだくらいで私に似るモノなのですか?」


 あたしはクロさんに聞き返す。


 「本来はその地のマナを魔力還元して吸収しますが、他者より魔力供給をしたという前例はありません。しかも黒龍様クラスの卵が満足するほどの魔力を毎日与えるなどあり得ない。それをたったのひと月ほどで成し遂げたのです。本来竜の姿で生まれるのがいきなり人型で生まれ出るのです、主様の影響が有ったとしか言いようが有りません」



 あうっ!



 そうするとあたしのせいで黒龍様があたしに似たって事!?

 あたしはだんだんと額に脂汗をかく。



 これはもしかしなくてもやっちまったか!?



 「あーあ、ティアナになんて言えばいいのかな? エルハイミの子供ですって言ったら大変だよね?」


 「シェ、シェルぅっ! 何てこというのですの!! 私の子供のはず無いでは無いですか!!」


 「ママぁ~」



 あうっ!

 


 こ、こ黒龍様、早く記憶取り戻してぇっ!!



  

 あたしは本気で頭を抱え込むのだった。 

 

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